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第七十四話 毒舌女刑事と船長さん

 政倉建設株式会社の本社へ着いた。中に入ると左のカウンターに受付の女性がいる。それ以外には目につくものはなさそうだ。悟や、晩野からグルラに情報が来ている。どうやら、私たちの情報が出そろい次第に一度カフェに集まって方針極めをするそうだ。


 「こんにちは、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 伊角「私たち、明野町連続殺人事件について警察から調査の依頼を受けている探偵事務所の者なのですけど、社員の方に調査の協力を…」


 「えっと…すみません。私ではその質問にお答えすることはできません」


 伊角「だったら、他の人はいないのかい?」


 「申し訳ありませんが、ただいま社員さん全員外出しております」


 伊角「では、社員さんたちはどこへ行ったのかは?」


 「申し訳ありませんが、外出先はお答えできない決まりがありますので…」


 狭間「どうする伊角?」


 伊角「うーん」


 そのような問答をしていると不意に後ろから女性に声をかけられる。


 「ここに来ても大した情報は得られませんよ」


 振り返ってみれば貴方達は見たことがない女性だった。


 狭間「君は?」


 「自己紹介の前にここの社長さんが誰かご存知ですか?」


 伊角「いいや、知らないね。」


 「じゃあ、ここの社長さんが行方不明なのは知ってます?」


 狭間「それも初耳だね」


 「知らないみたいですね。あぁすみません、私は『沖野楓(おきのかえで)』って言います。こう見えて刑事やってます。よろしくどうぞ」


 狭間「よろしく」


 沖野「それにしても貴方達は例の事件の目撃者ですよね?こんなところまで調べに来て大丈夫ですか?もうすぐ被害者になるかもしれないって言うのに」


 マリク「俺(しゃま)が被害者だって?女ァ、あまり調子に乗るなよォ。お前も人間である以上被害者なんだからよォ。」


 狭間「おいこら!何やってんだマリク!」


 沖野「あ、ごめんなさい…??」


 沖野は申し訳なさそうに頭を下げる。


 伊角「私は伊角真人、こっちは狭間陸。まあ、警察の君に言っても既に情報は行き渡っていると思うけど。」


 沖野「知っていますよ。ちゃんとリストに載っていますから。そんなことより、街を歩いていたら危険ですよ。今は一般市民の方々も不要な外出は避けてもらっているんですから。例の連続殺人事件のせいで」


 伊角「これども、私たち中川探偵事務所のメンバーなのでね、例の連続殺人事件を解決するために動いているんだ。もしよろしければ協力を」


 沖野「…解決?マジすか。いやなんで?」


 狭間「そりゃ、百人近く死んでるのに解決してない事件の犯人とか見てみたくないですか!?だから協力してください!!」


 伊角「そういえば、その噂を聞きつけて狭間くんはここに来たんだっけか」


 沖野「はぁ、まあ、いいと思いますけど…」


 狭間「えーっと、何から聞けばいいかな。」


 伊角「春田さんについてお聞きしたいのですが」


 沖野「春田さんですか?ええ、知っていますよ。以後とで何度かお会いしたこともありまし、一緒に食事に行きました」


 伊角「忙しいと言って別れてから連絡しても返事が返ってこなくてね。何か知ってるかい?」


 沖野「あ、そうなんですか。彼女も忙しいんですよ。」


 伊角「では、沖野さんは何をしにここに?」


 沖野「そりゃあもちろん事件について調べに来たんですよ。色々と」


 狭間「でも、情報は得られなかったって…」


 沖野「はい。先程調べに来て、何も情報は得られないという情報を得たので。しかし、目撃者自らが事件解決に動くなんて。まぁ、その方がいいかもしれませんね。黙って死ぬよりかは生産性ありそう」


 伊角「君、よく毒舌とか言われない?」


 沖野「あ、申し訳ありません」


 沖野は深々と頭を下げてくる。


 沖野「申し訳ついでに、私も2人に有益な情報を教えますよ。刑事として一般市民を手助けしたいので!」


 伊角「だったら、ダム建設に変わった人はどのくらいの割合が死んだのか?そしてその中で生存者がいればその人の情報も渡してくれると助かる。」


 沖野「えっ、うーん。これ言ってもいいのかなぁ?どうしよう?」


[伊角

 信用(70)→成功(26)]


 沖野「ま、まぁ大丈夫かな。警部からは何も言われてないし。やはりこの会社の人間は殺されている人が多いですね。ダム建設に関わった重役はほとんど逝ってますよ、社長含めてね」


 狭間「やっぱり殺されてるんだ…」


 伊角「ちょっと待った。社長は行方不明で現在捜索中のはずでは?」


 沖野「もちろん行方は探してますよ。でも、あの社長はだいぶ汚職をやっていたそうなので、恨みは相当買ってますね。まぁ汚いことばっかやってたから罰が当たったんでしょうけど。だからウチらとしては、既に遺体捜索ムードなんですよねぇ。…………あ、ごめんなさい」


