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第六十八話 依頼は突然に

 探偵事務所を作ったはいいものの、入ってくる依頼がネコ探しくらいで全くもってシナリオが舞い込んでくる気配がしない。

 ネコちゃん系を助けたりすることにはメリットが無いようにも見えるが、実際はバーストっていう旧神から災いを受けないためだ。

 かの有名なラブクラフト氏はネコが好きすぎて自分の作品であるクトゥルフ神話にネコの神としてバーストを登場させた。バーストはネコを傷つけたりする存在を許さない。逆にネコに優しい者には寛容な神様だ、というかバーストという旧神はエジプト神話に登場するバステト神そのものだ。猫耳娘の旧神バースト、ぜひ一度でもいいからモフってみたいものだ。


 話が逸れたが、シナリオが舞い込んでこないことが悪い事ではない。いや、悪い事か?とにかく暇ではある。毎日ニュースを見ては殺人事件や珍事件の多さに目を開く。

 なぜシナリオが回り込んでこないんだ。

 根本的に場所の問題なのだろうか。俺の住む愛知県はCOCの舞台的に選ばれることは少ない。大体が東京だったり、架空の都市だったりする。探偵事務所を開くうえでとんでもない盲点であった。


 「引き続きニュースの時間です。本日、明野町にて今年で20件目となる連続殺人事件の新たな犠牲者が出てしまいました。ここにご冥福をお祈り申し上げます。犯人は現在に至るまで行方を晦ませており、警察も足取りが掴めていないとのことです……」

 

 明野町、確か名古屋の市熱田区にある町だったはず。しかし、なんだ?すごい違和感がある。俺の知ってる明野町じゃない感じがする。もしや、この明野町はCOC世界に存在したものか?なんにせよ、行ってみないとわからない。

 伊角に作ってもらった探偵事務所のホームページに明野町連続殺人事件の協力者求む!みたいな感じで打ち込み、ネットのありとあらゆる掲示板などにも応援を呼びかける。

 

 応援を呼びかけて数日、探偵事務所宛てにメールが届く。差出人は春田飛嘉野(はるたとかの)という明野町にて診療所に勤めている警察医だそうで、差出人もこの事件について数年前から調べているそうで、共に事件解決に協力しようといった内容だった。

 断る理由はない。俺はそれを了承し情報交換をすることにした。


 情報交換当日の朝、出発しようと準備を整え簡単な朝食を作る。

 プロテインのシェイカーに牛乳とコーヒーを4:6の割合で入れ、その上から青汁の粉と抹茶味のプロテインをぶち込んでシェイカーを振って振って振りまくって完成する。


 悟「やっぱり、朝は青汁コーヒー牛乳抹茶プロテインだよなァ!」


 青汁でビタミン類や食物繊維、プロテインでタンパク質を摂取し、牛乳で脂肪分、コーヒーは時間帯によってブラックと微糖で飲み分けるのだが、朝は眠気覚ましのためにブラックだ。これらを混ぜて作り上げられた液体は簡単に言えば抹茶ラテのような美味しさだ。元々抹茶味のプロテインがコーヒーと青汁の苦味によって抹茶らしい深みに近いものを演出すると同時に牛乳でエグ味を少なく飲みやすくしている。

 正に朝っぱらから人力で作れるエナドリの完全上位互換だ。


 そうして一気に抹茶を流し込む。


 せっかくだからキャラシも変更しよう。


 キャラシメーカーを開いて以前作って修正したキャラシを選択する。

 

 《キャラシ変更を確認しました。継続キャラシに該当するため、衣服を職業に適した見た目へと変更させます。》


 そうキャラシメーカーが告げるとミトスに変身する時同様に足下に魔法陣が形成され、その魔法陣が頭の先まで移動し終えると、着ていた服がThe・探偵と言えるような服装に変わっていた。


 悟「これすげー便利じゃん。服代浮くの助かるわぁ!」


 キャラシメーカーのありがたさに感嘆としていると、外から犬の鳴き声が聞こえる。


 悟「朝っぱらから吠えるとは珍しいな。不審者でもでたか?」

 

