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嵐を呼ぶお姫 第二部 (26)降伏勧告

戦力を削ったセバスチャンとキャリバンだったが主力の大楯部隊は健在で会った。

一方アナは、パンチョスに指揮をさせぬため足止めを試みる。

嵐を呼ぶお姫 第二部 26幕 降伏勧告 始まり始まり!

―― 重装騎士と弓の魔女


 バレては致し方なしとセバスチャンは馬車から離れて明かりの外へ出た。

 闇夜に紛れて後方を突こうというのだ。

「回り込まれる、ラウンド!」

 タッソは大楯兵を周囲に囲ませる。円周陣形になった大楯兵の横で自身はセバスチャンを探す。大楯兵の数が減ればそれは敗北につながる。

一般的な兵や騎士ではあの二人を倒すことはできない。

 攻めあぐねるセバスチャンは後手に回るのを承知でいったん距離を取る。

悔しいがショートソードでは大楯兵を突破できない。

「あの騎士は罠だな? なかなかやりおる」

 騎士タッソに斬りかかれば大楯に取り囲まれて詰む。

 どの位の腕か知らないが、板金鎧の騎士をショートソードで倒すには引き倒して組み敷き、鎧の隙間にショートソードを突き刺すしかない。多対一で取っ組み合いなどこの状況では悪手の一言に尽きる。

 

「キャリバンを待ちたいところだがさて」


 一方キャリバンは暗闇から飛来する矢の攻撃を受けていた。

「この暗闇で、狙いが正確過ぎるな」

 矢は単発だった。向こうは石弓兵に見えるが一人、長弓兵が混ざっているらしい。

 石弓兵の有効射程は短いものの、最大射程は長く、集団で斉射されると厄介であった。

一撃を打たせて懐に飛び込みたいところだが、敵の数が不明では危険すぎる。

 見た所、巻き取り式の強力な石弓ではなさそうだが、有効射程距離で一斉射されれば鎖帷子など簡単に突き破り命を奪うだろう。

「あの長弓兵、間接射撃でこの正確さとは」

 この距離では視認すら怪しいというのに、移動地点を推測して撃ってくる。それが恐ろしく正確であった。

「弓で牽制して有効射程距離に入ったら石弓を斉射するつもりか」

 キャリバンは横に移動しながら馬車を射角に入れる。

 すると同時に馬の尻に矢が突き立った。

 慌てて駆けだす馬車に射角が開かれる。

「拙い」

 三本の石矢が飛来する。

 キャリバンは勘だけでそれらを避けた。

 暗闇からの石弓は視認できない、明るくなったとしても初速が速すぎて叩き落せない。

よく訓練された石弓兵部隊の様だ。

 

「逸って全弾撃つな、三人ずつだ。 敵は一人であの距離だ、慌てる事はない」

 ヘンリエッタはもう一人の敵、セバスチャンに狙いを定めた。


 一方のセバスチャンも攻めあぐねていた、後方から援軍が来る時間を作らせてしまっている。酒場では百と言ったが実際は五十から六十程度と予想していた。

すでに半数を屠っている。

人数的に二十程度の歩兵と弓兵だが優秀な副官がいるらしい。


―取り囲まれてやる「振り」をするか?


