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砂漠を渡った娘の話〜消えない提灯の作り方〜  作者: 園田 樹乃


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6/6

旅の終わり

「ここからが、成人の試練です」

 そう言って、導き手が甕から汲んだ酒を椀に注ぐ。

 砂那たち四人に渡された椀には、スコールの季節にできた濃い紅酒が満たされていた。

「これを飲むことで、あなた達はオモウサマになります」

 

 成人の試練は二通り。

 紅酒を飲んでオモウサマとなり、伴侶を見つけ出す。

 あるいはオモウサマに見初められて、伴侶の契りを結ぶ。


 成人した女性は故郷で家長となり、提灯を売るための旅を繰り返す。身体が小さく体力に劣る者は、オモウサマになる。

 そう説明されて覚悟を決めた四人が、椀に口を付ける。

 喉を灼く酒の熱が、体を侵す。


 一日に一椀ずつ紅酒を飲み進める砂那たちが、甕を空にするまでの間に体は少しづつ変化をしていく。

 砂那がまず気づいたのは、白くなった手指だった。殊に爪は貝殻の裏のように虹色に輝いて、硬く幅広になっていく。

 毛先の方から髪も白くなり、やがて視界のあちらこちらで四色が渦を巻く。 

 そして、次第に食事を運んできてくれる酒造り班の人たちの区別がつかなくなり、四色の人形(ひとがた)のように見えてきたころで、砂那たちはオモウサマの長に呼ばれた。



 最も大きな腕輪を身につけている長から、提灯作りを始めとしたオモウサマとして生きていくことを教わる。

 眩しい光を避けるために、日中のオモウサマたちは崖に掘られた洞窟で過ごす。

 各々が提灯作りの鍛錬に励む個室は、迷路のように張り巡らされた通路で繋がり、崖肌に二カ所ある開口部で彼らが食事をとる建物の二階部分と接している。

 日が暮れるころにオモウサマたちは建物の方へと移動してきては、食事を摂ったり横になって身体を休めたり、夜には露台から外の空気に触れることもある。

 

「やっと掛け衣ができたんだね?」 

 初めて露台に姿を見せた砂那に、隣の長椅子から声が掛けられた。

「はい、なんとか」

「いい模様が入ったねぇ」

 そっと伸ばした手が、砂那の被った衣を撫でる。


 夜の露台とはいえ、オモウサマたちは無防備に外へ出ない。

 人の理を外れた彼らの血液や涙、さらには切った髪の毛や爪にさえも魔力が宿るので、頭から衣を被って身を守る。

 衣は、この島で採れる植物の繊維に、自身の髪の毛と空に舞う四色の靄を編み込んで作り上げる。

 これも長から学んだ技術の一つであり、掛け衣を被ることで、彼らの姿はオモウサマ同士にしか見えなくなる。

 そうして星明かりの下で、ゆっくりと食事を楽しみながら、仲間たちと交流を深めるのだ。



 提灯を作る練習に日々を過ごすうちに、スコールの季節が来ては島の住人が入れ替わる。

 幾度目かのスコールの季節を迎えたある夜。

 雨上がりの蒸し暑い露台で、三人の仲間たちと盃を重ねていた砂那は、広場を横切る人物に気づいた。 

 四色が渦巻く人型として見えている数人の中に、一人だけ月明かりに照らされた表情がはっきりと見える。

「見つけた……かもしれない」

 呟く砂那に、仲間たちが盛り上がる。

 オモウサマにとって特別な、ただ一人の伴侶。

 次の儀式で島を出ることになりそうだと、砂那は無意識に腕輪を握った。


 そうして迎えた儀式の夜。

 篝火を囲んで酒を酌み交わす女性たちを、砂那たちも露台から酒を飲みつつ眺める。

 程よく酒が巡った頃合いを見計らい、掛け衣を被った砂那は、はっきりと表情の見えているただ一人を目指す。


 酒に酔い、歌い踊る女性たちの目をかすめるようにして求める人の隣へと辿り着いた砂那は、その肩を軽くたたく。彼女が振り返るのを確認して、姿を隠している掛け衣から頭を出す。

「私の伴侶になっていただけますか?」

 島へ来る直前に作ってもらった最後の腕輪を差し出すと、驚きに目を丸くした彼女は両手で押し頂くように受け取って。

「では、一緒に森の里へ来てくださいますか?」

 自分の右手の腕輪を砂那へと渡す。


 成人を果たした砂那は、これから森の里のオモウサマとして、伴侶と寿命を共にする。

 砂の里へ帰ることも、ここで書いた手記が故郷に届くことも永遠にない。


 ただ、いつの日か。

 砂那をオモウサマ(お父さま)とした娘の腕輪が、砂の里へ戻る日が来るかもしれない。


END.

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初は興味深い提灯のありさまに魅せられ、次に提灯の民の独特な生活に興味をそそられ、オモウサマの使う幻想的なわざに目を見張り、成人の儀が始まってからはもう固唾を呑んで夢中になって見守り続けて…
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