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砂漠を渡った娘の話〜消えない提灯の作り方〜  作者: 園田 樹乃


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成人の儀式

 砂那が村で暮らす決心をしてから、さらに隊商が一巡りした、ある晩のこと。

 ふと気付くと、砂那の腕輪に露がついていた。

 拭いても拭いても水が滲み出てくる腕輪に当惑した彼女だったが、尭那と琰那は砂漠を渡っていて留守だった。

 澗那やその下の妹たちはもとより、二階のオモウサマに尋くわけにもいかず、夜明けを待って尭那の姉妹である尭烙(あきや)の家を訪ねた。


「成人の島に呼ばれたんだよ。砂那」  

 尭烙の説明によると、これは『腕輪が泣く』と呼ばれる現象であるらしい。

 旅に出るのは琰那より後だと思っていた砂那は、少々狼狽えたが、どうやら成人と腕輪の大きさは関係していないようである。



 旅の準備は、保存食作りから始まる。

 尭烙を中心とした留守番の大人たちと一緒に作業をしているうちに、隊商が村へと戻ってきた。


「次の腕輪に元の名前を彫るかい? 故郷の思い出にいるなら……って、オモウサマが言ってるけど」

 荷解きもそこそこに尋ねる尭那に、砂那はしばらく腕輪の文字を眺めてから、首を横に振った。

「『砂那』の名前だけを抱えて行こうと思います」

「じゃあ、『尭那の家の砂那』として儀式を受けておいで」

 そう言って尭那は、泣き続ける腕輪ごと大きな手で砂那の腕を握った。


 隊商が戻ってきたので、舟の準備が始まる。

 砂那たちが漁で使っている三人乗りの舟の一つに屋根や壁を作り足し、軒先には提灯も灯す。帆には砂那の故郷の特産品であり、尭那たちが買ってきたばかりの麻布が使われる。



 そして準備がほぼ整った、下弦三日月の夜。

 オモウサマの部屋に呼ばれた砂那は、新しい腕輪を右腕に嵌めてもらった。腕輪には新たに数文字が、加えられていた。

「この文字は……?」

「これが砂那にあげる最後の腕輪だからね。私がオモウサマになる前の名前も添えてあるんだよ」

 もしも元の名前を彫って欲しいと希望していれば、この部分には『シャーナ』と彫られていたらしい。


 提灯の民としての名前に添えて刻まれた、両親(ふたおや)の名とともに、砂那は故郷に背を向けて再び旅立つ。


➖➖➖➖

【手記より】


 村で記入した帳面は、尭那さんに託して領主様へ届けてもらうことにしました。

 成人の儀式については、新しい帳面に記しておきます。


▷▷成人の島

 地図のない大海原の帆走は、砂漠を渡ることと似ています。提灯と腕輪に守り導かれていると信じて、風に従ううちに島影が見えてきました。


 今回、島に呼ばれたのは私を含めて、六人です。 

 ここでは尭那さんたちと暮らした村を、『砂の里』と呼びます。他に『氷の里』や『山の里』、『沼の里』などがあり、どの里も商いのために過酷な旅を重ねるそうです。


 島には二棟の建物があります。浜に近い平屋の建物で寝起きをします。

 もう一つ、崖を背にした二階建ての大きめの建物では、二十人ほどのオモウサマが暮らしています。


▷▷島の暮らし

 島では導き手のお姉さんを中心に、畑作や狩漁をしていますが、二回目の満月が過ぎた頃、新入りの私たちはオモウサマたちが住む建物へ行くように言われました。


 建物の中は、尭那さんの部屋によく似た甘い香りがします。

 この日から四人のお姉さんたちに教わって、森で採れた果実でお酒を作ることになります。

 初めてのお酒が出来上がった時には、味見をさせてもらいました。濃い果汁が爪の先まで染み込んでくるような気がするお酒でした。


 出来上がったお酒は壺に詰めて二階へと運び、普通の食事を摂らないオモウサマの主食になります。お酒のほかにオモウサマが口にするのは、干した魚を一日に一口か二口と聞きました。

 オモウサマたちも、ここで提灯の作り方などを学んで、成人するのだそうです。


▷▷成人の儀式

 お酒を作ることにすっかり慣れた頃、島にはスコールの季節が来ました。

 肌に湿気を感じる日々が続いたある日のこと。

 甕に保存していた黄色いお酒の一つが、濃い紅色へと変化しました。蓋を開けると、嗅いだことのないトロリとした香りが立ち上ります。

 これが儀式の合図です。


 儀式は、五日後の夜。篝火の元で行われました。

 スコールの季節も過ぎたようで、わずかに残る湿気を飛ばすように篝火が燃え盛ります。その周りで、お酒を酌み交わすお姉さんたち。

 明るく、楽しい夜が更けていきます


 私もお酒を貰って、みんなと一緒に歌ったり踊ったりしました。

 途中でオモウサマの姿を見かけたような気もしましたが、オモウサマたちだってきっと儀式を楽しんでいたのでしょう。


▷▷儀式のあと

 今回の儀式で、四人のお姉さんたちが成人しました。儀式の二日後に導き手さんから発表があったのです。

 その日から、お姉さんたちの旅の支度が始まりました

 舟や食べ物の準備は里を出る時と同じですが、ここでは大量のお酒も仕込みます。


 成人したお姉さんたちにも手伝ってもらったおかげで、お酒もなんとか仕上がって、無事に出港の日を迎えることができました。


 出港から数日後、私たち酒造り班は導き手さんから、背比べをするように言われました。

 その結果、私を含めて小柄な四人が、お酒を作る建物へと引っ越すことになりました。

 今まで使ったことがなかった、井戸から遠い方の戸口から入ります。中には四人分のハンモックが準備されていました。里から持ってきた身の回り品は、各自に割り振られた戸棚に片付けます。


 やがて甕を抱えた導き手さんが、部屋を訪れました。

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