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ホルン娘とフルート男子  作者: チャーコ


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4/5

4 ちょっと好き

 悩んだ末、お隣の栄太くんの家へ行きました。

 栄太くんは自分の部屋へ、私を入れてくれました。

 部屋は防音室です。ピアノとフルートが置いてあります。防音室は、羨ましいです。好きなときにいつだって楽器の演奏が出来ます。


「それで、返事は?」


 促されました。まだ迷ったまま、私は答えました。


「一応、付き合ってみようかと……。お試し程度で……」


 白砂先輩の、別れるとき面倒という発言が頭に残っています。

 それでも栄太くんは、ぱっと顔を明るくしました。


「お試しでも良いよ。公子ちゃんがちゃんと自覚するまで、待つからね」

「自覚を、待つ……?」


 私が好きと言うまで、待つのでしょうか。

 ポケットから栄太くんはチケットを取り出しました。


「これ、記念に一緒に行こう。奮発してS席取ったよ」


 チケットを見ると、有名なプロオーケストラの、チャイコフスキーの演奏会でした。ピアノ協奏曲もやりますし、チャイ5も演奏されるみたいです。

 嬉しい曲目ですが、高校生にS席チケット二枚は高いと思います。


「折半にしようか?」


 せめて自分の分は出そうかと考えました。


「いいんだ。付き合い記念。絶対チャイ5がいいって思ったからね」


 栄太くんはエアリーヘアをふわふわさせて笑いました。昔から好きな笑顔です。


「まあ、じゃあ……お言葉に甘えて」


 チャイ5コンサートが、初デートになりました。


 ♦ ♦ ♦


 デートなので、気合を入れました。

 ベージュのタートルネックセーターに、花柄プリントの膝上フレアスカートとロングブーツです。バッグは栗色の小さ目のものです。また、赤いリップをつけました。

 家の外へ出ると、栄太くんが待っていました。明るめブルーの上着が整った顔に似合っています。白いシャツから鎖骨が見えて、ドキッとしてしまいました。


「じゃあ、行こっか」


 また手を繋いできました。付き合っていると思うと恥ずかしいです。私は顔が赤くなった気がしました。

 オーケストラのホールでも、手を繋ぎっぱなしです。プログラムを見たいです。


 プロの演奏するチャイコフスキーは、素晴らしかったです。私のホルンソロなんて、全く比べものになりません。私はすごく興奮しました。


「すごかったね」


 アンコールの後、外に出てから栄太くんが言いました。


「すごかった! またプロオケ一緒に行こうね」


 私は興奮冷めやらずに、繋いだ手をぎゅっと握り返しました。


「プロオケも良いけどさ。公子ちゃんだってホルン上手だよ。参考にして、明日から吹けば良いんじゃないかな。明日からはベートーヴェンの交響曲第七番だよ」

「……ベト7なのは知っている。譜面書き換えもやったし。だけど、ベートーヴェンさん意地悪だよ……。高音ばっかりで音程が不安定になるの」


 ベト7の話を聞いて、ちょっと落ち込みました。ホルン殺しの曲です。


「まあまあ、公子ちゃんならば大丈夫だよ。何なら、今からオレの部屋で練習していく?」


 ありがたいお誘いです。私は家に帰って、ホルンの入ったソフトケースを持ってお隣へ行きました。

 私のホルンはベルカットホルンなので、ベルと本体をくっつけて、チューニングしました。栄太くんの部屋にはチューナーもあります。

 音程合わせしてから、栄太くんのピアノ伴奏で練習しました。やっぱり難しいです。高音が上手に出せません。

 必死で吹いているうちに、すっかり唇が痛くなってしまいました。唇の面積が増えた感覚です。


「栄太くん~。無理だよ~。唇が痛い」


 私が泣き言を言うと、栄太くんが近寄ってきました。


「見せてみて」


 栄太くんは、私の唇を見ようと顔を近づけました。とても綺麗な顔のドアップです。

 私が戸惑っているうちに、栄太くんはちゅっと軽くキスをしました。


「…………!」


 私は痺れたままの唇を押さえ、呆然と栄太くんを見ました。

 くりっとした大きな瞳。空気を含んだような軽やかで、ふんわり柔らかな質感・雰囲気のヘアスタイル。エアリーヘア。あどけない唇が、私の痺れた唇と重なったようです。

 私の顔は多分真っ赤です。栄太くんは悪戯っぽく言いました。


「少しはオレのこと、好きって自覚した?」


 逆らえない天使スマイルです。私はぎこちなく頷きました。


「ちょっと、した……」


 ホルンのマウスピースとは、全然違う感触。柔らかかった、唇。

 栄太くんのことが、好きなんだ……。小学校、中学、高校と追いかけて、やっと私は自覚しました。


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