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暁の機動天使《プシュコマキア》  作者: 憂木 ヒロ
最終章

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第二百七十二話 天使たちの戦い ―youthful resolution―


 にやり、と。

 犬塚シバマル少年は滝のような汗を流しながら、強気に笑ってみせた。


「へ、へっ……ただ逃げてるだけだと思いました? おねーさん」


 機体胸部の赤いオーブから光線を撃ち出すのを止め、【ラミエルLルクス】の巫チヅルは眉間に皺を刻む。

 レーザー光線によってチヅルは少年の動きを誘導していると思っていた。

 事実、途中までは確実にそうだった。【ラジエル】はこちらの光線を躱すのがやっとで、他に何を考える余裕もなかったはずだ。

 それが、気づけばチヅルの射線は、遠く離れた【マトリエルBブルート】に命中するところまで釣り出されていた。


『一体いつから……!?』

「あんたの光線の軌道を読めるようになるまで、二分くらいはかかったかなあ。すげー威力のをすげー早さで撃ってくるからマジで死ぬかと思ったけど……見切れれば単純だ。おねーさん、小細工とか好きじゃないタイプでしょ? 戦い方に出てますよ」


 そう指摘されてチヅルは顔を真っ赤に染めた。

 プライドを傷つけられた彼女は端正な顔を怒りに歪め、【ラミエルL】に新搭載された『アームズ』を起動する。

 機体の肩や腰から分離した、青く半透明な正八面体の戦闘ユニットが八つ。

 それを目にしてシバマルは口笛を吹いた。


「ヒュウ。容赦なしかよ、アスマのやつ」

『ようもうちをコケにしてくれたなぁ。そやけど、そうやって笑うていられるのも今のうちやで』


 殺意のこもった低い声でチヅルは言い放つ。

 戦場にあっても調子の軽い奴がチヅルは嫌いだ。それがたとえ虚勢であっても、反吐が出るほど大嫌いだ。

 だから彼女は決めた。足止めなど生温い、ここで徹底的に叩きのめすのだと。


『滅ぼせ、雷。跡形も残さず殲滅しろ!』


 女の号令で八基の『アームズ』が飛翔する。

 一斉に飛び出した小型ユニットはすぐさま【ラジエル】を上下左右から包囲せんとし――それに対抗する少年の迎撃を難なく避けてみせた。


「速い――!」


 上下左右、異なる方向から迫る八基もの相手をしなければならない。

【ラジエル】のパイロットとして空中での高速機動に順応しているシバマルであっても、流石に完全に対応しきるのは不可能であった。


(撃ち落とすのは無理か。だったら――!)


 迎撃を諦め、シバマルは『アイギスシールド』を展開。

 機体の全体を纏うように球状に張ったバリアを以て、撃ち込まれる光線を耐えしのぐ道を選んだ。

 そのまま彼は方向転換し、離れてしまった【エクソドゥス】に追いつかんと加速する。

 間断なく浴びせられる光線の連撃が、虹色の防壁を乱打していく。

 瞬く間にひび割れていく盾を見つめ、シバマルは歯を強く食い縛った。


「魔力はかさむけど――盾の追加だっ!」


 破られる。それはもはや仕方がない。ならばその下からもう一枚、さらに一枚と重ねていくだけだ。

 今のシバマルが何としてもすべきなのは、【エクソドゥス】に合流すること。それさえ叶えば、魔力の大幅な消費も許容できる。

 だが、それはチヅルも分かっている。


『行かすわけあらへんやん、アホ! 盾を重ねるならそれ貫通する火力を出すまで!』


 瞳をかっと開き、視界の中央に映る虹色の球体を睥睨し。

 彼女自身の意思に従って動く『アームズ』たちから、さらなる魔力を引き出した。

 

『「アームズ」は八基。そやけど、砲門はもっとあるさかいね』

「っ!?」


 正八面体の六つの頂点。光線の射出口はそこに位置している。

 一基につき六つ、それが八つで四十八門。

 砲門の先端は自在に曲がるように作られており、射角の調整は容易い。

 加えて『アームズ』自体が縦横無尽に飛び回ることが出来るのだから、どこにいようが獲物は逃げられない。

 

