書籍3巻発売記念SS 『酔った姿が見たくって』
本日、完全書下ろしの書籍3巻が発売となりました!
それを記念してのSSとなっております。
結婚して半年が経った頃。
(そういえば、ルカ様が酔い潰れた姿って見たことがないような?)
いつものふたりだけの夕食の時間、麗しい婿を見ながらヴィエラはふと思った。
ヴィエラが飲みすぎてベッドに運んでもらったり、肩を貸してもらったりなど、介抱してもらったことは何度かある。
しかしヴィエラが世話をしなければならないほど、ルカーシュは酔った姿を見せたことがない。
ふたりで同じ量を飲んだら、基本的にヴィエラが先に夢の世界へ旅立ってしまうのだ。
(酔ったらどうなるか、気になりすぎる! 笑い上戸、泣き上戸、それとも怒り上戸? 少し卑怯かもしれないけれど⋯⋯こっそりルカ様には強いお酒を出したらいけるかな?)
一度興味が湧いてしまったら、気になって仕方がない。
夕食を食べ終わるタイミングで、ヴィエラは提案してみた。
「ルカ様、今夜は晩酌しませんか? ジュースで割ると美味しいと噂のお酒をお父様から頂いたんです」
毎回ヴィエラが先に酔っ払ってしまうため、普通に飲んだらルカーシュを潰せない。
割って飲むタイプのお酒なら、配合を誤魔化しやすいだろうと思っての提案だ。
もちろん、ルカーシュの方がお酒の濃度は濃いめ。
そして、お酒が好きな彼の答えは当然⋯⋯。
「へぇ、どんなお酒か楽しみだな。飲もうか」
「では準備しますね」
それから二時間後。
狙い通りに、酔いが深まったルカーシュが出来上がった。
「はぁ…、暑っ」
ルカーシュは頬を赤く染め、やや気怠そうにシャツのボタンを外す。どこかアンニュイな雰囲気が漂い、色気がただ漏れだ。
妻であるヴィエラすらも、心臓の鼓動が速まる危険レベル。
英雄ファンが今のルカーシュを見たら、間違いなく鼻血を出すか失神するだろう。
(なんか、罪深いことをしてしまった気分……!)
ヴィエラは慌てて、冷たい水をルカーシュに出した。
「どうぞ、飲んでください。スッキリしますよ」
「……仕組んだな?」
ルカーシュのブルーグレーの瞳が、ギラリと光る。
「え?」
「同じ量を飲んだはずなのに、いつも先に酔う君に気遣われるなんておかしいじゃないか。俺に何をした?」
そう言ってルカーシュはヴィエラを引き寄せると、膝の上に乗せて腕の中に閉じ込めた。
答えるまで逃がさんとばかりに、ぎゅっときつく抱き締める。
「ヴィエラ、俺を先に潰して何を企んでるの?」
「〜〜っ」
「言うまで離さない」
色気MAXの低音ボイスがヴィエラの鼓膜を揺らす。
向けられる彼の眼差しは酔いのせいで鋭さが半減している分、艶っぽさが増している。
「完全に酔っ払ったルカ様を見たことがなかったので、興味本位で潰そうとしました! ごめんなさい!」
本人の知らぬところで潰そうと画策するなんて最低かもしれない。
今更ながら罪悪感に苛まれたヴィエラは、すぐに白状した。
怒られる覚悟をして、ルカーシュの腕の中でプルプルと震える。
「なんだ。そんなことか」
ヴィエラの心配とは裏腹に、ルカーシュはあっさり許す意志を見せた。
「怒らないんですか?」
「俺のこと知りたいと思ったからの行動だろう? 可愛いとしか思わない」
「許してくれて、ありがとうございます!」
なんて寛大な婿様だろうか。
ヴィエラが感動しきった目で見つめると、ルカーシュは深ーいため息をついた。
「ルカ様?」
「どうして俺の妻はこんなに可愛いのだろうか?」
「へ?」
「腕に収まり切るこのサイズ感がたまらない。綺麗な右巻きのつむじがよく見えるし、キスしやすい高さなのも最高だ」
急にルカーシュが語り出す。
「ほら、すぐに顔を赤くするのも可愛い。なんでそんなに照れ屋なんだ? 君は可愛いと、今までもたくさん伝えてるのになぁ〜まだ慣れないんだ?」
「そ、それはルカ様が色っぽすぎるからで……!」
