表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の機動天使《プシュコマキア》  作者: 憂木 ヒロ
第十章 比翼の絆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

251/303

第二百四十九話 模擬戦闘 ―Showdown among the Seven Angels―

 SAMに乗るのはすごく久々な気がする。

 カメラアイが捉える荒廃した都市を前に、九重アスマは深呼吸を繰り返していた。

 老朽化して罅割れたアスファルトの地面を見下ろす。何度か足踏みしてその硬さを確かめる。

 足裏が沈み込むような感じはしない。大地の陥落、それは意識しなくていいだろう。


「……よし」

『なに、緊張してんの? いつも通り、自分らしくやろうぜアスマくん!』


 戦場にあってもこの男は朗らかだ。

 ついこの間アスマがスランプを脱却するきっかけをくれた【七天使】の一人、能美ユウリである。


『そうっすよ、九重大佐! リラックスっす!』

「その呼び方はやめてくださいと重ね重ね言ってるでしょう、郷田少佐!」


 アスマは『プルソン事変』での功績を称えられ、大佐まで飛び級していた。

 だが実際は【七天使】の長が大尉では格好がつかない、というだけで、肩書に見合うだけの指揮官としての実力も経験もない。

 故に彼はその大層な階級で呼ばれることをひどく嫌っていた。


『すみませんっす、九重さん!』


 この青年の名は郷田コタロウ。

 かつては生駒センリの直属の部下であった彼は、『阿修羅』の無茶な行軍についていけた実績を買われて新たな【七天使】に任命されていた。

 何より、彼は単純な思考の人間だ。上の者には素直に従い、疑うという選択肢は始めから持たない。そして着実に任務を遂行する。まさしく『忠犬』と呼ぶに相応しい男である。

 おまけにあのセンリの一番弟子を名乗っていただけあって、【異形】討滅へのモチベーションも高い。蓮見タカネにとって、彼はこの上なく扱いやすい人材といえた。


『心の準備は出来ているかしら、チーム・男子! あたくしたちをワクワクさせる輝き、戦いの中で見せて頂戴!』


 今日、仮想現実『第二の世界ツヴァイト・ヴェルト』にて行われようとしているのは、【七天使】が2チームに別れてぶつかり合う模擬戦だ。

 チーム男子はアスマ、ユウリ、コタロウの三人。

 そしてチーム女子も三人。

 使用する機体は両チームともに【イェーガー・Version.5.0】に統一し、機体性能に差がないようにする。シンプルに実力が勝負を決めるバトルだ。


『ばっちりっすよ、赤城中佐! そちらこそ大丈夫っすか?』

「見くびらないで頂戴。他の子たちはともかく、あたくしは常に強く、美しく輝いているの!」


 赤城ケイト中佐。

 燃えるような赤いショートヘアと茶色い瞳に、青い宝石の光るピアスが特徴的な妙齢の女性である。

 元歌劇団の男役女優にして、女優引退を機にSAMパイロットへと転身した異色の経歴を持つ彼女は、入隊からほんの数年で現在の地位まで上り詰めた。

 彼女の素の才能は並み以上。だが、それだけでは【七天使】に値しない。彼女を【七天使】足らしめているのはその飽くなき出世欲と、他人を模倣する技術の巧みさ。

 特に後者はずば抜けていた。模倣、というより誰かを憑依させているといったほうが正しいくらいだ。

 見るだけで戦闘スタイルを我が物とし、聞くだけで用兵術をマスターする。無論、覚えたそれらを完璧に磨き上げる努力も欠かさない。

 やや高飛車な性格も、それはそれでいいと人気だ。男性兵士はもとより、女性兵士からの支持も厚い。


『では試合開始といこう。君たちが如何に研鑽し、如何に強くなったか……それを私に見せてくれ』


 この勝負は蓮見タカネも観戦している。

 若き【七天使】たちにとっては、その活躍ぶりを司令に直接見てもらえるチャンスだ。否応なしに普段よりも気合が入る。

 タイムリミットは二時間。戦闘終了時まで生き残った機体の多い方、或いは先に相手を全滅させた方の勝利となる。

 チーム男子とチーム女子、両者がそれぞれ所定の位置――旧都市の北側と南側――につく。

『VRダイブ室』に隣接されたコントロール・ルームからタカネが見守るなか、時計の長針がゼロを回った瞬間、両陣営とも動き出した。


『よっしゃ、行くぜ!』


 まず先行したのはユウリだ。

 緑化した高層ビルの立ち並ぶ大通りのど真ん中を、彼は口笛を吹きながら疾走していく。

 

