嵐を呼ぶお姫 第二部 (6)異国の騎士
港町デイビーデレの市場で仲良く買い物をしていたアナとラマンチャだったが、アナを突け狙う黒の教団という組織の刺客スケアクロウに襲撃される。
多勢に無勢の中、なんとか戦況を打破するアナとラマンチャだったが、元タエトの騎士パンチョスの乱入によって絶体絶命の危機に瀕していた。
パンチョスの持つ魔導吸収盾とアナの魔導銃の相性は最悪で手も足も出ないアナとラマンチャ。
さて二人の運命や如何に?
嵐を呼ぶお姫 第二部 第六幕 開幕
(6)異国の騎士
「ご同行願えますか?」
とパンチョスは口髭の間から白い歯を見せた。
年の頃は四十代前半だろうか、陽気なタエト人によくある顔立ちだが、大きく垂れた目から発する眼光はスケアクロウなど比ではない重圧を感じる。
アナはパンチョスを睨んだまま体制を立て直そうと藻掻いた。
二度目の蹴りは深く入らなかったがアナを戦闘不能にするには十分だった。
十四歳の腹筋では鍛え上げた大人の蹴りに耐えられるはずもなく、腹部は強烈な鈍痛と苦しみを持ち上げ、脚に全く力が入らない。
ラマンチャもまた踏みつけられ、自由を失っていた。
「離せ、この糞髭!」
必死にもがくラマンチャをパンチョスは覗き込む。
ダメージの観察なのだろうか?
パンチョスは少年のような目でラマンチャを眺めた。
「少年、なかなかやるじゃぁないか? 素人ながら戦いの機微がわかる」
何を言うのかと思えば騎士パンチョスはラマンチャを褒めた。
うんうんと何か頷きながら満足げにほほ笑んだ。
「小麦粉を投げつけたのは僥倖だったな、おじさん屋根の上で笑いをこらえるの必死だったよ、案山子のザマったらなあ、ふふふ。粉塵爆発を怖がって魔法を打てないへっぴり腰っと、いやあ、ふはは」
粉塵爆発という単語が何なのかラマンチャには理解できなかったが、うっすらと魔法が撃ち辛くなるのが解った。
右肩は致命傷ではないがパンチョスに傷口を踏みつけられ激痛が走る。
必死に藻掻いてみたが重心を支配されて身動きが取れなかった。
「アナ! コイツらのいう事を聞いちゃだめだ! 俺には解る! 悪い奴の匂いがする! 絶対に…」
パンチョスはラマンチャの顎を蹴り上げた。
「うるせえな」
パンチョスは蹴り上げた拍子にラマンチャの右肩に全体重をかける。
ラマンチャは歯を食いしばって悲鳴を抑え込む。
悲鳴を上げればその間の思考が停止する。
「でも、男だなぁ少年、おじさんそういう青臭いの結構好きだぜ?」
そう言いながらラマンチャから降りて脇腹も蹴る。
横隔膜が痺れて呼吸が出来ない。
悲鳴なんぞ聞かせてやるもんかと歯を食いしばるが、苦痛で歯の隙間からシュウシュウと息が漏れる。
ラマンチャは蹴られた方向に転がりながらも周囲を観察した。
「おじさん、弱い者虐めは嫌いなんだよ少年。少年からも姫を説得してくれないかなあ。ま、悪い様にはしない」
パンチョスはアナの方に歩み寄り覗き込む。
手足の痙攣具合、呼吸の浅さを見て取るともう一度脇腹に蹴りを入れた。
バグンと嫌な音が響く。
「やめろ! アナをどうするつもりだ!」
「お姫様にはお姫様の役目ってのがあるんだよ少年」
そう言うと抵抗出来無くなったアナをつまみ上げる。
少女とはいえ片手で摘まみ上げる膂力。
この男はとぼけた顔で生半な鍛錬を積んでいないのだろう。
その何気ない動作にラマンチャはゾッとした。
「お姫様には本来の役目に戻ってもらうだけさ、少年もこのお姫様がこの国を復興させる姿、見たいだろう?」
金物屋が鍋を紹介するようにアナに手のひらを向ける。
「アナがお姫だからと言ってなんなんだ? タエトは滅びたんだろ?」
