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暁の機動天使《プシュコマキア》  作者: 憂木 ヒロ
最終章

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第二百六十二話 復活の狼煙 ―speech―

 軍が戦いへの気運を高めている中でも、都市に生きる人々が享受するのは変わらぬ平穏であった。

 あと一月で『狂乱事変』から一年を迎えようとしている七月の半ば、日暮れ前。

 肌を晒した若者たちが多く行き交う中央区画のスクランブル交差点にて、明坂ミユキは橘ヤイチらと共に行動を起こそうとしていた。


「皆、心の準備は出来てる?」


 集ったのは日野イタルや真壁ヨリをはじめとする若い『リジェネレーター』隊員数名だ。

 彼らは実力の不足から『対異隊』に参加できず、都市に残留したメンバーである。

 無力さに打ちひしがれていた彼らにミユキは声を掛け、『リジェネレーター』の希望の旗を再び掲げようと決めたのだ。


「大丈夫っす、ミユキさん。ここにいない犬塚やカオルの姉御たちのためにも、俺たちがやらなきゃ」

「う、うん。私もっ、頑張ります。あの……きっと、ユキエちゃんも応援してくれてると思うから……!」


 不在の友を思うイタルに、亡き親友に勇気を貰うヨリ。

 他の面々も口々に己の意思を言葉にして、緊張感を身にまとう。

 

「機材の用意できました、ミユキさん。いつでもいけますよ」

「ありがとう、ヤイチくん。何だかんだであなたには助けられてばかりね」

「惚れた弱みですよ。……さあ、始めましょう」


 照れ隠しに顔を背け、糸目の少年は素気なく言う。

 微笑んだミユキはヤイチが整えてくれたマイクやスピーカー、カメラ等の録画・録音機材をざっと確認し、それから手を叩いて合図した。

 予め借りておいた車の上に飛び乗って、彼女は口を開く。


『皆様、どうか聞いてください! 私は『リジェネレーター』のSAM開発部門主任、明坂ミユキ! 本日は都市の皆様にお伝えしたいことがあって、こうしてマイクを執った次第であります!』


 突然響き渡った音声に、街ゆく人々は思わず足を止めた。

 部隊が壊滅したという『リジェネレーター』の者が、今さら何を語るのか――怪訝に思った者は多かれど、ミユキの前に集まってくる者はほとんどいなかった。

 それでもミユキは必死に声を張り上げる。


『皆様にお伝えしなければならないことは、ただ一つ! 私たち『リジェネレーター』の理想の灯は、未だ消えていないということです!』


 蓮見タカネによって宣伝された『リジェネレーター』の壊滅という嘘。

 それをミユキは表立って否定はしなかった。具体的な根拠が手元にない以上、蓮見政権への不信感を煽るための虚言として取られかねない。ならば今はそれを暴かずに、『リジェネレーター』復活の狼煙を上げるだけで良いだろう。


「何?」「どういうこと?」「『リジェネレーター』ってもう終わったんじゃないの?」


 困惑が人々の間に広がっていく。

 一人、また一人とミユキたちの前に人だかりが増えていく。

 その様子をヤイチら隊員たちはカメラに収め、SNSや動画サイトを用いて都市中にリアルタイムで配信していた。

 全盛期からフォロワーがかなり減ったとはいえ、『リジェネレーター』公式アカウントや実質『リジェネレーター』用となっていたミコトの個人アカウントの影響力は未だ高い。

 特にミコトのチャンネルによる配信は早くも多くの視聴者を呼び、たくさんの反響のコメントが飛び交っていた。


「眠っていたミコトさんのアカウントから急に配信の予告があれば、みんな食いつく……狙いが当たったっすね、橘さん!」

「ええ。ミコトさんのチャンネル登録者の多くは『リジェネレーター』の賛同者でもある。絶えていた炎を再び燃え上がらせる絶好のチャンスです」


 困惑する者、驚く者、信じられないと叫ぶ者。反応は様々だ。


『「プルソン戦役」の訃報を聞き、長らくの間、私たちは打ちひしがれてきました。「リジェネレーター」の理想はここで途絶えてしまったのかと、諦めてきました。しかし、それで本当に良いのでしょうか? 私たちが下を向くことで散ってしまった彼ら彼女らは喜ぶのでしょうか? いいえ――そんなはずはありません』


 胸に手を当て、前だけを見据え、訴える。

 ミコトのように凛然とは出来ない。マトヴェイやレイのように理路整然とは語れない。それでもミユキはがむしゃらに思いを言葉に変換していった。

 話さなければ、誰も動いてはくれない。


『ミコトさんやカナタくん、レイくん、マトヴェイ総指揮官――彼ら彼女らに報いるために、私たちは何をすべきなのか。それを考え、そして思い至りました。私たちが取るべき行動は、「リジェネレーター」を今ここに復活させることなのだと。彼らの理想を守り、育て、未来へと繋いでいくこと――それこそがミコトさんたちへ敬意を表するための、唯一の方法なのだと』


 若者たちのみならず、仕事帰りのサラリーマンやOL、年配の男女までもがミユキの立つ車の前に立ち止まり、彼女を真っ直ぐ見上げていた。

 騒然となる交差点。聞こえてくるサイレンの音。

 人が集まり過ぎた。もとより公的機関からの協力が得られないことを承知での無許可演説だ。言うべきことは言った――あとは人々がそれをどう受け止めるかだ。


『演説を中止しなさい! ただちに演説を中止しなさい――』

「皆さん、早く車へ! 撤収します!」


 運転できる男性隊員が車内からそう呼びかけ、迅速にミユキたちは撤退に入る。

 人混みが幸いし、警察のパトカーはすぐにはミユキたちのもとへ辿り着けない。


「道を開けてください! 皆さん、道を開けて!」


 戸惑いながらも人だかりの最前列にいた一人が後ろに下がると、他の聴衆たちもそれに倣って動き出した。

 軽自動車一台がやっと通れるほどのスペースが開き、ミユキたちを乗せた車は徐行でそこを進んでいく。

 人波の中を数分かけて抜け、道が開けるとすぐさま加速。

 遠ざかるサイレンを背に、彼らは『リジェネレーター』の本部へと急ぐのであった。

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