『うちに本気を出さしたことは褒めたる、犬っころ。そやけど、残念。一世代前のSAMやと防御性能が足らへんなぁ』


 ニタァ、と悪趣味な笑みを女は浮かべる。

 三百六十度、全方向から一斉に撃ち込まれる無慈悲な光線を前に、犬塚シバマルはその本能で全ての終わりを覚悟した。



った……マジ、むかつくんですけど……!」


 右側の腕二本を失う結果の原因となった少年に、サナは呪詛を吐いた。

 肘から先が完全に焼き切れ、断面が黒ずんだ腕を見下ろしながら彼女はユウリに救援を求める。


「ユウリ、早く来て! 正直いまのアタシじゃ、あの【ミカエル】にタイマンじゃ勝てない!」

『――分かった』


 青年の声に普段の軽い調子は一切なかった。

 切迫したサナの声に事態の重さを悟ったのだろう彼は、その言葉に違わず数秒で駆けつけてくる。

【マトリエル】の現状を直に視認したユウリは彼女を背にし、炎を撒き散らしながら向かってくる【ミカエル】と対峙する姿勢を取った。


『サナ。お前は一旦下がって、機体の損傷を修理しに行け。敵と違ってこっちにはそれをするだけの余裕がある。だから気にせず行くんだ』

「ごめん。――任せたから」


 予想外の不運に対処できなかった自分の不甲斐なさを呪いつつ、サナはユウリの指示に素直に従った。

 地上の整備班と合流すべく降下していく彼女は、最後に【サハクィエルAエース】を仰いだ。



「……おっかねえな。【異形】はもう慣れたもんだけど、本物のSAMと実際にやり合うのは初めてだ」


 接近してくる【ミカエル】を見据えるユウリは、ざらついた声音でそう呟いた。

 出来るなら戦いたくない。だが、人類の悲願を――【異形】の存在しない平和な世界を現実にするためには、ここで決着をつけなければ。


「長引かせたくはない……一瞬で決めるぞ、【サハクィエル】」


【サハクィエルA】の『アームズ』は、【ラミエルL】のそれに勝る数の計十六基。

 鋭く尖った黒い羽根のようなそれを飛ばすだけで、【ミカエル】は放たれた光線に盾を射貫かれて散るだろう。

『ピコ魔力』による死の光線は、従来最強の壁とされてきた『アイギスシールド』をもすり抜けて獲物を仕留める。


「【異形】を確実に殺すための技術……こんな使い道をするなんて、アスマくんが知ったら怒るだろうな。あいつは優しい奴だから……せめてこんな役割を押しつけちまう前に、片付けてやらないと……」


 後輩への愛情が暗い覚悟に変わる。

 ユウリは瞳を閉じ、己の意識を完全に『アームズ』たちへと注ぎ込んだ。

 脳裏に閃くイメージに従って黒き羽根は機体の翼から分離し、空を切り裂いて踊り狂う。


「『アームズ』――【ジャッジメントウィング】」


 羽根の先端から発される漆黒の光線。

 刹那にして周囲を固め、逃げ道を塞いだ十六基の『アームズ』によって、残酷にも【ミカエル】への裁きが下された。


 ――はず、だった。


 数秒が経ってもユウリの耳には機体が爆発する轟音は聞こえてこず、大気を震わす衝撃波も感じることはなかった。

 

「……すぐに終わってくれれば、楽だったのに……!」


 今にも泣き出しそうな声で恨み言を漏らし、彼はゆっくりと瞼を開く。

 開かれた視界の中央に鎮座しているのは、純白のオーラを放散している同色のSAM。

 翼を生やし、装甲のない流線型の輪郭に赤い光の粒を纏っているこの機体は、【ウリエル】であった。


『大丈夫、ユイ!?』

『平気です。装甲に多少の損傷はありますが、まだ何とかなる範囲です。……ありがとう、カオルさん』


 仲間の無事を確かめ、安堵に胸を撫で下ろすカオル。

 彼女は『アームズ』を機体の元へ引き戻した【サハクィエルA】を見つめ、掠れた声で言った。


「【サハクィエル】……兄貴の機体をまた、人同士の争いに駆り出そうっての、あの男は……!」


 静かな怒りを滲ませる彼女に、目の前のSAMに乗るパイロットを責める気持ちはない。

 軍人は例外なく上官に必ず従うこと。それが前提にある以上、彼は罪に加担させられただけの被害者だ。

 本当の悪は――『プルソン事変』の際に『リジェネレーター』殲滅を指示した、蓮見タカネただ一人。


『「アイギスシールド」が突破されたとしても、【ウリエル】の防壁はアンタの光線を通さない! こちとら【機動天使】の中でも一世代分新しい機体なんでね!』


 カオルにその事実を突きつけられ、ユウリは顔を歪めた。

 機体性能差でごり押しするのも不可能。

 そうなればやるべきことは決まっている。全力での殺し合い、それしかない。


「そうかよ……でも、でもっ、お前は俺の【サハクィエルA】には勝てない! こいつはアスマくんの生み出した七機の最高傑作の一つだ! 機体の演算処理も、魔法も、全てにおいてお前たち【機動天使】の上を行く!」