「ちょっ、ユウリ! 考えなしに突っ走らないでください!」

『俺たちも追っかけるっすよ、九重さん! 足並み揃えていくっす!』

「分かってます!」


 そう言いつつも、ユウリ基準のペースで走らされるのは少々癪だった。

 だが先に行かれてしまったのならもう仕方がない。幸いにも女子陣営と接敵するまではそれなりの距離がある。互いのスタート地点に設けられた五キロメートルの隔たり――会戦までにどのように備えるか、それも今回の模擬戦で問われるポイントの一つだ。


「郷田少佐、道中の補給地点の場所は把握してますね?」

『もちろんっす、九重さん! どこから行くか、決めてあるっすか?』


 彼らに与えられた初期装備は銃剣一つ。

 しかしこれだけでは少々心もとないため、エリア内に用意された補給ポイントでの物資調達は必須だ。

 互いのスタート地点を線で結んだ中点、そこを基準として北東・南東・南西・北西の四か所に補給ポイントが置かれている。


「北東か南東の魔力補給タンクを第一に回収します。戦いが長丁場になる可能性を見据えて、まずここは絶対に押さえなきゃいけません。もっとも、それは赤城中佐たちも同様に考えるでしょうが……」

『一番近いのは北東だな。んじゃ、全速力で行くか! 北東と南東、両方の魔力タンクを取っちゃえば楽勝だ!』

「……話聞いてました? 相手も同じ考えで来るでしょうから、両方を押さえるのは無理ですって」


 張り切って駆ける速度をさらに上げていくユウリに、アスマは溜息を吐いた。

 整備されていない苔むした道路では、足底部のホイールによる走行もままならない。そのため二足を動かして走らなければならないわけだが、機体の感覚がダイレクトにパイロットに反映されるSAMにおいて、数キロもの距離を全力疾走しようなど無茶な話だ。

 急ぐのも大事だが、ペース配分を間違えて動けなくなってしまえば元も子もない。


「ユウリ、ペース抑えてください! ルート算出は僕がやります、地図上に表示された道に従って進んでください! いいですね!?」

『りょーかい』

『承知したっす!』


 微量な魔力光線を飛ばし、その反射によって近くの障害物の有無を判別する。

 反響定位エコーロケーションのごとく魔力を使って楽に進めそうな道を割り出していくアスマに、ユウリは『助かるぜ!』と笑みを送った。

 即座に赤線で画面のマップ上に描き出される道筋を辿り、チーム男子は着々と最初の目標である北東の補給ポイントを目指していくのだった。



「男の子たちは必ず、北東の補給ポイントで魔力タンクを回収するわ。勝つことよりも負けないこと……アスマの考え方ならきっと、そうするはず」


 細い顎に上品に指を添え、赤城ケイトはそう推測する。

 自分たちも南東の補給ポイントで魔力タンクを入手し、それから南西の補給ポイントで武器を回収する。

 それが最も堅実かつ、万全な状態でチーム・男子との戦いに臨める作戦だろう。

 

「さ、行くわよ」

『ちょい待って。ほんまに、ほしてええん?』


 だが、そこで。

 京都弁のイントネーションで届けられる柔らかい声が、進路を定めたケイトの足を止めた。


「何、チヅル?」

『せいぜい数時間の戦いで魔力を重視する必要がどこにあるん?勝負を決めるのは得物……そうは思おりません?』


 モニターに映る顔が不敵な笑みを形作る。

 腰まで流れる艶やかな黒髪。前髪はぱっつんと切り揃えられており、どこかあどけなさを演出している。抜けるように白い肌に、頬を彩る仄かな赤み。切れ長の目、高く通った鼻梁、控えめに紅を差した柔らかそうな唇は、美女のそれと言って差し支えない。

