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暁の機動天使《プシュコマキア》  作者: 憂木 ヒロ
第八章 転換の刻

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第百八十九話 カナタの意志、ミコトの叫び ―Roaring of faith―

 開いた花弁が揺りかごのように、少年の機体を包み込む。

 蒼炎の灼熱から守ってくれたのはミコトだ。

 モニターに映る彼女の決然とした面持ちに、カナタは頷きを返した。


「あっ、ありがとう、ミコトさん」

「何もせずに見ていることなど、わたくしには出来ません。さあ、カナタ……これで二対二です。わたくしたちが力を合わせれば、思いは必ず届きます。今はそれだけを、信じましょう」


 理想に辿り着くために、意志を貫く。

 それが皇ミコトが己に課した使命だった。マトヴェイやミユキたちからの信頼、そしてニネルやテナたちの命を彼女はその身に背負っている。

 道半ばで投げ出すことなど、出来ない。


「『新人』たちは確かに【異形】の血を引いています。けれども、同時に半分はヒトであるのです。彼らはわたくしたちと意思の疎通が叶います。彼ら彼女らは友好的であり、決してわたくしたちを傷つける意思を持たない」

「でもさぁ、ヒトに取り入って何か仕掛けてきたっておかしくないでしょ? 裏切り者が内に潜んでた前例はある――そいつらがアンタたちを欺いてない確証は、どこにあるってのよ!」


 静かに語るミコトへ、カオルは都市の民たちの声を代弁する。

 正体を偽った敵がどこかに潜んでいるのではないか。その恐れは、月居司令が理知ある【異形】の存在を明かした頃から都市内に燻っていたものであった。

 瀬那マナカの裏切り、そしてその一年後の『狂乱事変』を経て市民たちの疑心暗鬼は一層強まった。もはや何を信じれば良いのか分からない彼らの前に「救世主」として現れたのが、蓮見タカネという男。

