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嵐を呼ぶお姫 第二部 (28)墨

重装騎士のタッソと弓の魔女ヘンリエッタのコンビネーションで包囲されてしまったキャリバンとヴォーティー達。しかしヴォーティーは巧みな話術で油断を誘い、そして忽然と姿を消してしまった。

慌てるタッソの陣営。

ヴォーティーはこの窮地を逃れる事は出来るのか?

数瞬の差だった。

タッソは咄嗟に盾を掲げた。


タッソは七年前のヒリ付くような戦場を思い出した。

対人では考えられぬ事態。竜人の翼は馬防策を乗り越え、城壁を突破し、塔の上から飛来する。竜人の鱗は兵士の武器を弾き、口から出す炎や酸は死を撒き散らした。

戦場を後退するたびに次から次に入れ替わる部下。

初戦は一方的な殺戮だった。

平原で相対した時、数で勝るタエト軍は勝利を確信していたが始まってすぐにそれは蹂躙という名で否定された。

ショートボウを用いた回転の良い飛び道具で牽制し、強力な騎士が叩く。飛び道具の貧弱なゴブリンやオークとの戦争で必勝の形だった。革の鎧程度の武装しかない奴らにはショートボウでも致命傷であった。

しかし竜人は違う。硬い鱗の上に鎧を着ている。ショートボウの届かない上空から急降下で襲い来る。未知なるものとの戦闘。

タッソの中にあの時の苦い感覚が蘇る。

何かが拙い。

タッソの細胞が全力で危険を知らせていた。


 ヴォーティーの演説に油断し、勝ちを確信して戦いの熱が冷めかけていた兵らに恐怖が走る。

 いきなり目の前から敵が消えたのだ。

訳も分からず呆気にとられる兵たちは動揺し大楯から顔を出し、周囲を警戒した。

 この差が騎士タッソを救った。

「顔を出すな!」と叫んだが間に合わない。

 突然、何もない空間から黒い液体が噴霧され大楯兵たちの視界を奪ったのだ。

 訳も分からず噴霧の元を槍で突く大楯兵達。

 当然、そんな場所にいつまでもいるヴォーティーではない。

 浮足立つ大楯兵の最も若いを狙い大楯を下から持ち上げる。

 腰が引けている若兵は楯ごと後ろにひっくり返る。

 怯んだ所をキャリバンが割り入る。

 混乱の中、崩れた前列にロブスが大楯を前面に突撃した。

 7フィル(約210cm)を超える大海老兵ロブスの怪力は計り知れず、視界を失った大楯兵が三人いっぺんに吹き飛ばされる。

後方の屍大楯兵は咄嗟の判断が出来ずにその場を動かない。

後ろからの援護は来ず大楯の輪は乱れた。


 こんな時にパンチョスが居れば適切な指示をしたのだろう。タッソも優秀な指揮官ではあるが何事も想定外すぎた。

「二列目カバーに入れ!」

 そう命じた時、後列の屍大楯兵に異変が起きる。

 石弓の攻撃だ。

「奴らに戦力は無い筈?」

 海賊共の戦力は街に釘付けてある。スケアクロウからの通報もない。

 後方の屍兵が次々に倒れていく。

 後方の指揮はスケアクロウが行っている。

連携が取れない。

 石弓を放ったのはラマンチャが連れて来た副長ケンブルの援軍だ。


「ラマンチャ!」

 アナは先頭を走るラマンチャの無事を喜ぶと、パンチョスに向き直った。

海賊の残存兵力は街に釘付けにしていた筈だが…と失策を悔やんだ。スケアクロウを安全な場所に置いていかずに近くで密に確認指示をしなかった。

痛恨のミスである。

大方、包囲網に夢中で街に駐留する戦力の確認を怠ったのであろう。


「なにやってンだ全く。まあ、案山子のは軍事に素人だ、仕方がない」

 

 後方の屍兵は海賊の石弓に倒れて行った。

 街でアナを襲った屍兵に比べて信じられない程脆い。

「やはり弱兵でしたな」

 何もない所からヴォーティーの声が聞こえる。

「盾を持つ程度なら十分と考えたのでしょう」

 キャリバンは不意打ちで視界を奪われた大楯兵に蹴りを入れ、排除する。

 死体の多くは墓でも掘り返したのか、ゴブリンの集落を襲ったのか、イシュタル兵の新鮮な死体を使った屍兵とは比べ物にならぬ貧弱さだった。


ロブスと一緒に囲いを突破したツナとスピンジャックは大楯兵の後ろから石弓を構える。

「フィッシュ!」

 即座に騎士タッソが号令をかけると、浮足立った大楯兵は集結し、くさびのような陣形に替わった。

 

「敵は少数で今は前方にしかいない! 挟撃させるな!」

 目が見えないなりに密集して敵を防ごうというのだ。

 ヴォーティーは見えない角度から再び墨を吐く。

 号令に従った大楯兵は大楯を上げて防御した。


「さあ、形勢逆転ですわパンチョス卿」

 アナは横を駆け抜けるラマンチャと魚介兵達にウインクをするとサーベルをやや後方、脇に構える。

 間合いを測らせない構えであるが、パンチョスは間合いに入ってこない。

「パンチョス卿、私は王位を継ぎません、しかし私たちは互いに力を合わせる事が出来る」

 ジリと靴底がわずかに滑る。

「それは奇遇ですな、私も賛成です」

 パンチョスは肩をすくめながらも間合いを外した。


「ならば兵を引いていただけませんこと? パンチョス卿」

「なに、まだ大勢は決しておりませんよ姫」


さあ、次回はヘンリエッタとセバスチャン回。

弓の魔女の実力は底が見えず、セバスチャン大苦戦!

待て次号!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヘンリエッタがここからどうなるかなぁ~。 遠距離にいる彼女への直接攻撃手段がなさそうなので、アナ勢がどう対応するか…? [気になる点] 多分、漢字の意味合い的に異なると思われる部分があるの…
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