第7章:王子様を助けにいくのはお姫様の役目(10)
「私はニエベ・ウィンター。リーデル様の腹心」
がく然としてしまう千春に、第四の魔法少女とおぼしき少女が、口を開く。
「ソル・スプリング。リーデル様の命令では、本当はお前を捕らえるはずだったのですが、まあいいでしょう」
冬の雪に似つかわしい、夏の大気すら凍らせそうな声色と、凍りついたような無表情で、少女は続ける。
「リーデル様の佐名和壊滅計画は、最終段階に入りました。止められるものなら止めてみなさい、完全な『自在なるもの』ではない者たちよ」
そう、告げ終わるやいなや、魔法少女は『シュテルン』をひとふり。冷たい雪が吹きつけて、千春は思わず腕で顔をおおってしまう。
雪が去り、太陽の光がやたら暑く降り注ぐと感じたころ、腕をどかして、千春は目にした。
ニエベ・ウィンターと名乗った魔法少女の姿が、もはや消えていることを。
そして、克己の姿も。
「克己! 克己!?」
焦って屋上を駆け回るが、返事はない。克己がどこにもいない。
それはまるで、小さい頃一度だけ、二人で遊びにいったらはぐれてしまった時を思い出させる。
あの時は、泣きながら克己の名前を呼んでいたら、どこからともなく彼が千春を見出して駆けつけてくれて。
『ごめん』『よかった』をひたすらに繰り返していた。
その時の克己は、ぐしゃぐしゃに泣いていたけれど、千春にとっては漫画の中の王子様みたいにかっこよくて、どうして自分がお姫様じゃないのだろう、と残念に思ったほどだ。
だけど今は、克己からいなくなってしまった。助けられなかった。彼はどこまでも王子様をつらぬいて、そうして、千春の前から消えてしまった。
「克己!!」
お姫様に、王子様を助ける方法はわからない。
がっくりと膝から崩れ落ち、両手をついて、だいじな人の名前を、喉もかれよとばかりに大声で叫ぶ。
でも、こたえてくれる声は、なかった。




