嵐を呼ぶお姫 第二部 (14)ラマンチャの偵察
相手の戦力が整わないうちにアナの移動を決めたヴォーティー一家に襲い掛かるパンチョス。
絶体絶命のピンチに陥る一行だったが?
一方、スケアクロウの偵察に出たラマンチャは?
(14)ラマンチャの偵察
ラマンチャはスケアクロウとパンチョスの動向を見張るために郊外にある廃墟に向かった。アナから借りた魔導単眼鏡を手に、廃墟を見下ろせる小さな丘に登って身を隠した。
幸い、身を隠すのにちょうど良い岩と樹木がある。
作戦会議の後、夜陰に乗じて移動して今の場所に陣取った。
セバスチャンから持たされた兵糧食を食べながら見張る。
硬く焼しめたクラッカーよりもまだ堅い。それに干した果物と果実の入ったお茶。
目線を落とさずに飲み食いできるようにお茶は特殊な革袋に入っていた。
吸うと出て来る仕組みで、ラマンチャは初めて食べるそれらに感嘆した。
「なんだ、アナが言うほど不味くないじゃないか」
確かに硬く焼いた兵糧食は口の中がパサパサになるが果実の入ったお茶で流し込むと、ほのかな麦の甘みがする。栄養不足にならぬ様に添えられた干した果物には砂糖がまぶしてある。これがまた美味しい。
口に含むとじゅわっと甘みが広がる。
「確かに、数日この兵糧食だけだと飽きるかもね」
本当はもっと食事を楽しみたいが、ピクニックに来たわけでもない。
単眼鏡を覗きながら手早く食事を済ませると、ラマンチャは筒状に光を絞った角灯を瞬かせてセバスチャンに合図を送った。
難しい暗号ではなく二回瞬かせたら相手に動きなしという意味で、何度も点滅させると危険を知らせる手筈だ。
スケアクロウの様子を見ると何やら身振り手振りしている。
話し相手は居ないようだが、周りには数十体の屍兵が動かず時を待っている。
アナの移送決行日になっても様子は変わることなく、屍兵は増えていった。
定時連絡では最終的な様子を暗号文で簡潔に送る。
幸い、字が読めるラマンチャは暗号表に従って短い文を送った。
「カカシ ヘイ二十 ウゴカズ キシ スガタナシ」
パンチョスはどうやら街に向かった様子だ。
偵察なのか、決行日に気が付いたからなのか。
焚火に照らされたスケアクロウ達は動く気配が無い。
魔導単眼鏡のダイヤルを調整し倍率を上げてみる。
――何かおかしい。
ラマンチャはスケアクロウの様子に違和感を覚えていた。
俺だって飯を食うし用も足す。
一日、ああして屍兵を量産するだけなのだろうか?
ラマンチャ自身は魔力が無いため魔導単眼鏡の倍率が思ったように上がらない。
魔導単眼鏡はタエトの魔導技術の応用で作られた高性能望遠鏡である。
当時、レンズの研磨に関しては後進国だったタエトがその技術力を補うために開発したものだが使用者の魔力に応じて性能に差が出るのが弱点であった。
アナの持つそれはノームの職人が磨いた質の高いレンズではあるが、倍率を変える機構に魔力を使用しているためラマンチャでは十分能力が発揮できないのだ。
「しかたない」
と呟くとラマンチャは闇夜に乗じて拠点に近づいた。
慎重に歩を進め、草むらを這うと再び魔導単眼鏡でスケアクロウを観察する。
こちらに背を向け、身振り手振りするスケアクロウ。
動きがある。
動きがあるが違和感を感じる。
表情を見るため危険を冒して廃墟の屋敷まで肉薄する。
自分が人質になった際のリスクは右手の傷が良く知っている。
痛み止めと化膿止めを飲んではいるが定期的に鈍痛が走る。
極力物音を立てぬ様に風と同化するように動いた。
やはり妙だ。
歩哨の兵が動かない。
屍兵は生きていないのだから疲れても体制を崩さないし、欠伸もしないだろう。
確証を得るためラマンチャは危険を覚悟で傍らの石を歩哨の兵に放った。
が反応は無い。
ラマンチャは屍兵が熱源に反応するのを思い出した。
今度は石に枯草を捲き、火をつけて放つ。
やはり反応は無い。
この歩哨はただの案山子だ。
もしかして中も?
ラマンチャはこの拠点自体が陽動だと気が付いた。
船長との戦いでアナが行っていたことを思い出す。
兵站と陽動。
スケアクロウもパンチョスも狙いはアナだ。
ラマンチャは急いで廃墟の屋根に駆け登ると
街に向けて合図した。
アナが危ない!
絶体絶命のヴォーティーの運命や如何に?
さあどうなるヴォーティー一家。
まて次号!