 内なる敵はそこにいる――タカネが暴いた「真実」に人々は飛びつき、今も揃って踊らされている。


「確証は、あります」


 ミコトの言葉に物的な根拠はなかった。

 しかし、迷いなく言い切ったその口調は舌鋒鋭いカオルに一拍の間を――遅れを取らせ得るものだった。


「……それが何だか、是非教えてもらいたいもんだね、皇女様」

「全ては我が信念が体現するものですわ。いざ――勝負!」


 高らかに叫び、【ガブリエル】はその長槍を誇るように掲げる。

 紫紺のオーラを立ち上らせる桃色の機体は、背負うマントをなびかせて進撃を開始した。

 ――真正面からの突撃。

 一見無策にも思えるそのアタックに対し、カオルは顔を顰めながらも応じざるを得なかった。


「はあああああああッ!!」


 可憐なる皇女には似つかない咆哮、花弁の如き桃色の光粒を散らしながら回転する長槍。

 優雅なのは一瞬、一転して構えを定めたその得物は眼前の相手へと突き込まれる。


「『アイギスシールド』!!」


 地面を蹴りつけて飛び退こうとしたカオルだったが間に合わない。

 機体のスペックでは上回っているはずにも拘らず――【ガブリエル】の瞬発力は、【ウリエル】を超えていた。

 広げた掌から波紋状に魔力を放出、虹色に煌く半透明の防壁をカオルは展開する。


「カナタ、あなたにわたくしの力を授けますわ! 【ラグエル】は任せます!」


 槍の穂先が防壁と激突した。

 それと同時、ミコトは仲間に加護を与える魔法――【リリーフプロテクション・】を行使する。

 味方に魔力を分け与え、一定時間攻撃力と防御力を向上させる【ガブリエル】の十八番。

 桃色の光に包まれた【ラファエル】はミコトらを顧みず、一直線に【ラグエル】の潜む基地建物群へと飛んでいった。


「あら、いいの? あっちはカツミのフィールドだよ」

「――カナタならば必ず【ラグエル】にも打ち勝つ。わたくしはそう信じておりますわ」


 挑発的に笑うカオルに、ミコトもまた勝気に笑ってみせた。

 防壁は槍を受け止めたまま動かない。両者の力は全くの互角だった。

 どちらかが少しでも気を抜けば崩れる、絶妙な均衡。

 睨み合う二人は各々魔力を激しく燃やし、押し負けんと歯を食いしばった。



『策は、カナタ!?』


 遮蔽物の多い戦場では光線が敵へ通りにくい。それを念頭に訊ねてくるマオに、カナタは苦々しい面持ちで答えた。


「あっ、あるけど……そっ、相当しんどい戦いになる」

『しんどいですって? ふふっ……アタシ、既に一度死んでんのよ。そん時の痛みに比べりゃ、どんな苦痛だろうが屁でもないわ!』


 だったら良かった、とカナタは小さく笑みを浮かべた。

 ライフルを右腰のウェポンラックへ収納し、反対側から剣を引き抜く。

 鋭い擦過音を鳴らしてお目見えする【招雷剣しょうらいけん】。

 それを握る手にぐっと力を込め、カナタは眼下の基地設備を睨み据える。


「まっ魔力反応は?」

『ないね。完全に隠れちゃってるみたい。見つけるまで高度は維持するけど、いい?』


【ラグエル】が隠れられるほどの高さを有している建物はそう多くない。

 数箇所あるSAM格納庫と、戦闘に備えて築かれた砦。後者は基地全域を城郭の如く囲っており、内部にSAMが待機できるスペースが備えられている。


「い、いいや……こっ、高度は維持しない。ミコトさんの加護バフの効果が続くのは180秒。そっ、それまでに毒島くんと接触できなければ、ここで僕が勝てる見込みはなくなる」


 言いながらカナタは肩の小型砲から『対異形ミサイル』を撃ち放つ。

 格納庫への着弾と共に巻き起こった爆風に煽られるすれすれの高度で、【ラファエル】は炎上するそこを通過していった。


 ――ここにはいない。


 何の反応もなかったのを確かめ、即座に次の標的へと舵取りする。


『照準よし、発射ッ!』


 爆撃が屋根を、強化ガラスの窓を、鉄筋コンクリートの壁を木っ端微塵に吹き飛ばす。

 破砕され飛散した瓦礫を見下ろし、マオは舌打ちする。


『無駄打ちさせるんじゃないよッ』

「あ、焦らないで。ぶっ毒島くんだってずっと隠れちゃいないさ。彼の性格なら、きっと機を見て食らいついてくるはず」


 喧嘩早く、強欲に戦果を求める男。それが毒島カツミというパイロットだ。

 彼のその傾向はここ最近、以前にも増して強くなっている。十月の後期中間試験での彼はカナタたちに負けず劣らず、勝利に貪欲だった。それはおそらく『狂乱事変』での力不足を自覚し、強さを希求する精神ゆえのこと。

 カナタはカツミについてそう分析し、残る一箇所の格納庫へと空爆を仕掛けんとして――


「――こっ来いッ!」


 発射、しなかった。

 その刹那、砦の壁を突き破って純黒の巨躯――【ラグエル】が姿を晒す。

 空爆はポーズだけ。しかし、標的上空を通過する飛行ルートに変更はなかった。

 カツミがその周辺に潜んでおり、ここまでのカナタの動きを入念に観察しているのなら、ここで必ず一撃で仕留めんと襲撃に出る。それがカナタの予測であった。


「うおらァァッ!!」

「ふッ――!!」


 壁を打ち砕く勢いそのままに迫る拳。

 対するカナタは壁際を通過する間際、両手で握った【招雷剣】を横薙ぎに【ラグエル】へと叩き込んだ。

 拳と剣が衝突する。


「ぐうううッ……!!」


 衝撃が腕から肩へと伝播していく。鋼鉄の骨格がミシミシと悲鳴を上げ、今にもへし折れそうになる中――カナタはその眼を限界までかっ開いた。

 赤く燃えるはその瞳。逆立つはその銀髪。緋色のオーラを纏う少年にマオが応え、その力の全てを解放する。


「めっ、目覚めよッ、僕の獣――!!」


 赤と桃の輝きを宿した刃が【ラグエル】の拳を抉りながら、振り抜かれる。

 一撃をぶつけ合いすれ違った二機はすぐさま体勢を立て直し、翻った。

 格納庫の屋根上から【ラグエル】が、砦の壁面を蹴って【ラファエル】が、相手の首を取らんと飛び出す。

 

「はああああああああッ!!」

「うるぁああああああッ!!」


 カナタが叫ぶ。カツミが吼える。

【ラジエル】の剣が閃き、【ラグエル】の拳が唸る。

 