「はは、そんなはずはないだろう。特に色仕掛けしているわけじゃあるまいし」
ルカーシュはヴィエラのイエローブロンドの毛先を指に絡めると、口づけを落とす。
「ヴィエラの髪はふわふわで柔らかいなぁ。少しクセがあるのがまた可愛い。いい香りもするし、ずっと触っていたい」
「ルカ様……?」
「ちなみに君の可愛いところは髪だけじゃないからな? ピンク色の瞳は完熟の桃のようで可愛いのはもちろん甘そう。直接キスできないのが残念だ」
「あのぉ」
「それに俺よりずっと小さいのに、その小ささを感じさせないくらい頑張る姿が本当に可愛い。爪なんて、本当に小さくて……指も折れそうなほど細いのに、次々と魔法を紡いで凄いよなぁ。一生懸命な姿を見ていると心がくすぐられる」
ルカーシュが語る。
ヴィエラが話しかけてみるものの、彼は淡々と語り続ける。
「はは、まだ赤くなるんだ。可愛いなぁ」
「ルカ様、とりあえず放していただいて……」
「見た目ももちろんだけど、行動も可愛いから困る。恥ずかしがりながらも、色々とおもてなしを用意してくれるところとか本当に好き。前の俺の誕生日のときだって、いつもとは違う寝間着でセク」
「わぁぁぁああ! 思い出させないでください~~!」
ルカーシュが静かに語る一方で、ヴィエラは恥ずかしさがどんどん増していく。
結婚して初めての彼の誕生日だからと気合をいれたものの、デザインを攻め過ぎてすでにヴィエラの中では黒歴史になっている。
例のセクシー寝間着は、クローゼットの奥底に押しやって永遠の眠りにつかせようと思っているところだ。
「刺繍も苦手なのに、俺のためにハンカチをいくつか刺してくれてさ……ちょっと歪なところが癖になる。ガタガタの縫い目を見ると、健気さが伝わるというか……愛されているなと伝わるというか」
「~~~~そろそろベッドに行きませんか?」
「声も可愛いな。そうそう、刺繍の続きなんだが、特にティナを模した刺繍がマスコットみたいな仕上がりが可愛くて、何度も見てしまう。先日ティナにも見せたんだが――」
もう駄目だ。何を話しかけてもルカーシュが止まらない。
(ルカ様は酔ったら独りで語るパターンだった。しかも私に関することばかりだなんて……! こうなったら、ルカ様が寝てしまうまで待つしかなさそう。これだけ酔っていれば、寝るのもあと少しだよね?)
ヴィエラは諦めて、羞恥を耐え忍ぶ道を選んだ。
その後ルカーシュのヴィエラ語りは何度か同じ内容を繰り返し、一時間後に力尽きた。
しかも彼はヴィエラを抱き締めたまま寝落ちしてしまったため、腕の中から抜け出すのも一苦労。
その上、ヴィエラの力では寝てしまったルカーシュをベッドまで運べない。何とか横向きに寝かすことはできたものの、彼の長い脚がソファから盛大にはみ出す始末。
「……うん。二度と私から潰さないようにしよう」
ルカーシュが酔ってしまったらヴィエラが恥ずかしい思いをする上に、想定以上の長時間だった。そしてベッドに運ぶこともできず、罪悪感が刺激される。
彼自ら潰れるほど飲みたいとき以外は何もしない――と、ヴィエラは決意しながらルカーシュに毛布を掛けた。
ちなみに、翌日ルカーシュは二日酔いになることなくケロッとしていた。
しかも記憶は全部あるようで。
「あのさ、昨夜の姿は忘れてくれないか?」
ルカーシュが珍しく恥じらいながら、ヴィエラにそうお願いを口にした。
そんな彼の姿はあまりにも可愛くて、また見てみたいという気持ちが刺激され……昨晩の決意が早くも揺らいだヴィエラだったのだった。
お読みくださりありがとうございます!
書籍三巻でも、お酒を飲んでいるふたり!
ルカーシュの因縁の相手=敵国のエースが登場したり、今まで以上にヴィエラが魔法で活躍したり、例の失恋ボーイの絡みもあったり!酔い知ら婚の魅力もりもりでご用意しております。
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