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第五十九話 ンガイの森はやはり燃える。

 俺たちは一頻りンガイの森でのデートを楽しんだ。長くも短い間であったが、月島ちゃんとの仲はそれなりに深まった気がしていた。

 時刻は十八時頃、夕暮れに空が赤く染まりまるで火が燃えるような美しさの中、俺たちは帰り際に綿飴を齧り合いながら入場ゲートへと足を運んでいた。


 悟「今日は楽しかったな。」


 月島「はい、とっても。」


 悟「たまには、こんな日があっても良いかなって…」


 月島「そうですね。」

 

 楽しかった時間の終わり、少し寂しくもあったが、とっても貴重な時間を過ごせた事に俺は満足していた。



 満足してしまっていた



 ゲートに近づくにつれて、人の波がそれと真反対の方へと流れていくのを見た。


 時間はとっくに閉園時間の10分前を切ろうとしていたのにも関わらず人の波がゲートから遠ざかるように流れる。


 悟「なんだなんだ?」


 月島「悟さん。今って閉園時間の10分前くらいですよね?何でこんなにゲートから離れているんでしょう?」


 悟「今日は特にスペシャルイベントみたいなものなんてなかったはず……まさか!?」


 俺は波に逆らいながら、ゲート前へと足を進めるとその光景に絶句する。


 火、火、火、至る所に燃え広がる炎がゲート前を包み込んでいた。


 悟「なんだよ…これ……」


 「止めて、こっちに来ないで。キャァァァァ!!!」


 鳴り響く悲鳴、その方へと視線を向けるとそこにいたのは、ゴムのような弾力の皮膚を持つ恐ろしい人型の化け物、食屍鬼(グール)たちであった。


 悟「なんで、こんなところにグールがいるんだ!?しかも複数体。」


 [悟 正気度ロール (87)→成功(46)]

 

 SANチェックが発生しやがった!?つまり今、シナリオが発動しやがったのか!?

 

 月島、ニャル子「悟さん!」


 悟「おい、ニャル!どうなってるか説明しろ!なんでンガイの森が燃えてグールが発生してんだ!」


 ニャル子「僕にもわからない。」


 悟「お前でもわからないってのかよ。じゃあ他の入場者は?」


 ニャル子「それは私の分身たちが、対処してます。それにわからないと言ったのは訂正しよう。一つだけわかってることがある。」


 悟「それは?」


 ニャル子「このパーク内のどこかに統率個体がいる事です。」


 悟「統率個体か、お前じゃなんとかできないのか?」


 ニャル子「実は私の分身体は一体一体の力が弱くてですね。それこそ一般人並みです。」


 悟「でも、技能値は100だろ?だったら一般人よりか戦えるんじゃないのか?」


 ニャル子「無理です、分身体の技能値は分身の数だけ低くなるので。」


 悟「わかった。とにかくここにいるグールどもを倒しつつ統率個体を探して叩く。それでいいな?月島ちゃんも協力できるか?」


 月島「分かりました。悟さん、無事でいてくださいね。」


 悟「わかってんよ!そっちも頼むぞ。」


 二人と別れて俺は周囲のグールを片付けるため、懐から音器を取り出して変形させておく。

 そしてさっき悲鳴が上がった方へと向かって走っていく。


 しばらく走っていると、グールが3体ほど暴れているところに出た。


 悟「グール3体か。普段の俺ならまだ弱音を吐くところだが、今回の俺は一味違うぜ!」


 俺はこちらに気づいて走り向かってくるグール一体に銃口を向けて、発砲する。


 バンバンバン!


 初めて銃を現実で取り扱ったが予想にも結構当たった。グールの腹部と肩に1発づつ打ち込むことができた。

 グールは銃弾を受けた箇所を抑え込みその場へと倒れ伏せる。

 

 悟「うぉーー!いつもはダイスロールでダメージを計算してたから、クソダメとか出てたけど。今は違う、3発打って命中率は大体6割ほどでダイスより下がってるが、ダメージは、ほぼMAX火力!」


 そう一人ではしゃいでいる束の間に、先の銃声で奥にいた2体のグールもこちらへと接近していた。

 

 グールの1体が俺に至近距離で襲いかかる。

 俺はグールの攻撃を避けつつカウンターに顔面にパンチ2回、腹にキック1回を入れ込む。


 パンチ、パンチ、キック!


 やっぱな、1ターンに何回でも行動できる!近距離なら命中率もクソもない、ほぼ必中!


 カウンターを入れられたグールはよろよろと倒れていった。


 だけど怖いのはこっちがダメージを受ける時だ。

 どれくらいの攻撃でどれだけ俺の体が傷つくか、血反吐吐くのかがわからないし、ダイスによる運試しも効きやしない!

 そして恐らく、人間以上のSTRを持つ攻撃を食らったら、一発アウトの紙装甲!


 そしてまだあと残っている一体に銃をぶっ放して1体目と同じような状態にした後に念の為全員にヘッショをぶち込んでおく。

 COCのようにHPやCONロールないから仕留め切れたのかわからないためだ。マナーの悪い決して死体撃ちなどではない。


 俺はその場を後にしてゲート前へと向かったが案の定ゲートは炎に包まれて通れそうな雰囲気ではなかった。周辺にはグールの姿は見えなかった。おそらくは、月島ちゃんたちが向かった方へと向かって行ったのだろう。

 俺は月島ちゃんたちが向かった方へと走る。






 まだ燃え広がってないアトラクションの一つ、シャンタクコースターの線路上に仮面をつけた男がンガイの森を双眼鏡を使って見下ろしていた。


 「ギョッギョッギョッ、ようさん燃えてはりますな。本当やったらウイルスでも撒き散らしたろうと思ってたんやけどな。なんでKTGの連中しかも幹部がンガイの森で遊んどんねん!今はもう居らんみたいやからええげど。ワイの邪魔しよってホンマ虫唾が走るわ!」


 そして男は更なる邪魔者を見つける。


「それにイラつくんはアイツらだけやない、何やアイツらグールとやりやっとるやんけ。あれが噂に聞いたCOCプレイヤーちゅうヤツか?芽は早めに摘んどかなきゃあんな。せや、統率個体ぶつけちゃるか!あれなら死なずともデータくらいは取らせることぐらいできるやろ。」

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