「くあっ……!?」

「ちぃッ――!?」


 圧倒的な膂力に刃は折られた。

 天使の加護と獣の力、その二つに強化された刃に、拳が割られた。

 銀髪の少年は近接戦に使える唯一の武器を失った。黒髪の少年は右拳を粉砕され、使い物にならなくなった。

 それでも二人は止まらない。


「まっマオさんミサイルを!」


 拳から『魔力液エーテル』を垂れ流す【ラグエル】を空中から見下ろし、カナタは先ほど撃たなかったぶんのミサイルを連射する。

 周囲の建造物ごと破壊せんとする『対異形ミサイル』の雨にカツミは歯噛みし、そして。


「うおおおおおおおおおオオオオオアアアアアアアアッッ!!』


 無数の剣山が覗くあぎとを開き、その喉を震わせた。

 その大音声は天を衝く。

「力」属性の魔力を帯びる爆音波を受けたミサイルは全て、【ラグエル】に至る前に起爆させられた。


「かかってきやがれ、コネ野郎! まだ手は残ってんだろ!?」


 生きている左手を挑発するようにくいくいと動かすカツミ。

 ミサイルは今ので全弾撃ちきった。剣も折られて使えない。カナタに残ったのは、ライフルだけだ。


「いっ行くよッ!」


 ライフルを構えてカナタは鋭く叫んだ。他に言葉は要らない。

 今、自分に必要なもの――それは、戦いに身を擲たんという意思のみだ。

 あの爆音波では光線は防げないはず。ならばまだ、勝機はある!


「【ラグエル】を舐めるんじゃねえ、コネ野郎ッ!」


 だが、しかし。

 カナタが照準した瞬間、【ラグエル】の巨躯はそこから掻き消えてしまっていた。

 どこへ行った――そう思考する間もなく、殺気がすぐ横より迫る。

 反射的に顔を上げた一瞬、視界を埋めたのは壁を蹴って飛びかかってくる黒鉄の巨人。


『カナタ――!!』


 マオは【ラグエル】の背面から何かが射出されたのを鋭敏なセンサーをもって捉えていた。

 放たれていたのは【ラグエル】の背後から射出された、「尻尾」。

【イェーガー】の『ワイヤーハーケン』の進化系たるそのワイヤーは、槍のごとく伸びて獲物に突き刺さる。さらに先端には白銀のブレードが装着されており、「第三の腕」といって差し支えない白兵戦を実現できる。


「ぐっ……!」


 マオの『アイギスシールド』がなければこの瞬間、自分は串刺しにされていた。

 虹色の防壁越しにその尻尾を見つめ、カナタは脂汗を滲ませる。

 飛び退いたその時には破壊されているシールド。その一撃の恐ろしさを目の前で思い知らされ、少年は乾いた呼気を小さく漏らす。


「……っ!?」

「ビビったか? だが、【ラグエル】の真の力はこんなものじゃねえ!」


 左腕を天へ掲げ、空気を震わす叫びを上げるカツミ。

 膨れ上がる殺気の暴圧にカナタが瞠目し、再度の防壁を展開する中――【ラグエル】は牙を剥いた。

 太い剛腕に腕輪のごとく引かれたライン――その箇所が落ち窪んだかと思えば、そこから円環状に並んだ小型の砲口が現れる。


「食らいなッ!!」


 黒い瘴気を纏ったミサイルが昇っていく。

 身構えるカナタだったが、その弾頭が自分をスルーして更に上空へ飛んでいくのを見て怪訝に思った。

 ――外した? 

 いや、【機動天使】に選ばれるパイロットに限ってそんなことは――。


「まっマオさん、『アイギスシールド』最大展開!!」


 彼は毒島シオン中佐の弟だ。ならば、彼女のように超広範囲に及ぶ雨の如き攻撃を使えてもおかしくはない。

 カナタのその予測に違わず、告げられたその魔法名はまさしく「雨」を表していた。


「【バイオレンスレイン】!!」


 空中で炸裂した弾頭がばら撒くは漆黒の毒液。

 降り注ぐそれは触れたそばからコンクリートの建物を、地面のアスファルトを、少年が生み出した魔力の盾をも侵食し、腐らせていく。

 何もかもがどろどろに溶かされていく戦場の中、球状に張った虹色のバリア内部から辺りを見渡すカナタは絶句するしかなかった。


「俺の機体は空を飛べねぇ。だがな……飛べないのなら敵を落としちまえばいい。翼の腐ったSAMなんざ、【ラグエル】にとっちゃサンドバッグだ」


 毒島カツミは勝利を確信していた。

 こうしている間にもミコトの付与魔法のタイムリミットは迫ってきている。『獣の力』と【ガブリエル】の加護との重ねがけによって『アイギスシールド』は通常より遥かに堅固となっているが――それも時間の問題だ。

