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第8章:いつか、許せる日が来たら(7)

「リーデル」

『シュテルン』をかまえながら、ソル・スプリングは一歩一歩、皇帝に近づいてゆく。部屋にかかっていた音楽は終曲に向かっているようだ。

「僕はあなたと戦いたくありません。あなたも佐名和の町から部下を退かせてください」

「それが、ひとにものを頼む態度かな?」

 リーデルに一笑に伏され、はっと手にした『シュテルン』を見やる。武器を握りしめたまま「戦いたくない」なんて、だれも聞いてはくれないお願いだ。自分の未熟さが恥ずかしくなる。

「しょせん、ニンゲンの血が混じった子どものやることか」

 残念だ、とつぶやいて、リーデルは椅子の背もたれに身をあずけ、大きなため息をついてみせる。

「だが、私がこの町に、フリーマンの被害を与えてきたのも事実。ここはひとつ、君を試させてくれないか」

 ぱちん、と。

 リーデルが指を鳴らすと、部屋の真ん中に風が吹いた。ソル・スプリングはツインテールを吹き上げられて、思わず顔をおおう。

 それがおさまった時、ソル・スプリングはがく然とその場に立ち尽くしてしまった。

「克己……」

 ようようそれだけが口からこぼれる。

 無事で良かった。

 そう言おうとして、幼なじみが今まとう雰囲気に、とてもその言葉が出なかったのだ。

 いつものスポーツウェアではなく、上下黒いジャケットとズボンに身を包んでいる姿は、なんだかまがまがしい。

 なにより、千春を見すえる瞳が、いつもの克己ではない。いつも穏やかな優しさを向けてくれた光は宿らず、知らない相手、むしろ敵を見るような目で、克己はソル・スプリングを視界にとらえているのだ。

「さあ、見せておくれ! カレンの子よ!」

 リーデルが両腕を広げると同時、新しい曲が始まる。ベートーベンの交響曲第九番第四楽章、『歓喜の歌』だ。

 それを合図にしたかのように、克己が床を蹴って、ソル・スプリングに飛びかかってきた。

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