表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/77

第7章:王子様を助けにいくのはお姫様の役目(2)

「お前、期末に進路希望を出さなかったんだってな。室淵先生から聞いたぞ」

 どきり、と。心臓がはね上がった。

『今の状態で上波北に希望を出すのは、まずいかもしれないなあー』

 洋輔と連絡を取り合って千春の変化を把握している室淵は、面談の時、千春がひとまず書いた進路希望用紙をながめながら、肩をすくめた。

『共学校なら、「リベルタ機関」の情報操作でいくらでもごまかせるんだが、こればっかりはなー』

 そう、佐名和から離れた高校に行ってしまえば、千春のことを知っている人間はぐんと減る。『わけあって男として育ちましたが、本当は女でした』という言い分も通るだろう。

 でも、上波北は男子校である。このまま女性になったら、『わけあって男として入学しました』などと言って通用するものではない。

 だから、室淵のすすめもあって、進路希望をいったん保留にしたのだ。

 夏休みになっても、千春の口から全く進路の話が出ないことをいぶかしんだ克己が、室淵を問いただしたのだろう。十二星使徒ガラクシアスの一席、『かに座のカルキノス』である担任さえ折れたということは、克己は相当な気迫で室淵に詰め寄ったに違いない。

「早く受験勉強を始めないと、いくらお前の成績でも間に合わないぞ。なにか、心配事があるのか?」

「そ、そんなことは」

 否定して視線をそらそうとした千春の手に、「あるだろ」と克己の手が重ねられた。

「また、右眉だけ上がってる」

 そこを見られてしまっては、言い逃れができない。熱を持った克己の手は、しっかりとこちらの手を握りしめて、千春の口から答えを聞くまで絶対に離さない、という気概を感じる。

 もう、全部話すしかないだろうか。覚悟を決めようとした千春の耳に。

「へえ、見せつけてくれるじゃないか」

 いつか聞いた覚えのある声が、飛び込んできた。

 青い鱗におおわれたフリーマン、『うお座のイクスィス』は、あごに手を当て、にやにやと笑いながら、千春たちに向かって歩いてくる。

 とっさに二人はスポーツドリンクを放り出して立ち上がり、千春は『シュテルン』を構え、克己はいつでも飛びかかれるように間合いをはかる。

「なんだ」

 その様子を見たイクスィスが、つまらなそうに目を細めた。

「戦う気満々か? 俺の友愛者アミクス候補はつれない女だな」

 それを聞いた克己が眉をひそめ、千春は心臓を手でわしづかみにされたような気分になる。

「言うな……」

「あ? なんだお前、親友って言いながら、教えてないのか?」

 言うな。その先を言うな。

 千春がふるふる首を横に振っても、イクスィスのよく回る舌は止まらない。


「こいつ、魔法少女に変身している影響で、女になりかけてるんだよ。お前らニンゲンよりよっぽど、俺たちフリーマンに近い証拠だな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