 カナタはシールドごと、もろに毒液を浴びた。カツミはもう、あとは待っているだけでいい。


「……観念しな、コネ野郎」



 カオルは防壁の発動を解除し、即座に右へ飛び退る。

 それを貫通せんとしていたミコトは槍を突き出した体勢のまま、身体をつんのめらせた。

 バランスを崩した【ガブリエル】を横目にカオルが真っ先に向かったのは、地面に放置されていたメイス。


(あれは――)


 カツミが基地建物群へと疾駆する際、邪魔になるからと置いていったものだ。

【ウリエル】は機体の体高を超す程の超巨大メイスをいとも容易く掴み上げてみせ、右足を軸に回転。

 その勢いのままに大岩のごとき矛先を、【ガブリエル】に叩き込まんとしてくる。


「うらああああああああああッ!!」


 純白の色をさらに飛ばす輝きを腕に宿す【ウリエル】。力属性の強化魔法――それを以てカオルは怪力乱神かいりょくらんしんなる存在へと昇華したのだ。


「【ガブリエル】ッ!!」


 愛機の名を叫び、ミコトはその『コア』より限界まで魔力を引き出さんとした。

 魔法を展開する一瞬、視界が明滅する。後頭部を突き抜ける鋭い痛みに喘ぎながら、桃髪の少女は花弁の防壁で棍矛を受け止めた。

 圧倒的な衝撃が即座に壁に亀裂を刻む。

 その暴威の前では、どんな鉄壁だろうが硝子細工だ。


「わたくしはっ、まだ……!」


 槍を杖がわりに体勢を立て直し終えると同時、花弁の防御は決壊した。

 その刹那、ミコトは足底部のホイールを最大速度トップスピードで回転させる。

 コンマ数秒後、彼女が立っていた地面は巨大クレーターへと変じた。


「へえ、よく躱してみせたじゃん。でも……いつまで持つかな!?」


 動悸と息切れなど生温い。身体に課せられる痛みに滝のような汗を流すミコトは、今にも槍を手放してしまうそうな手に辛うじて、力を入れた。

 これまでのミコトの戦いは、常にたくさんの味方に支えられてきたものだ。彼らがいたからこそ、ミコトは後顧の憂いなく全力を出し切れた。

 だが現在は、彼女は一人だ。誰も助けてはくれない。


 ――たとえ一人になろうとも。わたくしは止まるわけにはいきません。


 ミコトは前だけを見ていた。背後にはニネルら団欒の時を過ごした『新人』がいる。彼女らを安心して抱きしめられる日が来るまで、ミコトは振り返ってはならない。


 ――わたくしには、勝ち取らねばならないものがある!


「はああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 だから、叫ぶ。

 信念の炎を胸に燃やし、己が抱く愛を信じて。

 ミコトは槍を構え、振り絞った魔力の残滓を全て乗せた。

 あのメイスを食らったら終わる。それでも、恐れない。

 強化魔法があるとはいえ、【ウリエル】にはあの重量の武器を完璧に扱うことはできないのだ。回転の勢いを加えねば振り回せない――その見立てが正しければ、まだやりようはある。


「【リリーフ・リコレクション】!!」


 刻まれた信念が桃色の光となって、翼のごとく広がる。

 翼を縁どるように七色の光芒がそこに加わり、万華の輝きを放つ。

 

