表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/86

第七十七話 辻斬り男の真実 

 明野村に向かっていた俺達であったが、話に聞いていた通り、土砂崩れで通れなくなっていた。

 付近の人たちに話を聞いてみるも有力な情報は得られなかった。


 悟「マジで塞がってやがったな。伊角、これ壊せそうか?」


 伊角「ミトスを使っても破壊は難しいだろうね。あれは対神話生物用のライダーシステムだからね。地形破壊に向いた魔術の抽出はまだできてないし、今後の強化案でさらに強くなれば土砂くらいならSTRでゴリ押せるようになるかもね。」


 悟「強化できるの!?」


 伊角「今の悟が変身しているミトスは基本形態なんだ。」


 月島「基本であれなんですか!?」


 伊角「ミトスの基本形態でも十分に戦えるスペックはあるけど、仮にクトゥルフとやり合おうとするならスペック不足だ。」


 悟「確かに神話生物、神格ともなると今のあれでも対処は無理だもんな」


 伊角「今のスペックを例えるならバイオ装甲持ちのミ=ゴくらいかな?」


 晩野「それは強いのか?」


 悟「倒すとなると結構強いな、しぶといし、物理ワンパンできないのもクソだな」


 狭間「え、そこ?」


 月島「これからどうするんです?もう行く場所も見当つかないですし、またいつ辻斬り男が襲ってくるのかわかりませんよ?」


 俺たちが途方に暮れ、診療所へと歩いていると、そこに1人の男性が立っていた。

 その男は背を向けたまま、何かを探すようにあたりをキョロキョロと見回している。


 晩野「どうしたのかね?」


 晩野が男に話しかけると、まるで目的のものを見つけたかのようにハッとした表情を向けてくる。


 「ああよかった、ちょうどあなた方を探していたんです」


 悟「あんたは!?」


 「私は…橘龍黒です。もうご存知かと思いますがこの事件の調査をしているんです」


 悟「なんで俺たちのこと知ってんだ?」


 「それは、先程宮塚晶さんに会って貴方達の話を聞きました」


 そこに俺のスマホにラインが入ってくる。それは宮塚晶からだ。「さっき橘龍黒さんと会って話をしました!あと悟さん達を探しているみたいです!今どこにいますか?」と書かれていた。


 悟「あんた事務所には戻ったのか?」


 橘「ええ、先程」


 悟「それじゃあ…」


 橘「言いたいことはわかります。あの事態のことを聞きたいんでしょう?あの死体は…御上裕一です」


 悟「殺したのか…?」


 橘「ええ、その通りです。あいつは、生きていてはいけない人間だった…理由はそれだけです」


 悟「宮塚晶さんと会ってからこの一か月間、あんたはどこで何をしていた?」


 橘「それは…あの男を倒すための方法を探していたんです。


 月島「あの男というのは?」

 

 橘「辻斬り男…本名は『如月弦那』」


 狭間「呪いとかの類じゃなく、やっぱり人間だったんだ。」


 橘「皆さん、今すぐに明野山へと向かってください。今貴方達が持っている魔術では、まだあいつには勝てないはずです」


 晩野「それは、私たちのことを見くびりすげてはしないかね?」


 伊角「今の私たちでも十分勝算はあると思うけど?」


 月島「その如月っていう男の人について、あなたはどれだけ知ってるんですか?」


 橘「あいつは他者と戦うことを望んでいる。もう人間ではなくなっているんです」


 悟「もうってことは、グールにでもなったってのか?」


 橘「明野山に向かっていけば『姫崎信代』というお婆さんに会えます。あの人なら如月弦那についてよく知っています」


 悟「あれは!?」


 橘の後ろにある建物の窓ガラスに辻斬り男が写っている


 悟「橘さん危ねぇ!!」


 橘はその声に反応して後ろを振り返るが、それと同時に辻斬り男によって切り捨てられてしまう。橘はそのままぐったりと倒れ込んでしまった。

 辻斬り男は貴方達を一瞥すると橘の体を担ぎ上げて、そのまま窓ガラスの中に入って行った。そして何処からか男の声が響き渡る。


 如月「これ以上貴様らが何をしても無駄だ。時期にこの街は俺のものとなる」


 悟「そんなことはさせねえ」


 如月「俺と戦いたければ、明野小島にある展望小屋へと来るがいい。そこで決着をつけてやろう。来なければ貴様らも屍となり我の一部になるだけだ」


 悟「決闘の申し込みってか?何時行けばいい?」


 如月「…別に何時でも良いぞ、来れる時間に来い。ただし逃げることは許さぬ…それを忘れるな」


 そこで男の声は聞こえなくなる。


 悟「なんかちゃんと答えてくれたな。てっきり話が通じないやつかと思ってたが。」


 伊角「狭間、君は彼をどう感じ取った?」


 狭間「え?僕?…うーん、人の心は残ってる感じはしたかな。それも純粋悪って感じもしなかった、どちらかと言えば曇った窓ガラスみたいだった。」


 悟「心理学ロールでもしたのか?」


 狭間「いや、最近になってやけに人の顔色を窺うのが得意になったというか」


 月島「そんなことあるんですね。」


 狭間「ほとんど感だけどね」


 晩野「(私だけなんだろうか、あの橘という男の安否を心配するのは…)」


 悟「とりあえず行く場所は開けたな。橘が俺たちの実力を見誤っているとは思うが、探索者としては探索場所を残してシナリオを進めるなんてしたくないし、一応明野山に行ってみるか。」






