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第1章:ソル・スプリングは恋した相手に恋される(6)

 光がおさまった時、千春は自分の外見が確実に変化しているのを、視界に入る端々《はしばし》から見て取った。

 ピンク色の長い髪。ただでさえ華奢だったのに、より細くなっている手首にはレースのリボン。足元は、少しだけヒールのあるおしゃれな靴。身にまとうのは、ピンクを基調にした膝上丈のドレス。

 そう、それはまるで、いつも憧れていた、女の子の格好のようだ。

「おおゥ! おおゥ!」

 タマが完全に興に乗った様子でほえる。

「やったな千春ゥ! 『魔法少女ソル・スプリング』の誕生じゃァ!」

 なんとなくわかる。英語とスペイン語で、春の太陽。

 だが、その前置きの言葉に、千春は首を傾げた。

「魔法……少、女?」

 混迷を受け取ったのだろう。タマは「おゥ!」とかくかくうなずき、またどこからともなく鏡を取り出す。そこに映る自分の姿を見て、千春は地球が裏返ったのではないかというほどの驚きにとらわれた。

 どこからどう見ても、完全に、立派な少女だった。もともと中性的だった顔は、明らかに女のそれになり、明るい茶色だった瞳は、金色に光っている。長いだけかと思ったピンクの髪は、可愛らしいリボンで結ったツインテールになっている。そういえば、胸も少しあるかもしれない。

「『シュテルン』は、魔法少女の変身用ステッキじゃ! お前は今まさに、『ソル・スプリング』として目覚めたのだ!」

 まるで熱血指導者のようにタマは叫び、短いしっぽをちぎれんばかりにふりふり振る。

 変身したのはわかった。でもどうして、魔法少女になる必要があったのだろう。自分の中のひそやかな願いが、反映されてしまったのだろうか?

「ええい、いつまで話し込んでいる! 我を無視するな!」

『猛禽のラパス』が、当たり前と言えば当たり前のことを言いながら、先ほどと同じもやもやした白い光を投げつけてくる。

 考えるより先に、体が動いた。

『シュテルン』を光に向けて差し出せば、先端の卵飾りがピンク色の光を放ち、桜の花びらの形をした光が舞って、壁を作り出す。白い光は壁にぶつかると、しゅう、とあっけない音を立てて消え去った。

「なにぃ!?」

 ラパスが驚愕にくちばしをあぜんと開き、硬直してしまう。

「今だ! 必殺技を放て、ソル・スプリングゥ!!」

 タマに言われるまでもなく、頭の中にはまた言葉が浮かぶ。


『放て、浄化の輝き。「自在なるもの(フリーマン)」はあるべき姿にかえれ!』


 頭上で『シュテルン』を一回転。ピンク色の光が、ステッキの動きを追うように流れ、虹色に変わる。勢い良く振り下ろせば、光はまっすぐにラパスに向かって飛ぶ。

「なっ、なんとおーっ!?」

 相手によける暇は与えなかった。光が鳥人間を直撃する。

「ぬおおおおーっ!」

 虹色の光に包まれたラパスの悲鳴はやがて、「コケーッ!」という鳴き声に変わる。

 光がおさまった時、そこにいたのは、けったいな鳥人間ではなく、まるまる太ったおいしそうなニワトリが一羽、であった。

「『猛禽』なのに、正体ニワトリなんだ……」

 千春が気抜けした声をもらしている間に、ラパスはコケコケ鳴きながら、一目散に逃げてゆく。はっと我に返り、あとを追おうとしたが。

「深追いするでない!」

 と、タマに真剣な声で止められた。

「お前はまだ目覚めたばかり。『自在なるもの(フリーマン)』の恐ろしさを知らぬうちから、まともに立ち向かおうとするな!」

 それを言われては、千春もぐうの音が出ない。それに、聞きたいことも、気になることもたくさんある。千春は、いや、ソル・スプリングは、今にも走り出しそうだった足を地面にしっかりとつけ、踏みとどまるのだった。

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