 窓を覗いて外を見てみると黒髪の女性が犬に吠えられて困っているようだった。男、中川悟は困っている人がいれば手を差し伸べる。


 外に出て様子を見てみると、犬は何故か興奮しているようで女性に向かって吠えている。女性は事務所から出てきた俺に気づいて話しかけてくる。


 「あ、すみません。中川悟さんですか?」


 悟「えーっと、そうですけど。大丈夫ですか?犬に吠えられてましたけど…」


 「あ、よかった。実は悟さんに依頼したいのですが…」


 初めての依頼来た!!全身全霊を持って挑まなくては!


 悟「わかりました。とりあえず事務所にどうぞ。」


 俺はコーヒーを淹れ、女性を事務所へと案内して席に座り、女性の方も席へと案内する。

 

 悟「どうぞ座ってください。」


 「あ、はい。失礼します」


 女性は言われた場所へ静かに座る。そしてポケットからハンカチを取り出して、汗を拭っている。


 《目星ロールが実行できます。》


 うおっ!?前までこんなの出てなかったぞ!と言うかロールが入ったってことはこの女性がシナリオ発生の鍵だったのか…そういえば月島ちゃんが帰ってこない。すごく不安だ。伊角達とも連絡がとることができない。今の俺と同じシナリオにでも巻き込まれたのだろうか?


[悟 

 目星(73)→決定的成功(クリティカル)(1)

 成長判定(73)→成功(30)]


 幸先いいな、初っ端から1クリを出すとは。

 ダイスに成功したら目線が女性の手に向いた。女性が左手でハンカチを使ってる、さらに腕時計が右腕に…左利きか。重要か?この情報?


 「すみません、朝早くからお邪魔してしまって。私の名前は"トーマ=レティシア"と言います」


 《知識ロールが実行できます。》


[悟

 知識(75)→成功(35)]


 "トーマ=レティシア"という名前がフランス系。という情報が頭の中に流れ込む。

 容姿も外国人寄り、おそらくフランス人なんだろう。

 

 悟「それで、レティシアさんはどういったご用件でこちらの方にご依頼を?」


 レティシア「実は…悟さんに人を探して欲しいんです。」

 

 悟「ご家族ですか?」


 レティシア「はい、私の兄を探して欲しいんです。私はつい先日、フランスから日本に来たばかりなので兄が何処にいるのかわからないんです」


 悟「連絡は取られたのですか?」


 レティシア「私はフランスにいたのですが、兄は日本にいまして。兄とは長い間会っていないので、住所や連絡先もわからないんです」


 悟「詳しい容姿というのも、それじゃあわからないですよね…」


 レティシア「昔の写真であればお渡しすることができますが…」


 悟「構いません。」


 そう言うとレティシアは金髪で華奢な男の子の写真を見せてくる。


 レティシア「この写真は兄が10歳のときのものなんです。その時私は5歳でした。これはフランスで撮ったものなんですが、この後兄と父は共に日本に行き、私は母と共にフランスで暮らしていたんです」


 悟「どうして離れられたのですか?フランスから日本となると留学ですか?」

 

 レティシア「いいえ、私の父は浮気性があって、すぐに新しい女性を作っていました。その時も母とそれで揉めあって、すぐに別れました。それで私と兄は離れ離れになってしまったんです。それから15年、やっと日本に行く予定ができたので、もう一度兄に会いたいと思って来ました。けれど、私が持っている兄の手がかりはこの写真だけなんです。今何をやっているのか、何処に住んでいるのかもわかりません」


 悟「では年齢の方は?」


 レティシア「今年で20歳になります。兄は25歳です」


 悟「兄の名前などは?」


 レティシア「名前なんですが、唯一わかるのが兄の苗字なんです。兄は日本に行く前に『御上(みかみ)』という名前に変わることを私に言ってくれました。その時の私は幼かったので意味がよくわからなかったのですが、確かに御上と名乗っていたと思います」