「そんなものッ――!!」


 忌々しげにカオルが吼え、【ウリエル】の開いた口腔より火焔を吐き出した。

 ミコトの視界を覆う緋色の灼熱。鋼の体躯が焦がされ、突き刺す痛みが肌を蹂躙してもなお、【ガブリエル】の進撃は止まらない。


「なんでッ――」


 機体性能も攻撃の威力も、【ウリエル】の方が一世代ぶん上回っているはずだった。

 あらん限りに目を見開くカオルは喘ぐ。

 この差は何なのだ。自分になくてミコトが持つその強さとは何なのか――赤く血に滾る瞳で問いかける。


「あっ、『アイギスシールド』っ!!」

「槍よ――貫きなさい!!」


 一切の無駄もない動作で突き込まれる穂先。

 それがトン、と触れた瞬間、虹の盾は砂の城のように崩落していった。

 信念の槍が【ウリエル】の胸部を捉え、穿ち抜く。


「これがわたくしの心です!!」


『ナノ魔力装甲』の斥力をも拒み、ミコトはその一撃を押し通した。

 耳をつんざく少女の痛哭。『コア』を貫かれた機体は直後、白い光に呑まれて爆発する。



 強敵を前に挫けそうになったことは、何度もあった。

 だが、その度に仲間の声を思い出して己を奮い立たせた。

 マナカ、レイ、ユイ、シバマル、リサたちクラスの友、イオリたち亡くした同士――。

 仲間たちと築いた居場所をカナタは守りたかった。誰にも傷ついて欲しくはなかった。だから、彼はSAMに乗り続ける。

 最初は母に見て欲しくて、認められたくて乗ったロボット。しかし今では、それは彼と仲間たちを繋ぐ絆の象徴。


(毒島くん、君も僕の大切な仲間の一人だ。だけど……僕は決めたんだ。ミコトさんやレイたちと一緒に、『新人』たちを守るって。彼らや理知ある【異形】を知り、対話への道を探ることで掴める未来は、必ずあるはずだから――)


 いつか、SAMを戦いではなく平和の象徴にする。

 それが、カナタが母や『新人』、【異形】らについて考えて生まれた夢だった。


「こっ、これが僕の意志だッ! 毒島くん――!!」


 叫び、同時に防壁を解除する。

 身体に毒液が触れようが構わない。その腐食が『コア』に達する前に、勝負を決めればいいだけのこと!


「はああああああああああああああああッッ!!」

「トチ狂ったか、コネ野郎!」


 毒の雨が降る空に姿を晒す【ラファエル】を見上げ、カツミは哄笑した。

 剣もない。ミサイルも撃ち尽くした。魔法は『ナノ魔力装甲』を前に通用しない。

 もはや、カナタに手はないのだ。愚かにも諦め悪く特攻せんとする彼に憐憫の目をやり、カツミは左拳を溜める。


(――殴り潰してやるよ)


 軽く腰を落としての溜めの動作。しかし、カナタの行動はカツミの予想とは全く異なるものだった。

 肩の小型砲を突出させ、そこから『対異形ミサイル』を乱射してきたのだ。

 

「チッ、見込み違いか!?」


 まだ残弾はあった――小隕石のごとく飛来してくるミサイルを睥睨し、【ラグエル】はその剛腕を頭上に交差させた。

 そうして両腕に『ナノ魔力装甲』の粒子を集中させ、爆撃を正面から受けきる構えを取る。

 SAM格納庫を跡形もなく爆破してのける『対異形ミサイル』であろうと、【ラグエル】ならば防ぎきれる。

 その目算は決して、間違いではなかった。


 ――が、刹那。


 カツミの耳は、捉えてはならない風音を聞いてしまった。

 身体の右横から肉薄するその音は、気配は、断じて幻覚などではない。

 幻覚であったのは――


「糞がァァあああああああああッ!?」


 転瞬、ガラ空きだった横っ腹にぶち込まれる衝撃。

 吹き飛ばされると共に背骨はへし折れ、左胸の『コア』が罅割れる。

 何度も地面に身体を打ち付け転がり、やがて止まってから辛うじて残った力で首を上げると――そこには、飛行形態となって大空へ舞い戻る【ラファエル】の姿があった。


「なに……しやがった……」

「【フェイスストライク】――らっ【ラファエル】が飛行形態で放つ、新たな技だよ」


【モードチェンジ】を果たした機体が「力属性」の魔力を纏い、そのまま突撃する攻撃技。

 その軌跡は純白の一本槍の如し。一撃は強力無比。

【ラグエル】の屈強な体躯に激突していながら傷一つ付いていない【ラファエル】を仰ぎ、朦朧とした意識の中、カツミは最後に口元を微かに緩めた。


「やるじゃ、ねえか……コネ、野郎……」


 あのミサイルとそれを撃とうとしていたラファエルの姿そのものが、幻だったのだ。

 光魔法が空に描いた映像。普段のカツミならば見抜けたはずの、虚仮威こけおどし。

 だがこの時、カナタの猛然とした気迫に彼は呑まれてしまっていた。少年の魂の絶叫が、彼に虚構を現実と誤認させた。

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