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コミカライズ開始記念SS『育ての親の思うところ』

本日よりcomicPASH!neoにてオオトリ先生作画によるコミカライズが始まりました!

記念SSとなっております!またSSのあとには追加お知らせも……!



 ある日、ユーベルト子爵邸からルカーシュとヴィエラが住む家に緊急信号が送られて来た。

 ルカーシュがヴィエラとともに丘の上にある屋敷へ向かえば、屋敷の裏ではアルベルティナと二頭のグリフォンが睨み合っていた。



「ルカーシュ君~! 朝起きたら、知らないグリフォンが増えていたんだよ」

「ティナさんが私たちを守ってくれていると思ったんだけど……それにしても様子がおかしくて」



 義父トーマスと義母カミラがオロオロと裏口からそっと顔を出しながら、ルカーシュに教えてくれた。

 確かに見たことがないグリフォンが二頭いる。そばに人間の姿が見えないことから、神獣騎士や神獣乗りとは契約していない野生のグリフォンらしい。



「ヴィエラも義父上たちと一緒に裏口で待っていてくれ」

「はい」



 野生のグリフォンは遠慮というものが欠けている。念のためヴィエラを義両親に預けて、ルカーシュはアルベルティナの隣に立った。

 すると二頭のグリフォンは、近付いてきたルカーシュに好戦的な視線を送ってきた。

 一方でアルベルティナは、カミラの言った通り相手を威嚇しつつも、遠慮が感じられる。いや、困惑している雰囲気のほうが強いかもしれない。



「ティナ、この二頭は一体」

「キュ、キュル……」

「く、口説かれている!?」



 この二頭は、アルベルティナに求婚するため王都から追いかけてきた雄のグリフォンらしい。

 しかも彼らはアルベルティナを巡って対立しているようで、彼女に対して「今すぐ、俺たちから選べ」と迫っているようだ。

 思いもよらないグリフォンの訪問理由に、ルカーシュの目から光が消えた。



「キュルルル」

「それでティナは、彼らをよく知らないから今すぐは無理と伝えているのに、聞いてくれなくて困っていると……ほぉ?」



 アルベルティナは卵から生まれたときから、ルカーシュ自ら大切に育てたグリフォンだ。

 それはもう可愛がって育ててきた。

 いわば妹であり娘と言えるような、目に入れても痛くない存在。

 そんな可愛いアルベルティナになかば無理に迫り、手に入れようとしている雄のグリフォンたちにルカーシュは苛立ちを覚える。



(突然やってきて、結婚だと? 手塩にかけて育てた側の気持ちも知らないで――……待てよ。俺も同じことをしたような……?)



 初めてユーベルト領を訪問したときのことを、ルカーシュはふと思い出した。

 前もって連絡もせずに訪れた上に、ヴィエラとの婚約を決めたと義父たちに事後報告した自身の姿を。

 娘が突然知らない男のものになる親の葛藤を今、ルカーシュは身を持って知る。

 急に申し訳なさが込み上げた彼は、後ろを振り返って謝罪した。



「……っ。義父上、義母上、二年前はすみませんでした。ヴィエラとの婚約について、急な話で困らせてしまいましたよね?」



 ヴィエラの誘いがきっかけだったとはいえ、すでに恋に落ちていたルカーシュは、絶対に義両親が断れないように振舞ったのだ。

 本当は思うところがあったのだ――と、義両親に叱られても仕方ないと覚悟する。

 しかし、裏口から顔をのぞかせていたトーマスとカミラは揃って笑みを返す。


「確かに驚いたけれど、相手がルカーシュ君だったからね。ヴィエラを幸せにしてくれそうだったから問題ないよ」

「そうよ。それにルカーシュ君は有名で、全く知らない男性じゃなかったし。気にしないで」

「~~ありがとうございます!」



 ルカーシュは義両親の寛大さに改めて感謝した。

 同時に、見習うべきだと感じた。



(そうだよな。最初から拒否するのはよくない。二頭がどんなグリフォンか知ってからでも、判断は遅くはないだろう。そもそも、相手を受け入れるかどうかはティナ本人の気持ちが重要だ。義父上と義母上のように、俺もどんと構えられるようにならなければ)



 アルベルティナは今年で十八歳。

 グリフォンという種族であることを考慮しても子どもとは言えず、早ければ番を見つける年頃に入っている。

 一度冷静になることを意識したルカーシュは、二頭の雄グリフォンに向き直ろうとしたのだが……。



「キュキュキュ!」

「キュウウウウ!」



 何か文句を言うように、二頭のグリフォンがルカーシュに強く鳴いた。

 神獣騎士とて、契約していないグリフォンの言っている言葉は分からない。ルカーシュが通訳を求めるようにアルベルティナに視線を向ければ、彼女は心底嫌そうな表情を浮かべた。



