第7章:王子様を助けにいくのはお姫様の役目(9)
聞き違えたのかと思って、千春はぱちくりとまばたきを繰り返した。
「あ、あの。もう一度」
「何度でも言うさ」
思わず間の抜けた声をもらしてしまうと、克己はおかしそうに笑って繰り返す。
「お前のことが好きだよ。ずっとずっと、小さい頃から」
驚きに満ちた千春の表情が、よっぽど変だったのだろう。克己は耳まで赤くして顔をそらす。
「でもオレたち、男同士だろ。こんなこと思ってるって知られたら、絶対お前はオレから離れていくって怖くて、言えなかった」
だから、と。少年の瞳が、再びまっすぐに千春を見つめる。
「たしかに最初にソル・スプリングを見た時、この子がお前だったら、と思った。正体がお前だって知って、嬉しかった。まわりに変だって思われずに、お前とずっと一緒にいられるかもしれないって、期待してた」
千春の心臓が、先ほどまでの緊張とは別の意味で鼓動を速くする。
まさか克己も自分を好きだとは、考えたことがなかった。自分の一方的な恋心だと思っていた。想いはかなうことがないと諦めていた。
なのに今、最大のチャンスが目の前に転がり込んできている。これを逃したら、自分たちの縁は本当に切れてしまって、修復不可能になるかもしれない。
自分の気持ちも伝えなくては。
「お前だけじゃないよ」
きちんと克己の目を見つめて、千春はその言葉を舌に乗せようとする。
「僕だって」
十数年の想いを、伝えようとしたその時。
きん、と。
周囲の空気が急に冷たくなった気がして、千春と克己はとっさにあたりを見回す。
『凍てつけ、万物の理よ。我が敵を囲み、氷結せよ』
日本語ではない呪文とともに、魔法少女と同じ魔力を感じ。
「――千春!」
どん、と。克己に突き飛ばされて、千春は屋上のコンクリート床にしりもちをつく。
痛みに顔をしかめたが、すぐに気を取り直して目を開いた千春が見たものは。
鳥のような羽根をはやした、肩までの銀髪に、白い『シュテルン』を手にし、白と銀を基調にした服をまとった、千春より二、三歳年上と見える少女。
そして、千春を突き飛ばした必死の形相のまま、氷の塊の中に閉じ込められた克己だった。




