第7章:王子様を助けにいくのはお姫様の役目(4)
克己と海へ行ったはずが、ぐしゃぐしゃに泣きながら帰ってきた千春を見て、洋輔もタマもなにも言わなかった。言わないというのが、全部わかられている、という証拠だ。
千春は部屋に閉じこもり、カーテンも閉めて、ベッドの上に寝転がる。
無造作に枕元に放り出したスマホが、着信音を立ててふるえた。
のろのろと視線を上げ、表示された名前に、びくりと身をすくませる。
ぎゅっと目をつむり、見なかったふりをする。聞かなかったふりをする。
着信は何度か繰り返され、ショートメッセージにもなにかが届いているようだが、ひたすらに気づかないふりをした。
そのうちうつらうつらとしてきて、千春は夢を見た。
『千春ちゃんはやっぱり千春ちゃんだぜ!』
男子たちのあざけりの声。
『あんたなんかもう、魔法少女の仲間じゃない』
『千春くんが怖いよ』
背を向けて立ち去る紅葉と奈津里。
『女に変わるなんて面白いわね。私の実験台にならない?』
迫ってくる東城美香。
『ほら、お前はやっぱり俺のアミクスにふさわしい』
その隣で笑っているマグロ顔のイクスィス。
誰かに助けてほしくて、焦って周囲を見渡す。と、見慣れた背中が視界に入って、千春は声をあげた。
『克己!』
幼なじみが足を止め、ゆっくりと振り返る。その瞳を見て、千春はすくみあがってしまった。
いつか想像の中で考えた、冷たい視線。明らかに異質なものを見る顔。
『お前なんか、友達じゃあない』
言い捨てて、克己は再び歩き出す。こちらのことを振り返りもせずに。
『克己、克己!』
どんなに呼んでも泣いても叫んでも、彼は振り返ってくれなくて――
「――克己!」
自分の大声で、千春ははっと現実に返った。
ベッドの上にあおむけになり、空に手を伸ばした状態で固まっている。はじめ、ほおを濡らすものがなんだかわからなかったけれど、だんだんと意識がはっきりしてくるに従って、泣いていたのは夢の中だけではないとわかった。
ゆるゆると、頭を横に傾ける。また着信があったばかりなのだろう。スマホの画面は点灯している。
これ以上、心臓がちぢこまる思いをしたくなくて、千春はスマホの電源を切った。
そして、変化が始まった。