 明野山の道中に明野村に向かうもう一本の道があり、かすかな希望を持ちその道を向かっていた俺たちであったが、案の定こちらも土砂崩れで通れなくなっていた。


 悟「こっちの道もダメか」


 晩野「こうなれば後は自力でここを超えていくだけか。」


 悟「登攀ロールしても厳しいと思うけどな」


 晩野「それもそうだな」


 どうしようかとしていると、俺たちが来た道から女性が歩いてくる。


 「おや、こんなところでどうされたのですか」


 女性は和服を着ており、少し古風な格好をしている。


 悟「あんたは?」


 「おや、これは失礼でした。私の名前は姫崎信代(ひめさきのぶよ)、この近くに住んでおるものでございます。」


 一同「(あれ?この人なんか若くない?)」


 橘からの話によればお婆さんのはずだ。しかしこの見た目では20代後半に見える。とてもお婆さんと言えない。何らかの魔術によるものだったりするのか?


 悟「ご丁寧にどうも。ではこちらも自己紹介を、俺の名前は中川悟。それと右から伊角真人、晩野和、月島獣子、狭間陸。ところで、随分とお若いようで。聞いた話ではお婆さんと聞いたのですが」


 信代「そうでございますが、なんでしょう」


 悟「あんたに会いたくてここに来たんだが」


 信代「おや、そうでございましたか。今年は来客が多いですねえ」


 月島「私たち以外にも来客が?」


 信代「ええ来ましたよ。橘さんって探偵の方が」


 伊角「私たちはその橘さんの紹介でここに来たんですよ」


 信代「おや、そうでございますか」


 狭間「あと僕たち明野村を探しているのですけど、どの辺りにあるか分かりますか?」


 信代「それは簡単でございますよ。ほらあそこあそこでございます。」


 信代は山の中腹あたりを指差すが、それだけでは村が何処にあるか全くわからなかった。


 晩野「信代さんはどうしてこちらまで?」


 信代「私は昔、明野村に住んでいましたの。いつも明野村近くまで散歩をしていたのですが、でもほら、明野村は土砂崩れで土の中でしょう?」


 晩野「そうだな」


 信代「だから、ここまでしか散歩ができないんでございます」


 悟「話が変わるが、この町で起きてる事件はご存じで?」


 信代「明野町連続殺人事件…ええ、もちろんでございます。」


 悟「俺たちはその事件について独自で調査をしているんだが、調べた結果明野村との繋がりがあると分かりここに来たんだ。」


 信代「おやおやそれはまた、ご苦労様です。それで一体、どうして私の元へ入らしたのですか?」


 悟「信代さん、如月弦那という男はご存じですか?」


 信代「……如月弦那、ですか……ええもちろん、知っておりますよ」


 悟「俺はあいつを事件の真犯人だと思ってる。橘さんもそう話していた。信代さんあんたが知ってる如月弦那について教えてはくれないか?」


 信代「真犯人ですか。まあそうでしょうねぇ…彼の人でなければここまでの事はできないでしょうから。いいですよ。私の家までご案内します。そこでお話し致しましょう」


 その言葉に甘え、貴方達は姫崎信代の家へと向かっていく。

 信代の家は外から見てもかなり年季が入っていた。今には囲炉裏があり、未だにそれを使っているようだ。


 信代「古い家で御免なさいね。今お茶を持ってきますよ」


 悟「そこまでしてもらわなくて構わないぜ。こっちはお邪魔してる身だからな。」


 信代「あまりゆっくりできる雰囲気ではないようですから、本題に入らせて頂きますね」


 悟「頼む」


 信代「……今から60年ほど昔、私の故郷である明野村はダム建設によって無くなろうとしていたのでございます。当時の村民たちは立ち退きに反対する者も少なからずおりましたが、時代の流れであると仕方なく思う人も大勢いました」


