第8章:いつか、許せる日が来たら(4)
サナワ・グリーンフルビルは十階建てである。
ちょうどバリアフリーが世間に広まり始めた時期に建てられたため、廊下は平坦で、段差があるところにはスロープが併設されている。
エレベーターも車いすの人が乗れるように、一台あたりの幅と奥行きを広く取っているという。
だが、ソル・スプリングたちがエレベーターの中を実際に見ることはかなわなかった。どの階にいるのか示すランプは消えていて、ボタンを押しても反応しない。
「こンの!」「ま、待って落ち着いて、ルナ・オータム!」
今にもボタンを叩き壊しそうなルナ・オータムを、シエロ・サマーがあわてて制止する。
「仕方ないよ」ソル・スプリングはため息をつきながら、廊下の奥に視線を向ける。「素直にのぼろう」
つられて残りの二人も見やる先には、階段があった。
ルナ・オータムがなにかを言いたそうに顔をしかめるが、腹をくくったのだろう。先陣を切って走り出した。
足の悪い人でものぼりやすいように、一段一段が低めの階段を、三人の魔法少女は一段飛ばしで駆けのぼる。
『足腰をきたえておかねば、歳を取った時に苦労する!』
そう豪語した祖母と一緒に、夏休みは毎朝、近くのお寺の百段を走ってのぼったものだ。千春の体力では三十段でへばって、『根性が足りん!』と怒られていたが。
ともかく、敵は建物前と玄関先に集まっていたのか、ソル・スプリングたちの行く手をはばむものは出なかった。
「これなら、十階まで一気に行けそうだね」
ソル・スプリングが、走りながらもほっと息をついた時。
「――止まって!」
シエロ・サマーが叫びながら『シュテルン』をかざす。水のあぶくが放たれ、壁を作ったかと思うと、正面から飛んできた、無数の氷のつぶてを受け止めた。
言われて足を止めていなければ、まともにくらって凍りついていただろう。ソル・スプリングはぞっと身をふるわせ、そして、これだけの魔法を使える相手を思い出して、金色の瞳で前方をにらみつける。
「ここから先へは行かせません」
上階へ続く踊り場に、非常灯の灯りを背中から受けて立つのは、克己を連れ去った魔法少女だった。たしか名前は。
「ニエベ・ウィンター……!」
「えっ!?」
「魔法少女が敵なの!?」
ソル・スプリングがつぶやくと、ルナ・オータムとシエロ・サマーが驚いてこちらを向いた。