「いや少年、王家が途絶えたとイシュタルやらパロが切り取りにかかっている最中だが、王族が生きているとあれば話が変わってくる。正確には滅んだのじゃなくて、滅びかけてるだけだ少年」
パンチョスは左手を広げて街を見よとばかりに振り返る。
割れ山から産出される白い石でできた街並み。
活気があったあの頃。
ラマンチャにも覚えがある。
港はもっと活気があった。
今では怪しい人物が出入りし、褐色の肌のイシュタル兵が我が物顔で威張る。父さんだって、あの戦いが無ければ…と、ラマンチャは思っていた。
しかし此奴等にアナを自由にさせるのとは別だ。
「お前さん、孤児だろう? まあ俺も孤児みたいなもんだ。王族に捨てられた悲しい騎士さ。この美しい街並みも、いずれはイシュタルの物になっちまうんだぜ? 人種も信じる神も違う奴らの手に」
パンチョスは「忌々しい」とイシュタル兵舎の方向へ唾を吐き捨てた。
「知ってるか少年? 今、このお姫様は王位継承権第二位、このお姫様のお父上がこのまま出てこない場合は正当な王、まあ女王って奴にならにゃならん女だ、火事場泥棒共を一掃できる立場にある」
「じゃあなんでこんな手荒な真似をしてるんだ?」
「抵抗するからだろうが?」
さも当然の様にパンチョスは目をぱちくりさせる。
「案山子君たちはお姫様を何の目的に使うか知らないが、俺は生きていようが死んでいようが最終的にこの姫様の王位継承権があればいい。いいか少年、俺はこの姫様が死んでも構わないんだ。屍の女王ってのも風情があるだろ? 要は象徴さえあればいい、魔導器の事はしらん、この狂った教団に任せる」
どうやらパンチョスの目的はスケアクロウと違う所にあるらしい。
利害関係が一致しているだけなのだろう。
「少年は生きてる姫と、死んでる姫、どちらがいい?」
まるで今日の晩飯は肉と魚、どっちが良いか聞いているような口調でアナの生死を問う。
「そんなの決まってるだろ?」
ラマンチャは怒りでおかしくなりそうだった。
「じゃあ、決まりだな、手伝え」
パンチョスはなんだか嬉しそうに笑う。
「決まってないし、手伝わない!」
アナが最終的に女王になるのは反対ではないが、此奴等に任せる事は出来ない。
「そうなのか? じゃあお前も姫様も死んで、俺は屍人になった姫様を王位につかせるだけだ、残念だなあ」
そう言って腰から短剣を取りし躊躇なくアナに刺した。
致命傷にはならない箇所だが、完全に戦闘不能にするためだ。
この男は躊躇なく人を殺せる、下手をすると本当にアナを殺しかねない。
ラマンチャは覚悟を決めると出来るだけ情けない顔をしながら辺りにあるものを投げた。
「ほ、ホントに刺した! うわあああああ」
「おいおい、少年どうしたんだ? 殺されると解って急に怖くなったか?」
急激にラマンチャへの興味が冷めたという表情でラマンチャを見下ろした。
スケアクロウの首を撥ねようとした時と同じ表情。
「やめて、殺さないで!」
ラマンチャは小石やあたりに散らばる食材を投げる。
油の入った袋、陶器の瓶、魚介の干物。
「きたねえな、食用油じゃねえか」
油の入った革袋を斬りつけたパンチョスは苦い顔をした。
陶器の瓶は盾で弾く。
割れた中身も油だった。
「あーあー油を取るの大変なんだぜ?」
珍味と言われる魚介の干物は魚臭い匂いを撒きちらして辺りに散乱する。
ラマンチャは食材を投げ終わると辺りにある小石も投げて抵抗した。
「来るな! 近寄ると火をつけるぞ!」と懐から火打石を取り出して握りしめパンチョスに向かって突き出す。
パンチョスは摘まみ上げていた姫を無造作に降ろすとロングソードを抜いた。
「本気だ! アナをこっちに寄越せ! そうじゃないと全身火だるまになるぞ! いいのか?」
「ほほう、一応、さっきの泣きべそは演技なのね? おじさん益々君の事気に入っちゃったなあ」
