第8章:いつか、許せる日が来たら(2)
数代前の佐名和町長が、緑化計画とともに町役場を大改装した建物。それが、サナワ・グリーンフルビルである。
緑のツタが葉を生い茂らせる姿は、大きな木にも見える。が、中はしっかり現代のセキュリティに守られた、働きやすい職場……とは、実際に働く職員が、当時の町内新聞でインタビューに答えた言葉だ。
その働きやすい職場こそ、リーデルの佐名和での拠点。
去年就任した現在の町長『神野竜胆』こそ、リーデルが人間世界にとけ込むための姿であった。
その敵の親玉が居座るビルの玄関先に、爆走族が乗りつける。
「ありがとう、ヒカルさん!」
「おーう! 思う存分暴れてこい!」
ソル・スプリングがタマを抱えて車から降りながらヒカルに礼を送ると、激励が返ってくる。
「背中は気にするな!」
「俺たちが引き受けるぜ!」
「イエーイ! 暴れるの久しぶりだな!」
「腕が鳴るぜえ!」
愚連隊のみんなは、こきぽき拳を鳴らし、昂揚感丸出しのおたけびをあげる。これは本当に、外の敵はまかせてもよさそうだ。
ほっと息をつきながら、入口の自動ドアに向かったソル・スプリング、ルナ・オータム、シエロ・サマーだったが、早速足止めをくらってしまった。
『しっかり現代のセキュリティに守られた』建物は、職員が持つセキュリティカードをかざさないと、ロックが解除されない仕組みになっていたのだ。
「仕方ないわね、修理費は『機関』から出してもらうしか」
「待てィ!」
赤い『シュテルン』を振りかざしたルナ・オータムを、野太い声で止めたのは、タマだった。
「ここは我にまかせい!」
ぴょん、とはねて、ソル・スプリングの腕の中から飛び出したかと思うと。
「『いないもの』に徹する誓いを、我が『主人』のために、今くつがえす! ふぬうううううッ!!」
と、気合いを込めてぶるぶる体を震わせる。ポメラニアンの姿が、次第に巨大化して、ぱあっと光を放った。