『そう。だったら、すぐに次の技を撃てばいいじゃない。アンタならアタシに勝てるんでしょ?』


 挑発じみたカオルの言葉にユウリは頬を赤く染めた。

 やってやる――そう心は逸るが、しかし身体は動かない。

 がくがくと腕が震え、操縦桿に触れる指先は凍てついてしまったかのようだった。


『これ以上戦うつもりがないのなら、それでいい。アタシたちは先に行く』

「……待て、よ。待てよっ!!」


 わななく声でどうにか叫ぶ。

 眼前を通過していく二機のSAMへと機体を翻し、ユウリは己の思いをぶちまけた。

 

「ここでお前らを行かせちまったら、次に戦うことになるのは第二師団のアスマとマシロだ! あいつらに、特にアスマくんには罪を背負わせたくない! 背負わせちゃ、いけないんだ……!」


 能美ユウリは九重アスマの優しさを知っている。

 彼が本当は戦いを望まない性質であることを理解している。

 SAMを愛し、その製造に並々ならぬ情熱を注ぎながらも、それが人の血を流す結果をもたらすことを好まないことを分かっている。

 だから。ユウリはアスマよりも年長の人間として、その罪を一手に引き受けると決めた。

 本音をいえばユウリも人同士の争いなど嫌いだ。やってはいけないことだと思う。恐ろしいと思う。


「ここから先は通さない。お前たちはここで、俺の『アームズ』の相手をしろ」


 時間を稼ぐ。

 ユウリが考えた戦略は、その一点だった。

 何も殺さなくともよいのだ。第一師団、第二師団が順調に行軍を進められるだけのサポートをすればいい。

 それに、味方機が生きていれば【エクソドゥス】側もそれを無視して強行突破することは出来ないだろう。戦力の足りない彼らからしたら【機動天使】は一機でも失うわけにはいかない上に、彼らの指揮官の性格的にそもそも味方を切り捨てる選択など取らないだろう。


「飛べッ、【ジャッジメントウィング】!」



 死んだ、と思ったその瞬間。

 犬塚シバマルが目にしていたのは、自分の機体を覆い隠す桃色のベールであった。

 突き刺さる光の槍、その先端が屈折し、見当違いの方向へ逸れていく。

 何が起こったのか分からず息を呑む彼に声を掛けたのは、麗しき少女だった。


『シバマル! お怪我はありませんか!?』

「みっ、ミコトさん――だ、大丈夫だ!」


 切れ切れの息で返答する。

【リリーフリコレクション】。皇ミコトの【ガブリエル】の十八番である、優しく強い愛の守護。

 それに命を救われたことに感謝しつつ、シバマルは体勢を立て直した。


「ミコトさん、悪い……おれ一人じゃ多分、あの新型【ラミエル】には勝てない」

『残念ながら、そのようですね。九重アスマ、彼はどうやらSAMの世代をまた一つ、塗り替えてしまったようです』


 悔しいが認めざるを得ない。『ナノ魔力装甲』が初搭載された第六世代機【ウリエル】と【ラグエル】を除いた第五世代の【機動天使】では、『ピコ魔力』を操るいわば六・五世代機には叶わないと。


『それでも――一人ではなく、二人なら!』


【ガブリエル】は【ラジエル】の肩に手を置き、己の『コア』から腕へと伝う燃える魔力を分け与え、続けて自身にも同じ魔法をかけた。

【リリーフプロテクション・破】。対象の機動力や火力を大幅に向上させる、【ガブリエル】のもう一つの得意技だ。

 これが効果を発揮している間は、【ラジエル】の世代は実質一つ更新される。強化された【ラジエル】と元々防御・支援に優れる【ガブリエル】――この二機が合わされば、【ラミエルL】にも勝てる可能性は決して低くはない。


『あんたがミコト殿下ね? いっぺん手合わせしてみたかった――』


 笑みを深め、チヅルは【ラミエルL】の胸部に埋め込まれたオーブに魔力を溜め始める。

『アームズ』以上の火力が来ると悟ったミコトはシバマル機の腕を掴み、次の瞬間、防壁を解除して一気に前へ飛び出した。

 八つの正八面体が撃ち出す光線の数々が、一瞬前まで二機がホバリングしていた空間を過っていく。

 

『速い! 流石やねぇ、殿下!』


 高揚感を露わに叫び、チヅルはガラス色の極太レーザー光線を解き放った。

 強者との戦いに沸き立つ彼女に対し、ミコトとシバマルはすんでのところで光線を回避。

 流れるような動きで各々の攻撃魔法を発動し、反撃を狙った。


『――敗れるわけにはいきません。人類と【異形】――すべての命が平穏に生きられる未来のために!』

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