パンチョスが歩み寄る。
「残念だけどお別れだね、部下に欲しかったよホント」
ロングソードを振り上げながら冷たい表情になる。
殺すときの…スケアクロウの首を撥ねようとした時の顔だ。
「あとさ、食用油ってそんな程度じゃ火はつかないからな少年」
「来るなって! くそ!」
叫びながらラマンチャは持っていた火打石を投げた。
パンチョスが軽く盾でそれを弾き飛ばすと、突然炎が上がりパンチョスを焼いた。
「くそ、なんだこれ」
ラマンチャは食用油の他に揮発性の油も投げていたのだ。
陶器の瓶がそれだ。
匂いがバレぬよう、魚介の干物も投げていた。
パンチョスに蹴られて派手に転がったのはこれらを投げるためだったのだ。
揮発油が揮発するまでの間、パンチョスの気を引き、火打石を盾で弾かせたのである。
ラマンチャは素早くパンチョスの横をすり抜けてアナを担ぐと路地の出口に向かって全速で走った。
「くそ、案山子野郎! ガキを止めろ!」
たいした炎ではないが、サーコートに燃え移りパンチョスの行動を遅滞させる。
「アナ、大丈夫?」
アナを背負ってラマンチャは走った。
「ラ…マンチャ、私が…守るからね」
右脇腹、刀を振るう際に激痛が走るように腕の近くを斬られている。
アナを背負うラマンチャの手に血が滴ってくる。
「アナ、しっかり!」
「大丈夫よ…ラマンチャ、巻き込んで…ごめんなさい」
混濁した意識の中、アナはラマンチャを抱きしめるように腕をまわした。
庇っているつもりなのだろう。
「アナ、アナ!」
ラマンチャは泣きながら走った。
腕に伝わる大量の血。
「もう…大丈夫だよ…ラマンチャ、あんなの私がやっつけるから…」
「うん、うん、アナ、ありがとう…」
アナはろっ骨が折れ、肺腑に突き刺さっていた。
口から血が滴っている。
無理もない、いくら強いとはいえ14歳の女の子なのだ。
鍛えあげられた大人に蹴りを喰らい、短剣で切られて大量失血している。
すぐにでも止まって手当をしたい所だが、追いつかれれば確実に殺されてしまう。
ラマンチャは泣きながら走った。
「許さないわ…ラマンチャに指一本触れたら、私…本当に斬る…から」
「アナ、もう喋らないで、アナ!」
「ラマンチャ…」
アナはその言葉を最後に何も言わなくなった。
「糞! 糞! ちきしょう!」
ラマンチャは己の無力を呪った。
しかし、いくら呪っても事態は好転しない。
「おうい、少年、待てよう、おじさんをバーベキューにしてただじゃ済まねえが、おじさんそういうお涙頂戴に弱いんだよな」
後ろからパンチョスが屍兵を連れて追ってくる。
追ってくるというより追い詰めるという方が正解か。
「泣かせるじゃねえか、え? 自分も肋骨くらい折れてるんだろ? 好きな女背負って行き止まりに向かって走る、青春だねぇ」
通路は先の方で行き止まりだ。
魔法陣で封印されている。パンチョスはそれが解っているので走らず追いかけている。
しかし、ラマンチャは最初に逃げた時に魔法陣の場所は把握していた。
向かい合う二枚の魔法陣がこの通路の先にある。
スケアクロウが顔を掻きむしった時に魔法陣が無力化されたのを見てラマンチャは魔法陣の弱点を知りえたのだ。
護身用のナイフで通路を塞いでいる魔法陣に傷をつける。
ラマンチャが最後の望みを託して走っているのはそのためだ。
その先はセバスチャンとヴォーティー船長がいる踊る羊亭がある。
そこまで行けば勝ちだ。
「アナ、もう少しの辛抱だよ」
ラマンチャはアナを路地に寝かせると魔法陣の札を切り刻んだ。
それを見たパンチョスが走る速度を上げて迫る。
「おいおいマジか少年、敏すぎだろう?」
ラマンチャが二枚目の魔法陣に手をかけた時、右手に鋭い痛みが走った。