 美麗さ七割、あどけなさ三割。

 そう自称する彼女の名は、かんなぎチヅル。

 先祖代々神社を守る、由緒正しき一族の出身だ。

 

『普通に戦ったっておもろないでしょう。圧倒的な力の差をもってねじ伏せる……そのほうがおもろいのではおへんどすか?』


 優美な容貌に反し、この女の本性は苛烈だ。

 勝ちに貪欲。そのためには博打さえ厭わない。常人では不利な賭けであっても、その不利を覆せるだけの実力があればいい。

 それが巫チヅルの主義なのだ。

 

『大言壮語、好きに言うて。卑怯悪行、それもええではおへんどすか。勝つことにこそ意味がある。――だって、勝つのって楽しいではおへん?』


 勝利をもぎ取った瞬間の恍惚。それはどんな美酒よりも彼女を惹きつけ、離さない。

 その眼に宿る欲望の光には出世欲の化身のごときケイトでさえ、気圧されることがあるほどだ。

 一度ひとたびその輝きを放ち始めたチヅルは強い。それを理解しているからこそ、ケイトは彼女の提案に乗ってみようと決めた。


「電撃作戦ってわけね。それでいいかしら、サナ?」

『いーよ、別に。多少無茶な行軍でもやり遂げてみせる。それに……ガキどもの悔しさに歪んだ顔、超見たいし』

「坊やたちをガキ呼ばわりできるほど年取ってないでしょう、あなた……」

『あーしだって大人なんですから! 舐めないでよ、オバサン』


 韮崎にらさきサナ。『学園』を卒業して間もない十九歳の彼女を一言で形容するなら、「ギャル」である。

 金色に染めたミディアムヘアと、前髪に入れた青緑のメッシュが特徴。白い肌にエクステをバチバチに決めた睫毛、流行りを追った朱色のルージュ。

 戦場にありながら「カワイイ」を追求すること、それが彼女のモットーだ。

 女優という話題性でも名家の出という血筋でもなく、サナは純粋に才能で選ばれた。

 その自負が個性と負けん気の強い女性陣の中でも埋もれまいという、彼女のハングリー精神を産んでいる。

「舐めないでよ」という言葉は虚勢でも何でもない、本気だ。


「口の利き方がなってないようね、お嬢ちゃん?」

『あは、ケイトはん、どないしはったん?』

 

 サナと呼んだ少女を画面越しに睨みつけるケイトに、チヅルが嫌味ったらしく笑う。

 ごほん、と咳払いした元トップスターは視線を正面に戻し、告げた。


「刺激的なドラマを演じてみせましょう! さぁ、行くわよ!」


 チヅルの策を受け入れ、ケイトは目標を南西の補給ポイントに定めた。

 軽やかな足取りで老朽化したアスファルトの大地を駆けていきながら、彼女らは思い浮かべる。

 チーム・男子が自分たちと相対した時、得られるはずだった武器の全てを先んじて取られていると気づいた瞬間の驚愕の顔を。

 それを思えば多少の無茶な行軍は乗り越えられる。


『魔力回復はあーしに任せて。やばくなったらすぐ伝えてよね、お二人さん』

『当たり前でしょう。あたしはそないなに阿呆ではおまへんわ』

「プライドに足を引っ張られて負けては、元も子もないものね。いけ好かないけれど、頼らせてもらうわ」


 サナは新【七天使】の中でも魔力量に優れ、回復や付与魔法エンチャントなどの支援魔法を得意としている。

 彼女の存在がなければケイトはチヅルの提案を一蹴していただろう。

 それだけ重要なポジションをサナ一人に押し付けてしまうのはケイトとしても少々心苦しくはあったが、サナもそれは承知の上だ。


『ケイトさん、魔力ロケーションで通れそうなルート探って』

「言われなくともやってるわよ。あなたたちは黙ってあたくしに付いてくればいいの」

『いちいち嫌味やわあ、ケイトはん』

「あなたにだけは言われたくないわね」


 言い争いも本人たちからすれば戯れ合いのようなものだ。

 ケイトが導き出した安全なルートを辿り、彼女らは進軍していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