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第7章:王子様を助けにいくのはお姫様の役目(8)

 千春はどきどきする胸に、しずまれ、と言い聞かせながら、克己の隣に並んだ。フェンス越しに見下ろす校庭に人の姿は見えず、世界に二人きりかのような時間が流れる。

「まるで変身したままみたいだな」

 克己が軽く笑った気配がしたので、横を向けば、克己の喉仏あたりが見えてしまったので、慌てて視線を上げる。今までより身長が低くなったのを忘れていた。

 克己は声音通り、かすかな笑みを浮かべて千春を見下ろしていた。こちらも、今までより千春が低くなっていたので、目線の置き場に少々戸惑っているようだ。

「これ言ったら、お前は怒るかもしれないけど」

 そう前置きして、克己は告げる。

「魔法少女のお前、かわいいぞ。そんじょそこらの女子より」

 かわいい。そう言われて、ほおが熱くなる。確実に照れている自分がいる。

 だけど。

「克己は」

 黒いとげが心に刺さった気がして、千春は幼なじみから顔をそらし、少しすねた調子で言った。

「僕が、女の子のほうが良いって思ってた?」

 一度吐き出してしまえば、ずっと抱えていた思いは止まらない。

「女々しい幼なじみであきれてなかった? 一緒に上波北に行くのも、本当はいやじゃなかった? 弱い幼なじみの面倒を見るのは、手が焼けなかった?」

 これを言ったら、克己を困らせる。わかっていながらも、聞かずにはいられなかった。

「克己は、ソル・スプリングの僕のほうが、好きなんじゃなかったの?」

 少年が息を呑む気配がした。怒らせたかもしれない。本当にあきれられたかもしれない。

 このまま克己が口を閉ざして、背を向けてこの場を去っても、千春に彼を責める筋合いはない。

 だいじな人を、勝手に好きになって、勝手に傷つけた。その罰を受けてもかまわない。そう覚悟を決めて、軽くうつむき、フェンスを握る手にぎゅっと力を込めると。

 ふわっ、と。

 その手に克己の大きな手が重ねられた。

「そんなこと考えてたのかよ」

 やっぱり怒ってる。続けられる軽蔑の言葉を覚悟して、身を固くすると。

「そんなことで、オレとお前の友情が壊れるはずないだろ?」

 やわらかい語調で言われて、千春は思わず目をみはってしまう。そのままばっと振りあおげば、克己は端正な顔に、夏の日差しがよく似合うまぶしい笑みを浮かべて、千春を見下ろしている。

 そして、そのくちびるが、千春の予想だにしてなかった言葉をつむぎ出した。

 いわく。


「千春。オレはお前のことが好きだよ」

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