手の甲に突き立ったのはパンチョスの投げた短剣だった。
ラマンチャの手の甲はそのまま魔法陣が貼られた住宅の壁に縫い付けられる。
「くっそ!」
それでもラマンチャはナイフを左手に持ち替えて魔法陣を切り裂いた。
「くうう、根性あるな少年!」
追いついてきたパンチョスがラマンチャの背を切り裂く。
背中が焼けるように痛い。
肩から肩甲骨を通り、腰の手前まで斜め一文字だ。
太い血管は無いが背筋を傷つけられては行動不能だ。
右手を壁に縫い付けられたまま、アナに手を伸ばす。
「アナ…」
「ふう、これ着たまま走るのしんどいんだぜ? 少年」
言う割にパンチョスは額に汗もかかず、息も乱れていない。
パンチョスは感心したようにラマンチャを見た。
「根性あるぜ…」
と、何か言いかけた時、パンチョスは身構えた。
現状とは異質な空気。
通路の向こうに何かが居る。
「女子供に随分だなタエトの騎士よ」
魔法陣で封じられた通路が開いて、その先から旅の装束にロングソードを佩いた青年が現れするりと間に割って入った。
パンチョスは簡単に間合いに入らせるつもりはなかったが、青年には簡単に手出しは出来ぬ圧があった。
旅の装束の下に鎖帷子。腰には大振りのロングソード。
金髪に碧眼と来ればパロの騎士なのだろう。
歩みに重心のブレは無くかなりの手練れだとパンチョスは値踏みした。
「ずいぶん都合よくあらわれるな、少年、仲間か?」
「魔導の結界が張られていたので気になっていただけだ」と青年騎士は答えた。
青年騎士はパンチョスの間合いに入るとするりと腰のロングソードを抜いて中段に構えた。
パロの騎士が使う大振りのロングソードはバスタードソードと呼ばれる半片手剣で、盾を持たない場合は両手で振るう。
青年騎士の切っ先は上下に揺れながらパンチョスを威圧した。
切っ先が揺れるのは初動を悟らせないための技法である。
パロの北部に伝承される剣技だと見てパンチョスは戦闘プランを練った。
「星占い、当たったみたいだなお嬢ちゃん、いや姫」
パンチョスは慎重に間合いを測る。
青年騎士はその間合いに合わせて軽やかに間合いを合わせる。
パンチョスのロングソードと盾の武装に慣れているのだろう、自分の間合いを押し付けて来る。パンチョスが仕掛けるには少し間合いが遠く、自分の間合いを保つ。
コイツは相当な手練れだとパンチョスは嬉しそうに笑う。
「そこ子供達を放してもらおうか」
優し気な声の青年騎士はパンチョスを中心に回りながらアナを庇う様に立つ。パンチョスの目的は身なりの良いこの少女であろうと予測しての行動だった。
「そう言われてもこっちにも都合があるんだ、すまんな青年」
パンチョスは言葉の途中からロングソードを斜め上に振るう。
狙いは青年騎士の小手だ。
その大きさの剣で受けるのなら少し窮屈な体制になる。
セオリーでは腕を上げて避け、そのまま打突するのがパロの剣術だが「どれ?」と口角を上げる。
青年騎士は運足で身体ごと避けた。
パンチョスはセオリー通りなら小手の途中から手首のスナップを利かせ蛇の様に青年騎士の腹部を突く算段だったが当てが外れる。
「へえー、青年…修羅場くぐってるね」
青年騎士はその問いに答えず剣先を揺らし続けた。
すかさずパンチョスは右小手に高速フェイントを入れて喉を突く。
青年騎士が小手に反応し、防御が乱れたら喉を突く算段である。
パンチョスの剣の軌道は蛇の様にくねり、首を目指す。
青年騎士は首をひねってその神速の一撃を躱すと、パンチョスにカウンターを返す。
当然、パンチョスはその攻撃を予測していたが、青年騎士の動きはその予想を超えていた。わざと自分の攻撃をパンチョスの盾に弾かせ、その反動を利用して上段に振りかぶったのだ。
「マジか?」
