表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/77

第8章:いつか、許せる日が来たら(8)

「克己!!」

 確実に首をつかもうとしてきた手を、魔法少女の反射神経でさける。いつもの千春のままだったら、簡単につかまって、投げ飛ばされていただろう。

「克己、僕だよ、千春だよ! わかって!」

「無理だな」

 斉唱をBGMに、リーデルが楽しげに目を細める。

「皇帝である私みずから催眠術をかけたのだ。そう簡単に解けるものはいまい」

 次々と左右からくり出されるこぶしを、右に左に身をそらし、時に床を転がってかわし、時に光の壁を展開して受け止める。

 克己に柔道の受け身を教えてもらったことはあった。

『お前、なにかあった時のために、身の守り方くらいはおぼえておけよ』

 そう屈託なく笑う幼なじみの手ほどきで、ゆっくりとかつがれて。床に転がる時にどうすれば体を痛めないか、教わった。

 だけど今、その知識は到底役に立ちそうにない。手加減のない克己の攻撃は素早く、容赦なくソル・スプリングに迫ってくる。

 気づけば、壁際まで追い詰められて、背中がひんやりと固い壁に触れた。

 克己がこちらのえり元をつかむ。そして、こぶしをふりかざす。

 ソル・スプリングは、直後に訪れる衝撃を想像して、ぎゅっと両目をつむった。


 その頃、ルナ・オータムとシエロ・サマーは、ニエベ・ウィンターを前に苦戦を強いられていた。

 やはりソル・スプリングを欠いたのが大きく、シエロ・サマーの水の壁だけでは、敵の氷つぶてをすべては消しきれない。肉弾戦でニエベ・ウィンターに近づくルナ・オータムの顔や腕には、霜がはりついて、赤い炎症を起こしている。

 それでも、彼女の赤い瞳には、まだ強い意志が宿っていた。負けはしない、諦めない、という決意が。

「往生際の悪い人たちですね」

 ニエベ・ウィンターが、見下した冷たい瞳で言い放ち、『シュテルン』をふりかざす。

「これで終わりにしましょう」

 ひときわ強い魔力が、彼女から放たれようとした時。

「――奈津里!」

「うんっ!」

 ルナ・オータムの声にこたえて、シエロ・サマーがニエベ・ウィンターより早く魔法を発動させる。


『水よ、すべてを押し流せ!』


 短い呪文ながら、呼び出された水流はかなりのもので、ニエベ・ウィンターの『シュテルン』を、その手からはじき飛ばす。

「なっ!?」

 まさに氷のごとく無表情だったニエベ・ウィンターの顔に、はじめて動揺が走った。

「どうして、私の攻撃を見切った……!?」

「簡単なことよ」

 ルナ・オータムが得意気に笑って、自分の頭を指で小突く。

「絶対記憶を持つあたしが、何度もあんたの攻撃を受けることで、攻撃パターンを完全におぼえた。その中にある隙さえ見いだせば、後はあたしの相棒がうまくやってくれるって、信じてた」

「相棒」シエロ・サマーがぽっとほおを赤く染め、それからうれしそうにはにかむ。「信じてた」

「……というわけで、あんたはここで終わり」

 自分で言っておきながら顔を朱に染めつつ、ルナ・オータムは赤い『シュテルン』を、床に落ちた白い『シュテルン』に向けて振りおろす。

 しゃりいいん……と。

 鏡が割れるような音を立てて、ニエベ・ウィンターの『シュテルン』が砕け散った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