 伊角「時代ですか…」


 信代「大規模なダムの建設が多く行われた時代でございましたからねぇ。村長も「戦後の日本の経済がこれで発展していくなら」と言っておりました」


 晩野「六十年前に起きたことなら、推定年齢70後半か…」


 月島「晩野くん、そこ!デリカシーないですよ!」


 晩野「すまない」


 信代「うふふ…けれどそのダム建設に、最期まで反対していた男が1人おりました。」


 狭間「なるほど、つまりそれが…」


 信代「それが如月弦那様でございます」


 悟「そこまで反対する理由でもあったのか?」


 信代「さぁ、どうでしょうか…しかし彼は村のために戦ってきた人でございますから、誰よりも村への想いが強かったのでしょうねぇ」


 悟「やっぱり、いい人だったのか。それに戦ってきたって…」


 「ええ、実は明野村にはもう一つの名前がございまして。明野村は昔、妖退魔の村とも呼ばれていたのでございます。つまり妖を退治しておりました」


 悟「妖って言うと」


 伊角「おそらく、神話生物だろうね」


 信代「それは妖怪よりも恐ろしく、名状し難き存在たちです。この世の理では計り知れないほどの恐怖の群れが、ここに存在していたのでございます」


 悟「やっぱりか。」


 信代「如月弦那様も妖と戦うために選ばれた剣士の1人でした。彼の方は最も多くの妖を斬り、永きに渡って村を守ってきたお人なのでございます」


 月島「そんな優しい人がどうして今、あんなかんじになっちゃたんですか?」


 信代「……建設会社の従業員と弦那様の間で、幾度となく衝突がございました。そしてあの方を邪魔に思った従業員の方々は毎日のように弦那様への嫌がらせを行なっていきました」


 狭間「それはどんな嫌がらせを?」


 信代「自宅に落書きされたり、家畜を絞め殺したり…家に火をつけられたこともございましたねぇ…」


 晩野「とんでもない話だな」


 信代「まぁ昔の話ですからねぇ……そしてある日、弦那様は1人の従業員と激しい口論となりまして。その日の夜に、その従業員が死体となって見つかったのでございます」


 悟「死因は?」


 信代「死因は鋭利な刃物での刺突。村民たちや警察の方々はすぐに弦那様を疑いました。そして弦那様はその日のうちに行方をくらましたのでございます」


 おそらく殺し屋を雇った見せかけだよな。ひでぇ話だ。


 信代「それから三十年の間、ダム建設の従業員が次々と行方不明になる事がありました。これは世間に公にされておらず、建設の関係者と村民にしか知られていないのです」


 悟「その時からあいつは殺しまくってたってわけか」


 月島「何で会社はこの事件を公にしなかったんですか?」


 信代「おそらくですが、悪評を立てたくなかったのでしょうかねぇ。建設の邪魔になりますから。しかしその後、明野村は土砂崩れによって埋もれてしまいます。それと同時にダム建設も中断することになりました。それから三十年間、事件が起きる事は無くなったのでございますが…」


 悟「わからないな、何で如月はこんな大勢のしかも見境なしに辻斬りを行ったんだ?」


 信代「もしかしたら彼の方の中で何かが変わってしまったのでしょうか…明野村を守るという、目的を失ったがために」


 伊角「先ほどから気になってなのですが、信代さんと如月はどういった関係で?」


 信代「あの人は……本来であれば今頃、私の亭主になっていたからでございますわ。いわゆる許嫁でございますよ、うふふ」


 伊角「なるほど、道理で詳しいわけだ。」


 悟「ちょっと待ってくれ、俺たち如月弦那を倒す方向でいるんだが、いいのか?俺たちに協力して?」


 信代「おやおや…許嫁というのも昔の話でございますからね。むしろ愛しているなればこそ、その悪行を止めるべきではないかと、そう思いますわ」


 悟「なるほどねー、これも一つの愛のカタチって訳だ。」


 信代「さて、昔話もこれくらいにして……そろそろ教えしましょうか。彼の方を斃す術を」


 悟「それは?」


 信代「私の考えでは、おそらく彼の方は不老不死の身体を手に入れたのでしょう。」


 晩野「不老不死だと?」


 信代「それ故に何十年も生き延びてこれたのだと思います。弦那様は行方不明になる前に【幽鏡寺】という寺からある物を盗んで行きました。それが幽鏡術と呼ばれる物でございます」


 悟「まさか…」


 信代7「幽鏡術とは妖を退治するために作られた魔導書です。村で作られた魔術の中で最も強力かつ危険なものがそう呼ばれました。全ての幽鏡術は土砂で流されてしまいましたが、複製されて残った幽鏡術がございます」


 悟「もしかしてこれのことだよな?」


 俺は巻物を信代に見せる。


 信代「おや、それは…複製品でございますね」


 狭間「複製品?」


 信代「【幽鏡術 -鏡水- 】の本物は弦那様が盗んで行きましたから。その後、複製品の方も誰かによって持ち出されました。」


 月島「でもこんな大切なものを誰が持ってっちゃったんですかね?」


 信代「おそらくは村の出身の誰かでしょう。それが持ち出されたのも四十年も前の話でございます」

 

 でも何で橘さんの家にこれがあったんだ?


 信代「私がお渡しするのは複製の【幽鏡術】と【巫血漿(かんなぎけっしょう)】と呼ばれる術です。幽鏡寺という場所は退魔の力に長けた者たちを世に残すために生まれたものです。そこで【巫の儀】と呼ばれる儀式がございました」


 信代は話しながら押入れの戸を開ける。そこには大きく古ぼけた金庫が入っていた。そして金庫のダイアルを回し、金庫の扉を開ける。


 信代「これが明野村で隠されてきた術の一部です。どうぞご覧ください」

「わァ…あ…」

「長くなっちゃった!!!」

「これから面白くなるもんね?」

「(コクンッ!!)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