第四話 ~ミソラが龍の住処に行く理由を聞き、スフィに魔界と魔族の話をした~
第四話
「それで、ミソラさんはどうしてギルドの仕事をすっぽかしてまで、龍の住処に行こうとしているのですか?」
朝ご飯を食べ進めていきながら、ツキは先程疑問を呈していたことをミソラに尋ねていた。
少しだけ『トゲ』があるように思えるのは、やっぱり気のせいでは無いと思うんだよな。
「……すっぽかしてなんかないわよ。きちんと部下に仕事を振り分けたわ」
ミソラはそう前置きをしたあとで、龍の住処に行く理由を話し始めた。
「ベルは龍の住処にいく理由が『緋色の欠片』だけれども、私は違う素材が欲しいのよ」
「違う素材ですか?」
「そうよ。私が欲しいのは『龍の鱗』ね。ギルドにストックが無くなったから補充しに行くの」
「行商人から買えば良いでは無いですか」
ツキがそう言うと、ミソラはケラケラと笑いながら言葉を返した。
「あはは。それだと高くつくじゃない。私が行ってめぼしい龍から鱗を剥ぎ取れば『原価はタダ』よ」
「……簡単に言ってますが、相手は龍ですよ?」
訝しげにそう言うツキに、ミソラは軽くお茶を飲んでから答える。
「まぁ……ベルが相手にしようとしてる『龍王』なら少し骨が折れるかもしれないけど、その辺の龍ならわけないわ」
「……忘れてました。貴女は『殲滅の魔道士』でしたね」
「……その二つ名で呼ぶのは辞めて貰えるかしら」
ミソラがそう言うと、隣に居たリーファが笑いながら言う。
「あはは。私も千の魔法使いなんて呼ばれてるからね。二つ名はなかなか消えないものよ」
「その二つ名が魔界にまで届いてるとは思っても居なかったけどな」
俺がそう言うと、リーファが首を縦に振りながら言葉を返した。
「そうね。私とエリックが相手にした魔族も、彼の二つ名を口にしていたわ」
「人間界の有力な個体は魔界でも把握している。って言ってたからな。こっちは向こうのことを何も知らないけど、向こうは知っている。情報戦では完敗だな」
俺がそう言うと、スフィが神妙な表情で聞いてきた。
「……その、ベルフォードさん。こちらから魔界に行く方法はあるんですか?」
「そうだな。ミソラやリーファレベルの魔法使いなら『次元の門』って魔法が使える。それを使えば人間界から魔界に行くことが出来るよ」
「な、なるほど……ではこちらから向こうへ攻め込むことは……」
「無理だね」
俺がそう断言すると、スフィを息を飲んだ。
「……無理……ですか。理由をお聞きしても?」
そう問いかけるスフィに、俺は理由を説明していく。
「まず、魔界では魔族の戦闘力が跳ね上がる。こっちのAランクのモンスターが向こうではSSランクレベルになる。2ランクは上がるね」
「そ、そんな……」
「これは魔界に満ちてる空気に魔力が含まれてるからだね。これによってモンスターは際限なく魔法を使える。人間は空気中から魔力を摂取出来ないからね」
「な、なるほど。リーファさんのようなハーフエルフはどうですか?」
「私なら空気中の魔力を体内に取り込めるわ。現にこの世界でもそうして取り込んだ魔力を使って魔法を使っているわ。でも、魔界に満ちてる魔力は人間界と違うから、私にとっては毒なのよね」
「つまり、人間が魔界に行くことは自殺行為に近いんだ」
「えっと、では魔族の弱点は無いんですか?」
スフィのその言葉に、俺は少しだけ苦笑いを浮かべながら言葉を返す。
「そうだね。人間が魔界に行くと自殺行為なのと同じように、魔族にとっても人間界の空気は毒なんだ」
「そうですか」
「それでもめちゃくちゃ強いことには変わりない。魔族がこちらに来たら、少なくともSSSレベルだよ」
「それに、向こうは『素体』って言うものを使っているわね。これによってほぼノーリスクでこちらに来ることが出来るわ」
「その素体もめちゃくちゃ強かったな。これにも対策が必要だよな」
俺がそう言うとミソラが話を始めた。
「その素体に対抗する手段のための素材に、龍の鱗が必要なのよね」
「へぇ、そうなのか。理由を聞いてもいいか?」
「向こうが素体をこっちに送り込んで来たのと同じように、私達も『傀儡』を魔界に送り込むのよ」
「なるほど……そんなことが出来るのか?」
「私やリーファレベルの魔法使いなら人間界から傀儡を遠隔操作して魔界を探索出来るわ。素体と違って戦闘力は皆無だけど、ノーリスクで敵情視察が出来るわよ」
「悪くないアイディアね」
「なるほど。ただ龍の住処に遊び行くだけでは無かったのですね」
「……貴女は私のことを一体なんだと思っているのよ」
こうして今後のことを話し終えた俺たちは、朝ご飯をしっかりと食べ終えた後に、旅に出るための身支度を済ませて行った。