 石弓兵であれば矢の軌道が直線であるため大楯が射角に入れば無効化できるが、大楯に囲まれて四方八方から攻撃されては敵わない。

「さて」

 セバスチャンは円周陣を組んだ大楯の横に位置する騎士に向かって走った。


――アナとパンチョス


 白む空を背に金髪が揺れた。

 アナの独特な歩法が草原を撫でる様に詰める。

「さて、慈悲深きアナ姫様、手負いの老騎士に止めを刺すンですかい?」

 そんな言葉に惑わされることなく腰のサーベルに手を添え一気に間合いを詰めるアナに盾を構えながら尋ねる。

「おおっと骨折してるんですって、痛い痛い」

 アナの抜きざまの一撃を盾の縁で受け流す。本来ならそのまま右手のロングソードで反撃と行きたいところだが振り回すのは到底無理な話だった。

「パンチョス卿、ここで貴方を討たなければ仲間が死にます、お覚悟」

 アナはトンボの構えに剣を立てる。

「おお、怖い怖い、先日は見逃してくれたのに今日は討つというのか、王族の気まぐれは本当に怖いね」

パンチョスは薄ら笑いながらも軽やかにアナの間合いを外した。

アナの狙いは恐らく遅滞だ。

ここでワシを釘付けにすることであろうとパンチョスは読んだ。

「仲間の海賊共があの怪物の援護に回っている、到着まで時間を稼ぎたいといったところか、ふむ」

 パンチョスは情勢を見る。

「まあいいか」ともう半歩下がる。

 アナの剣激が空を斬る。

 サーベルの重みに振り回され、わずかに体制を乱す。振るうたびに激痛が走り筋肉を硬直させるのだ。明らかに踏み込みが甘い。遅滞の為だけではない傷が痛むのだろう。

 縫い合わせた個所から血がにじむ、天使の光に包まれていなければ行動不能である。

「急に動きが鈍くなりましたなアナ様?」

「黒の教団に雇われながらも何が別の目的があるように振舞う。貴方の本当の目的ですの?」

 アナは苦痛を笑顔で隠し、間合いを測った。

「考えすぎです姫様。王族の采配のせいで無職になったンでね、雇用契約されただけさ」

 密かに間合いを詰める歩法で射程内に捕らえようともパンチョスはそれを見事に外す。

「若い頃、姫様の師匠にも手ひどくやられましたからな、その手は喰いませン」

 アナの間合いに迂闊に入る危険は身をもって体験済みだ。

パンチョスは手負いと言えど、このお姫様の危険度はあのキャリバンと同等と考えていた。

 勝機を掴んだなら痛みも忘れて暴風のように戦う。

「くっ!」

 踏み込みを外されるたびに脇腹の筋肉が引き攣る。

「まあ、頑張ってるお姫様の為にちょいとおしゃべりに付き合ってあげますか」

 パンチョスは笑顔を見せた。

「おしゃべり?」

「足止め、したいンでしょう?」

「それは…」

 図星を突かれて顔色に出てしまう。

 アナは悟られまいと踏み込んで突きを放つ。

「まあ良いでしょう、少し私も話したくてね、王族のお姫様」

 パンチョスは警戒を解かずにアナを見る。

「質問を質問で返して悪いが、なんで姫様は王位を継がないンですかね?」

「私は王族などでは…」

「聖騎士達の大義名分もあと1年ってトコです、全滅したタエト軍の代わりに竜人達からタエトを守る? ちゃんちゃらおかしい」

 パンチョスは鼻を鳴らす。

「奴らはタエトを奪うつもりだ、そしてその準備は完了している、イシュタルとパロで半分コですよ」

「しかし聖騎士同盟の誓いは絶対です、パロ王の慈悲でタエトは救われた」

「意外と世界を知らないですな姫さん、パロは強力な防衛線で竜人共をタエトに誘導した、火事場泥棒共にタエトは嵌められたンですよ」

「同盟国が何故そんな事を?」

「決まってるでしょう? 海洋交易権ですよ」

 アナはにわかに信じがたかった。

 パロ王は王都が落ちた後、多大な犠牲を払い、竜人を駆逐した。本来なら強固な防衛線を持つパロ国内で迎え撃てばよいものを、「同盟国を救え」と大勢の騎士たちを派遣したのだった。

「イシュタルは陸路、海路と共にパロが交易権を掌握したのなら世界の利権をパロが握ってしまうと考える、聖騎士王の末裔でもないイシュタルが身の危険を感じて当然でしょう? エルオンドが平和路線を行く昨今、南方同盟は意味をなさない」

 パンチョスのいう事は国際情勢として正しい。

 竜人戦争を現在の世界情勢はパロを中心に回っていた。

「あれ程までに犠牲を出してパロ国内の貴族からの反発もあった筈ですわ?」

「まあそうですな、正義の騎士なんて物語だけのもの。利益や利権の絡まない戦いに誰が望みましょうか? 国王の支払った対価などたかが知れている」

 反発を抑えるだけの利権が海洋交易権と言う訳だ。

確かにパロの貴族達は挙って海洋交易に出資している。陸路での交易で栄えたパロも現在ではイシュタル、アドリアの海洋交易国に圧されているのが現状だ。喉から手が出る程欲していた利権である。

「きっかけは竜人戦争だが、パロがかつての仇敵エルオンドとよろしくやっているのは陸路での交易顧客がエルオンド中心になって来たからだ」

 海軍の弱いエルオンドは仇敵アドリアとの争いで海洋交易が難しく、また海に面した北海方面は潮流の厳しい海の難所である。交易をするならパロを頼らずにいられない。

「大体、エルオンドの南方進出だってパロが関税を引き上げたおかげでエルオンドの経済がめちゃくちゃになったせいですよ? 宮廷では偽りの歴史しか学んでないンでしょうから知らないのも無理ないですがね」

 聖騎士の誓いから数百年。国益と聖騎士の誓いとを天秤にかけると政治の中心が国益に替わりつつあるという事だ。

「ま、難しい話は抜きにして、最後の交渉ですが、大人しく王位に就いていただけませんかね? 教団の方は利用したほうが良い」

 アナは全てを鵜呑みにするわけにはいかなかった、確かにそう言った側面もあるかもしれないが、事は単純ではない。

「黒の教団は大神の教えを説く正教会と対立していますわ? それにその話は聖騎士同盟の瓦解にも繋がるお話です、俄かには受け入れらません」

 パンチョスは肩をすくめると「歴史はそれを見る者により真実が存在するンですよ」とアナに手を差し出した。

「まあ交渉が成立しない場合はこのまま戦って全滅もいいでしょう」

 そう言って首をキャリバン達の方角に向ける。

いつの間にか現れた屍兵の伏兵に取り囲まれている。

 ヴォーティーとキャリバンは合流出来た様子だが、合流したおかげで動きが制限されている様だった。

「おうおう、健気だねぇ、あんな少人数で円陣組んで意味なんか無いだろうに」

 ロブスの大楯が1枚、腕の悪い石弓兵2、そしてキャリバンと船長だ。

キャリバンは伏兵を察知していたが、動きが鈍い魚介兵が伏兵に捕まり包囲されてしまったのだ。ツナとスピンジャックは、足は速いが新兵である。機敏に命令通り動くことはできなかった。

 セバスチャンの動きは見えない。キャリバンと持ち場を交代したのか、今はキャリバンが重装の騎士率いる大楯部隊と対峙している。

 闇に紛れて機会をうかがっているのだろうか?

夜明けが近い。

 東の空が明るくなれば弓の魔女の餌食である。


「さて、降伏勧告です姫」

 パンチョスは恭しく一礼すると微笑みかけた。


今回も戦略としてパンチョスの方が上なのか?

万事休すのアナ姫一行。

どうなるアナ姫、待て次号!

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいですねぇ。政治的な事情を絡めたパンチョスの事情。 聞いていくうちにやはりパンチョスは憂国の士に思える…。 理想の100点満点ではなく、現実的な範囲での最高点を狙うタイプに思えます。単…
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