第7章:王子様を助けにいくのはお姫様の役目(12)
「ヨースケさあん!!」
バイク集団の先頭にいる、金髪の青年が、千春の父の名を景気よく呼ぶ。
「おう、マメタロー! 悪いな!」
「ヨースケさあん! 本名はダセエからヒカルって呼んでくださいよって、いつも言ってるじゃないスかあ!」
「おお、悪い悪い!」
突然現れた推定暴走族に、洋輔以外のその場にいる全員が固まる。「おお」と洋輔は今さら気づいた様子で、校庭をびっと指さした。
「あいつらは、ヤンチャしてた頃に俺様がちょっと恩を売った、暴走族改め安全運転の爆走族、『佐名和愚連隊』だぜ!」
なんの恩かは、今はあえて聞くまい。その場にいる洋輔以外の全員が、同じ感想を抱く。
「よーう、ヨースケさんの跡取り!」
マメタローもといヒカルが、サングラスに隠れて目はわからないが、口元には確実に親しみをこめて手を振る。
「おめーがオレたちに会うのは初めてだが、オレたちはヨースケさんからよく話を聞いてるぜ!」
「困ってんだろ? 任せな!」
「佐名和の平和は俺たちが守るぜ!」
ヒカルに続いて、暴走族もとい爆走族の青少年たちが、クラクションを鳴らしたりエンジンをふかしたりして、次々と拳を突き上げた。
『洋輔も、若い頃は手に負えなかったからの。今もじゃが』
いつか祖母がそう呆れた吐息をもらしていたのを、場違いにも思い出して、千春は思わずくすりと笑ってしまう。
「えーっと、東城って言ったか?」
いまだに「ヨースケさあん!」「また一緒に海岸線飛ばしましょうよ~!」などと言っている愚連隊から顔をそらし、洋輔は東城を呼ぶ。
「リーデルの居場所をあいつらに教えてやってくれ。安全運転で送り届けてくれるからよ!」
「ほんっとうにだいじょうぶなの……?」
東城が、彼女にしては珍しく、眉間にしわを寄せてぼやく。が、腐っても敏腕研究員。判断は早かった。
「とはいえ、どのみち空路は使えないものね。佐名和を知り尽くしている人たちの手を借りたほうが良いのは、一理ある」
「あっ良かったこいつと一緒にヘリコプターに乗る羽目にならなくて」
紅葉が一息で安堵するが、千春は聞かなかったふりをした。
ともあれ、佐名和の危機に、ともに立ち向かってくれる人が大勢いる。それはなによりも心強い。
さっきは、克己にかばわれて、独りきりで、途方に暮れてしまった。だけどこれならば、リーデルに勝てる気がする。克己も取り戻せる気がする。
ロザリーに導かれたお姫様のように。ソル・スプリングは、戦える。
「行くぞい、千春ゥ!」
千春の横顔に決意が宿ったのを見届けたのだろう。タマが嬉しそうにはねた。
「悪の皇帝を倒して王子様を救うのは、お姫様の役目じゃぞい!」




