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第五十三話 キュウシンとヨロズ

 門を抜けた先、それは陸地から遠く離れた名もなき絶海の孤島。砂浜と森、そしてその境界線上に一つの小さな掘っ立て小屋がある。

 そうシナリオ名「絶望の孤島」の舞台である。


 萬「着いたようだね。数週間前、旧神ノーデンスが召喚されたとネコ君から報告を受けたシナリオ名『絶望の孤島』の舞台……」


 萬は周囲を見渡し、海面を見つめた後探索を開始した。


 萬「音…発動…」


 [???の音(80)→決定的成功(クリティカル)(3)]


 そう言うと萬操矢を中心として衝撃波のような空気の振動が島全体に走る。

 それと同時に森の方から人ではないモノたちの悲鳴のような叫び声にも似た咆哮が萬操矢へと向けられた。


 萬「なるほど、そっちね。」


 咆哮が聞こえた方向へと萬操矢は体を向け歩き出し、小屋には目もくれず、森へと入って行く。


 萬(海を見たとき接触の呪文を使用としたが、発動することができなかった。なぜだ?これも世界が融合した事による影響か…?)


 彼は以前、今と同じように神格との接触を行う呪文の詠唱を行ったが、神格はその姿を現さず、周辺地域を捜索したが召喚された形跡が無かった。彼はその疑問についての明確な答えを求めて、この地を訪れたのだった。


 森の中を歩いて数分、開けた場所に彼は辿り着く。

 それは綺麗に円を描いて木々が避けており、その中心に位置するところには、古ぼけ、苔が侵食する石造りの寺院が聳え立つ。その雰囲気は幻想的でありながらも、不気味と常人なら感じられる。


 萬「どうやら僕のことを殺しに来ているのかな?そんなに爪を立ててこちらを睨みつけるだなんて。」


 彼が寺院に近づいたと同時に姿を現したのは、四体のナイトゴーントだった。

 彼らは萬操矢が言うように彼を歓迎的に思っておらず。臨戦態勢を取りながら彼がここに来るのをじっと待っていた。


 萬「君たちの主に会わせてくれないかい?そうすれば……」


 [ナイトゴーント 爪(70)→成功(25)

 1d3→3

 萬 HP17→14]


 萬が話しかけている途中、ナイトゴーントの一体が萬に攻撃を仕掛け、萬はダメージを負う。


 萬「いいだろう。君たちが僕との敵対を望むというのなら、思う存分痛めつけてあげよう。」


 そう言って萬は亜空間を作り、そこから一つの楽器を取り出した。

 その楽器は分類的には木管楽器の一つファゴットであったが、その色は木管楽器のような茶色ベースではなく、光を飲み込むようなドス黒い色をしていた。


 萬操矢はそれ手に取り吹き始める。



 [芸術(楽器)(90)→成功(51)]


 独特な演奏を吹き終えたそれは形を変え、金属バットのような形状になる。


 萬「死ね。」


 [萬 棒術(85)→成功(57)

 マーシャルアーツ(54)→成功(12)]


 そう一言、萬操矢が言った後、先ほど傷をつけてきたナイトゴーントに急接近し変形したファゴットで殴りつける。


 ナイトゴーント「!?」


 [ナイトゴーント 回避(42-30)→失敗(84)]


 萬「遅い。」


 [2d6+15+1D4→21]


 萬操矢の強烈な殺意と人間では到底出すことのできない速度による接近によって、ナイトゴーントは自身の認識速度を大きく上回ったその攻撃を避けること叶わず、バットによる攻撃にも関わらず胴が攻撃個所から二つに裂ける。


 [ナイトゴーントHP11→0]


 萬「まずは…一体…」


 仲間が一瞬にしてやられたその惨状を見たその他のナイトゴーントは戦意を喪失したかのように空中に唯々立ち止まっていた。


 萬「来ないのかい?せっかく僕の音器も出したのに……まぁいいや。じゃあこれで終わりにしよう。」


 [萬 ???の音(80)→成功(49)]


 再び萬操矢は音を発動させる。

 空気が揺れ、音が響き渡る。それに触れたナイトゴーントたちは……


 萬「己が羽で空高くから落下死しろ。」


 萬操矢の言葉通りにナイトゴーントたちは空高く舞い上がり、高さ約1000m付近に到達すると体を反転させ翼を畳み自由落下運動に身を任せて頭から地面へと体を叩きつけて一体、また一体と落下死を実行した。


 [ ナイトゴーント(1) HP11→0


 ナイトゴーント(2) HP11→0


 ナイトゴーント(3)HP11→0]


 萬「よし、片付いたか。ネコ君の報告では寺院の中に呪文があるか……」


 萬は寺院の中へと入り、目当ての呪文を探索する。


 萬「これか、ノーデンスを呼び寄せる呪文は。」


 薄暗い寺院の中、萬はスマホ片手に石板を発見する。


 [萬 母国語(90)→成功(87)]