 と、今の話を聞いていた受付に沖野は謝っている。


 狭間「あれ、受付さん顔色悪くないですか?」


 「え?!いや…ちょっと、わかりません…」


 沖野「あ、ちなみにここの社長さんは『御上祐一』って名前です。特別にお二人には政倉建設で被害あった人達のリストを見せてあげますよ。冥土の土産に」


 狭間「冗談は止してくれよ」


 沖野「あ、すいません。」


 渡されたリストには『御上祐一』とその直属の部下、『宮塚高樹』を含む8名の名前が載っている。


 狭間「この中の社長さんの心臓は残ってると友人から聞いたのですが…」


 沖野「うーん、あ、そう言えばもう1人だけ、いましたね。」


 狭間「何か知っていることはありませんか?」


 沖野「えっとですねぇ…すみません、忘れちゃいました」


 狭間「それはしょうがないか。」


 伊角「狭間、彼女、嘘ついてるかもしれないんだよ?」


 狭間「いや、彼女はここまで嘘を何もついてないよ。なんとなく分かるんだ。」


 沖野「すみません私、物覚えがあまり良くなくて。警部にもよく怒られるんですよ」


 伊角「じゃあ、他に何か私たちにとって有益になりえそうな情報はあるかい?」


 沖野「今後作るダムについてお話ししましょう。なんか重役の人が死にすぎて作るのやめるみたいですよここ。でも、この話と今起きている事件、なんか怪しくないですか?」


 伊角「と言うと?」


 沖野「だって建設に関わる人が次々に死んで、ダム建設が中止になるって、中々できた話じゃないですか。」


 狭間「確かに」


 沖野「私の見立てでは、きっとそこにあった村を潰してまで作ろうとした呪いが働いてるんじゃないかと思うんですよね。村には神社もあったし、これは有力説ですよ!!」


 狭間「呪いか、確かにありえそうだけど。でもあれの正体が呪いとは思えない。その村というのは?」


 沖野「明野村って名前なんですけど、どうやら三十年前に廃村になったみたいです。去年あった台風で土砂崩れが起きて、今はすでに土の中ですよ。調べたかったら直接行ってみてください、当時村に住んでいた人たちがまだ近くにいるみたいなんで。私が渡せれる情報はこれくらいですかね。」


 伊角「ご協力ありがとう。」


 狭間「沖野さんも捜査頑張ってくださいね。」






 月島「船がいっぱい並んでいますよ!」


 晩野「美容師が言っていた船長とは一体どこにいるのか?」


 美容室から出た私たちは近くの船着き場で船長を探していた。


 月島くんが漁船に近づくので後を衝けると、漁師らしき老人が作業をしている、話しかければ返事をするだろうか。


 晩野「すいません」


 「ん?なんじゃ?」


 晩野「あなたがこの漁船の船長でしょうか?」


 「ああ、わしはここの漁船の船長じゃよ。かれこれもう40年以上漁師をやっとる。それで何かようかの?」


 晩野「最近長い黒髪の女性を見ましたか?」


 「え?あー、あれか。まあ仲間の何人かは見たと言うのは聞いとるよ。ただわしは見とらんからな。何も知らんよ」


 晩野「では、明野小島について知ってることはありますか?」


 「あそこか?いやでもあそこは何もないぞ。あるとしても展望小屋があるだけじゃ。それ以外の建造物なんか何もないんじゃからな」


 晩野「展望小屋?」


 「ちっちゃな建物でな。ちょうど天井に穴が空いていて、空を眺めて星を見ることができるんじゃ。大昔はそれで天候やら運気やらを占ってたみたいだぞい」


 月島「行ってみたいです!」


 「今からか?無理じゃぞ。周りの海流が荒れまくっておるからな。大人しくなるのは大体深夜ごろじゃ。それにしても何しに行くんじゃ?デートか?」


 晩野「そこは今回の明野町連続殺人事件と何らかの関係がある」


 「あんたら警察か何かか?そう言う風貌にはとても見えないのじゃが」


 月島「私たち、探偵事務所でアルバイトしてる探偵見習なんですけど、今回の事件にちょっと巻き込まれちゃって。事件解決の手伝いのために今夜船を出してもらえませんか?」


 「若いのにようやるのう。まあ、いいじゃろう。今夜は満月じゃから魚が寄って来んくて暇だしの。だが、危ないことはやめるんじゃぞ。あと、わしが協力したと言うことは内密で頼むぞ」


 月島「ありがとうございます!」


 晩野「一先ずは探索は終わった。カフェへと移動するぞ。」

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