 悟「兄がいる心当たりはありますか?大雑把なものでも構いません。」


 「お父さんは明野町生まれだと聞いていたので、兄も明野町に来たのではとは考えています。」


 明野町…やっぱり今回のシナリオの舞台は明野町に間違いないな。


 そう考えこんでいると


 レティシア「やっぱり、難しいですよね。」


 悟「いいえ、ちゃんとしたご依頼は初めてですので。むしろやる気がわいてくるものですよ。」


 レティシア「面倒な依頼をしてしまって申し訳ありません……悟さんのことは知人から勧められていたので、つい頼ってしまいました。」


 悟「知人…?」


 レティシア「あ、はい。『宮塚晶(みやつかあきら)』という子です…以前何処かの事件で悟さんに助けられたことがあるとかで…」


 宮塚晶、聞いたことが無いというか知らない。ネコの探しの件とかを事件と言っているのであれば、名前を忘れているだけということになる。それとも、このシナリオにおける前提条件。HOにそういった情報が追加されている場合もある。後で今まで取り扱った依頼者の名前とキャラシメーカーのメモ欄を確認しておくか。


 いや、この女性がシナリオの黒幕だっていう可能性もある。とりあえずは今の発言に対して心理学を振って情報を得るのが先決だ。そして何より、少し口籠もりながら言っている。これは怪しい。


[悟

 心理学(60)→成功(53)]


 ん?情報が流れてこない?

 もしかして本当の事を言ってるのか?それとも、ロール対抗してきたのか?

 とにかくこれ以上の詮索は止めにしよう。


 悟「えーっと、その晶さんはどうしたら会えますかね?」


 レティシア「晶ちゃんは獣坂大学の学生さんです。そこに行けば会えると思いますよ」


 悟「それと、何で日本に知人が?」


 「あ、そうですね…」


 レティシアはすこし顔を下に向けるが、すぐに理由について話し始める。


 「実は宮塚晶さんも私のお父さんと関係があるかもしれないんです。厳密には晶さんのお母さんですが」


 レティシアは、また口籠もりながら言う。


 悟「質問は以上です。今得た情報を基に捜査を進めます。」


  全ての質問を終えると、レティシアはお礼を言い、「あっ」と声を出す。


 レティシア「私の電話番号も必要ですよね。どうぞ。」


 悟「あ、どうも」


 レティシア「それでは兄のことよろしくお願いします」


 そして、彼女はゆっくりと立ち上がり、静かに事務所を後にした。


 そして彼女がドアを閉めた瞬間、机に置いてあったコーヒーカップが突然割れた。幸いコーヒーは飲み終わっていたので、中身が溢れたりはしなかったが些か不気味に感じだ。


 悟「何で割れたんだ?不幸な予感がする。レティシアさんを追いかけてみるか。」


 扉を開け外を見るがそこには誰もいない。確かに彼女と話し、兄を探し出すと約束したはずなのに。コーヒーカップが割れたことと一体何か関係するのだろうか。言われのない恐怖心が俺を襲う。


 SANチェック


[悟 

 正気度ロール(87)→成功(78)]


 すると、『春田飛嘉野』という女性から電話がかかってくる。


 春田「もしもし悟さん?そろそろ着きそうですか?」

 

 悟「すいません、先ほど探偵事務所でご依頼の相談を受けて」


 春田「それならちょうどよかったです。例の事件の被害者のことですが、実は昨日、事件の被害に遭った人たちと偶然出会ったのです。あの『辻斬り男』の正体も見えていたようなので、きっといい情報になると思います。ですのでカフェではなく、私の診療所に来てください。」


 悟「わかりました。すぐそちらに。」

 

 春田「それじゃあ、診療所で待っていますね」


 そう言うと電話は切れた。



 ・辻斬り男

 この明野町では連続殺人事件が起きており、その事件の犯人が『辻斬り男』と言われている。その理由は被害者の体は必ず刀で切り付けられた痕があるからで、遺体は全て胸を開いて心臓を取られていた。

 神出鬼没、何処からともなく現れて斬りつける様から『辻斬り男』の異名が付いている。

青汁コーヒー牛乳抹茶プロテインは作者のおすすめだぞ!

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