「キュ~」

「口説いている邪魔をするな? うるさいから人間たちは引っ込んでいろ……だと?」



 プツンと、ルカーシュの頭の中で何かが切れる音がした。



(うん。やっぱり許せん)



 グリフォンは我が国の神獣であり、敬うべき相手だが、今回だけはそう思えない。

 義理と筋を通せないものが、アルベルティナを幸せにできるとは考えられなかった。

 


「ティナの気持ちを考えずに、選べと迫り。義父上たちの裏庭に勝手に入って、迷惑をかけておいてその態度――……なんて礼儀知らずなんだ! ティナと番になろうなんて、俺は認めない!」

「「キューーーー!?」」



 人間から強気な態度を取られたのが初めてだったのか。二頭のグリフォンはぎょっと驚くが、瞬く間に怒りを露わにする。

 二頭は魔法を発動させようと、大きな翼を広げた。

 だが、ルカーシュも引かない。睨み上げ、吹き飛ばされる覚悟で対峙した。

 彼の気迫に押された二頭は一瞬だけ怯むものの、グリフォンとしてのプライドが勝る。

 そうして風魔法を発動させたそのとき――。



「キィィィィイ!」

「「ギャンッ」」



 アルベルティナが「うるさいのはあななたちよ!」と前脚で強烈なパンチを繰り出し、二頭まとめて裏庭の奥へと吹き飛ばしてしまった。

 転がった二頭は目を丸くして、アルベルティナを見る。



「キュキュキュ!(ルカを攻撃しようなんて許さない!)」

「「キュ」」

「キュゥゥウウ!(あなたたちが褒めてくれた美しさは、ルカがそうなるように育ててくれたからよ。ルカを否定するってことは私を否定することなの!)」

「「キュ!?」」 



 怒り心頭のアルベルティナを前に、二頭の勢いは一気に萎んでいく。



「キュキューキュ!(私を可愛がってくれるヴィエラとその家族に対しても、もう一度軽んじたらパンチじゃ済ませないわよ)」

「「……キュゥ」」

「キュキュ(そもそも私より弱い雄には興味ないのよね)」



 アルベルティナが最後に鼻で笑い飛ばすと、二頭のグリフォンは完全に固まってしまった。

 あまりにも痛快な振りっぷりに、ルカーシュの怒りもすっかり晴れる。彼はアルベルティナを褒めるように首元を優しく撫でた。



「ティナ、いいのか?」

「キュ♪」



 アルベルティナもまた、すっきりした顔だ。

 しばらくはルカーシュのことが一番だと、甘えるように頬ずりしてくれる。



(まだティナを嫁に出すことはなさそうだな)



 神獣騎士の相棒として戦闘を経験しているアルベルティナは、小柄な雌であっても相棒のいないフリーのグリフォンよりはるかに強い。

 そして人間を相棒に持つグリフォンは、そもそも数が少ない。

 つまり、アルベルティナの条件にマッチする番候補はなかなか出てこないということだ。

 そのことにルカーシュは安堵したのだが……。





 一か月後。



「まだ王都に帰ってないのか?」



 盛大に振られたはずの二頭のグリフォンが、ユーベルト領の廃鉱山に住み着いていた。

 理由を聞けば、アルベルティナの美しさだけでなく強さにまで彼らは魅了されたようで……。

 番ではなく、まず舎弟になると決めたらしい。

 ユーベルト子爵家に迷惑をかけないよう廃鉱山で暮らしながら、今はアルベルティナから強さを学び、いずれ求婚のリベンジをするのだとか。



「「キュ!」」



 彼らは心を入れ替えたように、アルベルティナの育ての親であるルカーシュを見つけると、しっかりと挨拶をした。

 何を言っているか正確には分からないが、『オッス、兄貴!』という幻聴が聞こえてくる。



(いつか、どちらかがティナの番になるのだろうか……)



 相棒以外のグリフォンから敬意を向けられるのは本来光栄なことなのだが、ルカーシュの気持ちは非常に複雑。



(未来にどれだけ立派なグリフォンになるのか分からないが、受け入れられる自信がない。本当に、突然現れた俺を受け入れてくれた義父上と義母上に頭が上がらないな)



 ヴィエラをとびっきり大切にすることで、義両親に恩返しをしなければと固く誓ったルカーシュであった。


お読みくださりありがとうございます。

改めまして、comicPASH!neoにてコミカライズが始まりました!

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そして皆様の応援もございまして

◤原作ノベル書下ろし3巻刊行決定◢

WEB後のふたりのお話をお届けできることになりました!

引き続きよろしくお願いいたします!

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