第8章:いつか、許せる日が来たら(5)
仲間たちのおどろきも無理はない。
『春の太陽』
『夏の空』
『秋の月』
と来たら、
『冬の雪』
なんて名前を持つ魔法少女は、味方だと思うはずだ。
だけど、銀髪の少女は、冷え込んだ冬の日のような目でソル・スプリングたちを見下ろし、感情のこもっていない声を放つ。
「魔法少女は、もともとは選ばれたフリーマンが『シュテルン』を託されて変身するもの。あなたたちのほうが異端なのです」
言うが早いか、ニエベ・ウィンターは白い『シュテルン』をひとふり。
『凍てつけ、雪の女王の涙。刃向かうものすべてを、永遠の氷結の果てに』
とっさにソル・スプリングとシエロ・サマーが光と水の壁を展開させたところに、氷のつぶてがおそいかかる。
魔法少女三人分の魔力がぶつかり合い、金属を打ち合わせるような甲高い音が連続でひびいて、すべてがちりとなり、空気中に拡散する。それでも、ニエベ・ウィンターの力のほうが多少上なのか、エアコンの冷気も届かない夏の階段が、冷気に包まれて、肌が少しひりついた。
「セエイッ!」
三人が交戦している間に、ニエベ・ウィンターの背後に回っていたルナ・オータムが、『シュテルン』を振り下ろす。完全に敵の不意をついたはずの攻撃は、しかし、ニエベ・ウィンターが少し体を横にずらすだけで、簡単によけられてしまった。
「ルナ・オータム!」
魔力のゆらめきを感じ取って、ソル・スプリングは即座に『シュテルン』を振る。ルナ・オータムの前に現れた光の壁が、ニエベ・ウィンターが放った氷のかたまりから、味方を守った。
「サンクス!」
飛びすさって敵から距離を取ったルナ・オータムが、ソル・スプリングの横にやってきて、「千春」と告げる。
「先に行きなさい。ここはあたしと奈津里で引き受ける」
「えっ!?」
呼び方が本名になっていることではなく、『先に行け』と言われたことに、ソル・スプリングは驚きを隠せなかった。
魔法少女三人で数分相手をしただけでも、実力の差をひしひしと感じる、完全な『自在なるもの』の魔法少女に、ソル・スプリングを欠いて、勝ち目はあるのだろうか。
それでも。ルナ・オータムは、いや、紅葉は、赤い瞳でじっと千春を見つめるのだ。
「誰かがリーデルのもとにたどりつかなくちゃ、佐名和はおしまいよ。この場合、誰が行くべきかは、わかってるわよね? 切り札は、あんたよ」
そう言われたら、千春に言い返すすべはない。
それに、母カレンの友愛者であったリーデル。彼の怒りをしずめられるとしたら、カレンの子である自分が言葉を尽くすしかないのだ。
「……わかった」
ひとつ、大きくうなずくと、紅葉と奈津里も真剣な表情でうなずき返す。
「お別れは言い終わりましたか?」
まるで話が終わるのを待っていてくれたかのように、ニエベ・ウィンターが声をかけてくる。
「いい? あたしたちがやつを引きつけるから、その間に行くのよ」
「気をつけてね、千春くん」
ルナ・オータムとシエロ・サマーが『シュテルン』を握り直して、敵の魔法少女に飛びかかった。その隙に、ソル・スプリングは階段を駆けのぼる。
ニエベ・ウィンターとすれ違う。邪魔をしてくるかと思った彼女は、しかし、ソル・スプリングには見向きもしなかった。
ただ、空耳ではないかと疑うほどの声量で、
「リーデル様を、止めて」
そう、聞こえた気がした。




