第四十話 月の獣と愉悦系高校生
悟や伊角が大学に行っている間、同じく月島も高校に通うことになった。
元々は月島は人間として活動を始めてから1年間はニャルラトホテプが買った小学校から高校までの教科書を読んでおり、それらの内容を理解できるほど知能が高くその短い期間で知識として披露することもできるのだが、人間社会で生きるための経験が浅く、乏しいので悟の提案でニャルラトホテプの協力もあり近くの高校に通わせることになった。
高校3年生の5月からのスタートというハードモードな学校生活を月島は送ることとなった。
月島「今日から始めての学校ですけど、ちょっと不安です。私みたいのが馴染めるのでしょうか...」
悟「大丈夫だよ、ムンビ状態にならない限り、クラスの仲間とは仲良くなれるはずさ。」
伊角「私たちは生物はあまり人間に姿を表してはいけないからね、悟はあれだけど常人なら普通に怖がるからね。」
悟「おいなんだよ、あれだからって。まぁとにかくだ、学校でも俺たちと話してるみたいに明るく元気な月島ちゃんを見せてやれ。」
月島「はい!いってきます!」
元気ついた月島ちゃんは走って行ってしまった。
悟「おう、いってらっしゃい。学校生活楽しんでこいよ!」
俺は月島ちゃんに届くように大声で見送った。
伊角「私たちも大学に行くか。」
悟「ざんねーん今日俺必須は午後でーす!」
伊角「ちぇー。じゃあ後でラーメン食べに行こ
う。」
悟「あいよ、いってら伊角。」
伊角「ああ、行ってくるよ。」
悟「やっぱあいつイス人と思えねぇわ。」
私は学校に着き担任の先生となる人に連れられ教室前で待機するよう言われた。
言われるがままに待っていると教室の中からざわざわと声が聞こえてくる。「どんな子かな?」「仲良くできるかな?」と色々だ。
そこには私が転校してきたことを嫌悪するような言葉は聞こえてこず安心したけど緊張もそれに比例するようにドンドンと高まる。
学校のチャイムが鳴り、朝のSTが始まる。クラスはいつもよりもざわついていた。1週間ほど前にクラスの男子が校長室で見知らぬの女子が入っていくのを見たと言ったのが始まりだった。
クラスの皆は、見間違いではと疑う者や、どんな容姿であったかと彼に聞く者など様々いた。
そして先週の金曜日に担任から月曜日に転校生の子が来ると連絡があり今に至る。
転校生など、昔の私にとっては、些細な事として気に留めてもいなかったが、あの件に会ってからは、私の心境にも変化があった。彼の者が、本当に邪の神であったとするのなら、あれが夢ではなく、現実であるのなら。1つのシナリオフラグとして機能をしゆる事柄なのか判断しなくてはな。
ざわついたクラスに担任が一言
「皆さん、金曜日に話した通り、今日からうちのクラスに転校生がやってきます。どうぞ入ってきてください。」
教室の扉が開き、転校生が入ってくる。
赤と桃色の長髪、整った顔立ち、白い学生服を着た薄い藍色の瞳を持った少女の姿がそこにあった。
少女は黒板に慣れない手つきで名前を書き自己紹介を始めた。
しばらく待っていると「どうぞ入ってきてください」と担任の声が聞こえる。
私は扉を開け教室に入る、期待や歓迎といった暖かい眼差しが眩しかった。
かつて住んでいたドリームランドの月にはこのようなものが無かったが故か、体が硬直を始める。
ぎこちない足取りで教卓の隣に立ち、黒板に慣れないチョークで名前を書く、自分から見た時ちょっと形が変に見えたが気にしない。
私は悟さんが言ってくれたことを思い出しながら明るく自己紹介を始める。
月島「はじめまして!今日からこの学校のお世話になります。名前は月島獣子と言います。1年間よろしくお願いします!」
明るく、まぶしいほどの笑顔は、クラスの皆を一瞬にして虜にした。それもそのはず、少女は純粋にも「みんなと仲良くなりたい」というオーラが溢れているのだから。
昔の私なら、少女の存在感に違和感を感じることなどなかったのだろうが、今の私はぼんやりとだが見えている。
巨大な白いヒキガエルのような化け物を。
私は彼の邪神に奇妙なものを渡された。
高校からの帰宅途中の際に、街頭インタビューに応じたのかきっかけだった。
「お前も探索者にならないか?」
「それで私の願いは叶うのかね?」
「この人、質問を質問で返してきた変なの。それに答えるのならイエスだ。事が終わり次第君が生きていたらね。」
「よかろう、その話になるとしよう。」
「君とは根本的なところで仲良くなれそうだよ。」
その時に渡されたAFキャラシメーカーなるものは、本誌及びQRコードを読み込み飛んだサイトを手に持つ又は立ち上げている間は周囲に存在する神話生物の擬態などの影響を受けずにその本来の姿を半透明で可視化する性質を持つようだ。
現に私は今本誌を開きながら少女の方向を見ている。そのため、あの少女の正体が巨大な白いヒキガエルのような神話生物であるとわかったのだが、現状少女は我々に敵対するのではなく、仲良くなりたいと友好的なオーラを発している。
なぜ神話生物が学生として私の高校に転校してきたのか?と思考を巡らせていると担任が少女に話す。
「席はあの左奥の空いている席を使ってくれ。晩野くん、月島さんに学校の案内とかを頼むよ。」
そう担任が言うとクラスの視線がこちらに向けられる。「なんで僕ではないんだ」、「なぜ彼なんだ」と他者の苦悶に満ち溢れたその表情実に、実に良い。欲を言うのなら、この絶景を見下ろしながら杏仁豆腐でも嗜みたいが生憎今は朝のSTだ昼食の愉しみとして取っておこう。
晩野は担任に会釈をし愉悦に満ちた笑みを浮かべる。
私は担任の先生に言われた方向を見ると一人の青年が隣に座っていた。
服は制服の上に白衣を着ていて、黒髪のボサボサ頭で顔自体は整っているが無気力な表情をしている。そしてよく見てみると漫画とかで聞いた表現だと「目が死んでいる」感じでちょっと不気味だ。私は言われた席に座り、勇気を出して話しかけてみる。
月島「初めまして、月島獣子って言います。よろしくお願いします。」
晩野「私の名前は晩野和。慣れない新しい環境で不安もあると思うが、誰にでもそのような経験はある安心したまえ。わからないことがあれば私に聞くといい、君が馴染めるよう努力しよう。」