「福蛇州の王に会いたい者は、浜辺で王を讃える 以下の言葉を口にせよ。

 『幻の夢の部、福地州を治めしの大帝よ

 あまたの夜間の鬼たちを統べる海の神よ

 着き星の子の前にその御姿を見せたまえ

 いあいあえるだぬあざのうでんす』

 そうすれば、福蛇州の王はその海に舞い降り、きっと願いを聞き入れるだろう。」


 萬「これを浜辺で唱えろね。なんとまぁ親切だこと。悟もこんな感じにシナリオを攻略してるのかな?」


 萬は早速浜辺へと向かい、呪文を詠唱する。


 萬「幻の夢の部、福地州を治めしの大帝よ、あまたの夜間の鬼たちを統べる海の神よ、着き星の子の前にその御姿を見せたまえ。いあいあえるだぬあざのうでんす」


 萬が呪文を唱えると、突如として海が割れるように海水が退いでいく。そうして出来上がった道を、翼の生えた馬がソリらしきものを引いて駆けてくる。


 萬「お出ましのようだね……」


 ソリを見ると木などでできてはおらず、貝殻のような馬車のような形状で、それに乗るのは神々しい雰囲気を漂わせる雲のようにヒゲをなびかせる老人。

 いや、彼の者こそが旧き神、エルダーゴッドとも呼ばれる神々の一柱。大いなる深淵の大帝:ノーデンスであった。


 ノーデンス「我はカダスの地を治めし王、ノーデンスである。人の子が、このようなところで何用か。」


 萬「久しいね、ノーデンス。会うのは一年ぶりだったかな?」


 ノーデンス「お主は、萬操矢か。お主のような存在が儂に何か用でもあるのか?」


 萬「気付いていると思うけど。世界の融合とその影響について話をしたくてね。何か知っていることがあれば教えてくれないかな?」


 ノーデンス「要するに願いを聞いてほしいのだろう?であれば儂は主に情報を提供する、主は儂を楽しませるという条件でどうだ?」


 萬「楽しませる…?演奏ならいくらでもしてあげるけど。」


 ノーデンス「儂はそんなものは求めておらん、もっと刺激があるものがよい。そうだな、儂と勝負でもしてもらおう。」


 萬「勝負…?」


 ノーデンス「タイマン張れと言っておるんじゃよ。」


 萬「この僕にかい?ノーデンスいくら何でも分が悪いと思うよ、もちろん君がだけど。」


 ノーデンス「構わん。しかし一つだけルールを守ってもらう。互いに瀕死状態になったら攻撃をやめること、降参と言ったら速攻負け。どうじゃ?」


 萬「いいよ、そのタイマン受けて立とう。」


 ノーデンス「では…いくぞ…!!!」


 ノーデンスは杖を取り出し、空中に掲げると、天空から何体ものナイトゴーントを呼び出す。


 ノーデンス「ほっほっほっ、まずは小手試しじゃ。ナイトゴーント100体からじゃ。」


 萬「いくら何でも多すぎやしないかい?でも何体いても意味ないよ。」



 萬「こい、僕の奴隷共。」


 [MP80→50]


 萬もノーデンスと同じく空へと左手を掲げ、何かを召喚する。


 それらは次元の穴のようなところから雪崩のように空中に這いずり出てくる。


 ノーデンス「ほう、あいつらは駆り立てる恐怖、数は一、二、三……ざっと」


 萬「三十体、もちろん調教済み。」


 召喚された使い魔たちはぶつかり合い空中は混沌とした戦場へと変えた。


 ノーデンスはそれを横目に萬へと殴り掛かる。


 萬(普通に殴り掛かってきたか、ダイスロール次第では即死だな…何ッ!?)


 ノーデンスは萬に攻撃する際ダイスロールを行わずに攻撃してみせた。


 [萬 回避(75)→成功(25)]


 萬はそれを回避することができたが、二撃目が萬を襲おうとしていた。


 萬(まずい回避をッ!)


 ノーデンス「無駄じゃよ。」


 ノーデンスの杖が萬を割れた海の壁へと吹き飛ばす。


 [HP14→8]


 萬「ぐはっ!?……何故だ…何故ダイスロールが発生しない?」


 ノーデンス「それが世界が融合した影響じゃよ。」


 ノーデンスは淡々と説明する。


 ノーデンス「儂らがいたCOC世界と別世界が融合した影響でそのCOC世界と別世界に同時に存在した者同士が一つの者として世界と同様に融合したのだ。」


 萬「どういうことだ…つまり悟たちの世界にも神話生物が存在するとでもいうのか?」


 ノーデンス「正確に言うと儂らに似た者だがな。アザトースなどの世界の外で活動している言うならば真の単一個体は融合の影響を受けないようだな。現にお主もダイスロールのみの行動しかできておらんかったろう?」


 萬「でもそれ以外の行動は?ただ食事をするだけにダイス判定は起きなかったぞ。」


 ノーデンス「それはシナリオ外の行動だからではないかのう。推測じゃが、今のタイマンは儂に願いを聞いてもらうための行動というシナリオに左右されたものであろう。」


 萬「つまり現在の僕の行動はシナリオに想定された動きであったがためにダイスによる判定がなされたと。」


 ノーデンス「そうであろうな。じゃがお主はCOC世界ならでの存在じゃが、一応は一人の人間から派生した存在じゃ。先にも話したが、真の単一個体では無い存在は世界の融合による影響を受ける。であれば、この世界に儂らのような存在と関わらなかったもう一人のお主がおるはずじゃ。」


 萬「つまり今の僕は萬操矢であって、純粋な人間の萬操矢ではないから融合によるある意味の恩恵を受けられなかったのか……なるほど納得がいったつまり今の君は僕が知ってるノーデンスであって、僕が知らないノーデンスでもあるってことね。」


 萬操矢は納得し、再び立ち上がりノーデンスに問う。


 萬「僕はまだ降参って言ってないけどまだやるかい?」


 ノーデンス「お主がよければ儂はいくらでも付き合うが。さてはお主、ダイス判定のメリットも気づいたのではないか?」


 萬「ま、そんなところかな。じゃあタイマン再開といこうか!!」

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