表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/77

第7章:王子様を助けにいくのはお姫様の役目(4)

 克己と海へ行ったはずが、ぐしゃぐしゃに泣きながら帰ってきた千春を見て、洋輔もタマもなにも言わなかった。言わないというのが、全部わかられている、という証拠だ。

 千春は部屋に閉じこもり、カーテンも閉めて、ベッドの上に寝転がる。

 無造作に枕元に放り出したスマホが、着信音を立ててふるえた。

 のろのろと視線を上げ、表示された名前に、びくりと身をすくませる。

 ぎゅっと目をつむり、見なかったふりをする。聞かなかったふりをする。

 着信は何度か繰り返され、ショートメッセージにもなにかが届いているようだが、ひたすらに気づかないふりをした。

 そのうちうつらうつらとしてきて、千春は夢を見た。


『千春ちゃんはやっぱり千春ちゃんだぜ!』

 男子たちのあざけりの声。

『あんたなんかもう、魔法少女の仲間じゃない』

『千春くんが怖いよ』

 背を向けて立ち去る紅葉と奈津里。

『女に変わるなんて面白いわね。私の実験台にならない?』

 迫ってくる東城美香。

『ほら、お前はやっぱり俺のアミクスにふさわしい』

 その隣で笑っているマグロ顔のイクスィス。

 誰かに助けてほしくて、焦って周囲を見渡す。と、見慣れた背中が視界に入って、千春は声をあげた。

『克己!』

 幼なじみが足を止め、ゆっくりと振り返る。その瞳を見て、千春はすくみあがってしまった。

 いつか想像の中で考えた、冷たい視線。明らかに異質なものを見る顔。

『お前なんか、友達じゃあない』

 言い捨てて、克己は再び歩き出す。こちらのことを振り返りもせずに。

『克己、克己!』

 どんなに呼んでも泣いても叫んでも、彼は振り返ってくれなくて――


「――克己!」

 自分の大声で、千春ははっと現実に返った。

 ベッドの上にあおむけになり、くうに手を伸ばした状態で固まっている。はじめ、ほおを濡らすものがなんだかわからなかったけれど、だんだんと意識がはっきりしてくるに従って、泣いていたのは夢の中だけではないとわかった。

 ゆるゆると、頭を横に傾ける。また着信があったばかりなのだろう。スマホの画面は点灯している。

 これ以上、心臓がちぢこまる思いをしたくなくて、千春はスマホの電源を切った。


 そして、変化が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