日本で交わした「聖誕節快樂」の挨拶
挿絵の画像を作成する際には「Ainova AI」を使用させて頂きました。
私達日本人は、外国の様々な文化を積極的に取り入れて自分流にローカライズするのが得意な民族らしい。
今では国民食としてすっかり定着しているラーメンやカレーだって元々は中華料理やインド料理だし、イースター祭やハロウィンだって七夕や節分と同じような季節の行事としてすっかり馴染んでいるもんね。
特にクリスマスなんかは大晦日やお正月と並ぶ冬の定番イベントとして定着して久しいから、存在するのが当たり前のような感覚だもの。
だけど厳密に言うとクリスマスはキリスト教由来の神事であり、日本を始めとするアジア諸国にとって元々は存在しなかった年中行事なんだよね。
その事に改めて気付かせてくれたのは、ゼミ友の何気ない一言だったんだ。
「若い頃に日本法人へ駐在していたお父さんから話には聞いていたけど、日本の人って本当にクリスマスを盛大に祝うんだね。この県立大の学食なんかも『クリスマスフェア』って銘打ってフライドチキンとかショートケーキみたいな限定メニューを出してるじゃない。」
黒縁眼鏡の奥でクリクリと動くつぶらな瞳には、好奇心の輝きが宿っていた。
親日国である台湾から留学してきた王美竜さんにとって、日本の事は何でも興味津々みたい。
「台湾だと違うの、美竜さん?日本だとクリスマスは年末年始と並ぶ冬休みのメインイベントって感じがあるけど。」
「まあね、蒲生さん。そもそも台湾だと、新暦の年末年始は少し影が薄いんだよ。何しろ少し待てば春節が控えている訳だからね。」
確かに中華圏である台湾なら、春節の方がメインになって来るだろうね。
神戸や横浜の中華街とかも、春節シーズンは大賑わいだもの。
「日本だとコンビニや学食とかでもケーキが売っているけど、台湾だとクリスマスケーキを置いている店も少ないんだ。この時期に下宿でテレビを見ると高確率でフライドチキンのCMに遭遇するけど、そういう事は台湾だとなかったね。」
「えっ?ケーキもフライドチキンもそんなに食べないの?それじゃ台湾の人達は、クリスマスには何を食べてるの?」
そんな質問をぶつけると、美竜さんは難しそうな顔をして首を傾げてしまったんだ。
「そうだねぇ、強いて挙げるなら…冬場だから火鍋とか羊肉爐みたいな温かい料理なら食べるかなぁ。後はレストランでローストチキンやステーキみたいな豪華な料理を食べる人もいるけど…要するにクリスマスの場合は大晦日の火鍋や元宵節の湯圓みたいな特定の行事食が決まっている訳じゃないんだ。」
そうして指折りで数えている様子を見るに、美竜さんの脳内にも「台湾におけるクリスマスの定番料理」という確固たるイメージはないみたいだね。
「それはやっぱり、クリスマスが西洋から入ってきた新しい行事だからなのかな。小学生の頃に『お願い!バケねこん』のクリスマスケーキをお母さんにねだったり給食のフライドチキンに喜んだりした身としては、ちょっと複雑かも。」
この分だと、美竜さんの口から台湾ならではのクリスマスエピソードは期待出来ないだろう。
同じ東アジアの国でも、日本と台湾とではクリスマスの扱いも大きく違うんだね。
そんな私の物足りなさを察したのか、或いは子供の頃の懐かしエピソードに惹かれたのか。
美竜さんはエキゾチックな美貌に小さく微笑を浮かべて、こう付け加えたんだ。
「良いね、そういうクリスマスならではの思い出って。確かに台湾では日本程には盛大に祝わないけど、それでも若い人達にとっては楽しい季節の行事として親しまれているんだよ。日本と同じように、デパートやショッピングモールとかではイルミネーションや大きなクリスマスツリーが飾られているんだ。」
「えっ、そうなの?それを聞くと途端に親近感が湧いてきたよ!美竜さん、他にはどんな事をするの?」
やや食い気味になっていた私を「慌てないで」と制しながら、留学生のゼミ友は台湾の若年層が過ごすクリスマスを教えてくれたんだ。
「日本だとクリスマスを家族でも祝うけど、台湾だとカップルや友達同士で楽しむ感じなんだ。例えば『聖誕節快樂』って挨拶しながらお菓子の詰め合わせみたいなプレゼントを交換したり、友達同士で誘い合わせてカラオケに行ったりするんだ。台湾だとみんなカラオケが好きだからね。妹も国民中学の放課後にはクラスメイトと誘い合わせてカラオケボックスに繰り出すし、私も高校生の時まではそんな感じだったよ。」
「友達同士でカラオケ…それ、良いじゃない!そう言えば南海中百舌鳥駅近くのカラオケ屋もクリスマスコースを始めたみたいだよ。小振りだけどケーキもチキンも付いてくるし、追加料金でアルコールも飲み放題に出来るとか。」
ところが今度は、美竜さんの方が食いつく番だったんだ。
「えっ、アルコール飲み放題!中百舌鳥駅近くだと確か『カラオケ・スペクトル』だよね。蒲生さん、土曜の補講の後って予定は空いてるかな?」
「えっ?!うん、その日はバイトも無いから一緒に行けるけど…」
そう言えば美竜さんは見かけによらず、物凄い酒豪なんだよね。
カラオケとお酒という大好きな物がセットになっていたら、そりゃ食い付かずにはいられないか。
「そう言えば美竜さんは、クリスマスにはお菓子の詰め合わせを交換するって言ってたよね。せっかくだから、その日はボックスでお菓子の交換もしてみない?」
「話が分かるじゃない、蒲生さん!それじゃ当日は、『聖誕節快樂』って言いながらお菓子を交換しようよ!」
こうしてトントン拍子に話が進み、十二月最初の週末はカラオケで遊ぶ事に決まったんだ。
今年のクリスマスは日台折衷式に過ごしてみるのも、なかなか面白そうだね。