上段に振りかぶった両手持ちバスタードソードの威力は片手剣なんぞの比ではない。下手をしたら盾を壊されるか、受けた盾ごと頭を割られてもおかしくない。
パンチョスは咄嗟に剣と盾でその一撃を受けた。
通常の攻撃なら受けと同時に手首を返し、相手の喉元へ突き立てるところだが、青年騎士の一撃は重すぎた。
パンチョスは膝を柔らかく使い、衝撃を殺すのが精いっぱいだった。
危うく地面に膝をつきかける。
「素晴らしい技量だ! パロの騎士とお見受けするが? 私は滅亡したタエトの元騎士でパンチョスと申す!」
崩れた体制と痺れた左腕を名乗りで立て直す。騎士ならば名乗りを無視できまいというパンチョスの算段だった。
「私の名はパロの騎士キャリバン。誇り高きタエト騎士が何故、子供を害する?」
パンチョスの見立て通り青年騎士キャリバンは名乗りを受けた。
「その少女の名はドルシアーナ公爵令嬢であらせられる。王族が絶えた今、彼女こそ王位継承者であり、未来の女王である」
「未来の女王に何故この狼藉か?」
騎士キャリバンは油断なく剣を構えなおした。
「時間だな」
そう言ってパンチョスは左に体重移動する。
「?」
騎士キャリバーンが疑問符を浮かべると同時にキャリバンの右肩に激痛が走る。
後方に追いついたスケアクロウの衝撃波だった。
パンチョスの陰から衝撃波の魔法陣を発動させたのだ。
「騎士殿、剣を抜いたからには戦場ですぜ? 油断禁物っと」
右肩を負傷したキャリバンにパンチョスは容赦なく攻撃を見舞う。
しかし青年騎士は左手のみでバスタードソードを振るい、的確に防御していく。
「化け物か?」
その後、衝撃波を腹、太腿に受けたが動きが衰える事は無かった。
それどころか、その衝撃波を避けつつ反撃に移る始末だ。
スケアクロウの初動は見切られたようだ。しかしパンチョスはスケアクロウの援護射撃のお陰でずいぶん戦いやすい。
「足を狙え、案山子の!」
「脚なんか狙い辛いだろ、当たらん!」
スケアクロウが抗議したがパンチョスはそれでいいと却下した。
運足が乱れれば体制が崩れる。
パンチョスは再び高速フェイントからの胴突きを見舞った。
「首と違い、躱せまい」
しかし、キャリバンは足を引いて衝撃波を躱すと半身になり胴突きすら躱して見せた。バスタードソードの持ち手を片手にスイッチし腰のひねりを利用して鋭い突きをパンチョスの盾に向かって打突する。
体重が乗った突きを受け、盾が弾かれる。
時間にしてほんの十分の一秒に足らぬ隙。
キャリバンは突いた切っ先をわずかに上げ、パンチョスの肩を打突した。
「スゲエな兄さん」
不意にパンチョスの身体が視界から消える。
勢いに逆らわずそのまま倒れ込んだのだ。
肩を撃ち込んだはずのキャリバンはわずかに体制を泳がす。
パンチョスは倒れながらもキャリバンの左小手に剣を打ち付けた。
ガチリと手首の鎖帷子に当たる音がしてキャリバンの手から剣がこぼれそうになる。
パンチョスは後ろに一回転し地面を転がると剣を腰に戻した。
「騎士キャリバンさんよ、勝負はまたこの次にな」
言うが速いかパンチョスはスケアクロウを伴って夕暮れの街に消えた。
ラマンチャも騎士キャリバンもあっけにとられていると、宿の方角からセバスチャンとヴォーティーが駆けてくる。
パンチョスは援軍が来ると見て、不利になる前に撤退したのだ。
「アナ様!」とヴォーティーが駆けよる。
セバスチャンは撤退に見せかけての奇襲を警戒しながらラマンチャを抱き起した。
騎士キャリバンをやっと出す事が出来ました。
単体の強さならパンチョスより上ですが、パンチョスの老獪さも負けていません。
負傷してしまったアナとラマンチャですが次回どうなるのでしょう?
お楽しみに!




