表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/77

第6章:おとずれる変化、揺れる心(11)

 震えが止まらない。歯の根が合わなくてがちがち言う。

 ソル・スプリングに初めて変身した時さえ、こんな恐怖にとらわれなかった。それだけ、千春の中で、克己の存在は大きなものになっていたのだ。

「まあ、まあ、落ち着け千春」

 タマがいつになく優しい声を出し、千春の肩にちょこんと手を乗せる。

「まだ完全に女になったわけではあるまい。フリーマンの性別変化は気まぐれじゃ。元に戻ることもあるやもしれぬから、そう悲観的になるな」

「タマの言う通りだぞ、千春!」

 洋輔が一際陽気に言って、千春の前に、地鶏の親子丼とルイボス茶をどん、と置いた。

「まずは飯食って気持ちを落ち着かせろ! 考えるのはその後でいいんだよ! それに」

 並びの良い白い歯を見せて、父は親指を立ててみせる。

「お前が俺様とカレンの子供であることに変わりはない、って、前に言ったろ? 息子のままだろうが娘になろうが、お前は俺様の大事な子供だ。それを忘れんなよ!」

 それを聞くと、震えが止まる。代わりに、目の奥が熱くなる。

「……ありがとう」

 それだけをなんとか喉の奥からしぼり出し、千春は箸を持って親子丼を食べ始める。

 出汁から手作りのつゆで煮込んだ玉子と鶏肉の味は、とてもおいしい。こんな事態になっても、変わらずに接してくれる家族の存在は、とてもありがたい。

 だが、だからこそ。

 一番好きな相手がこの事実を知った時、どういう顔で自分を見てくるか。

 それを考えれば、悪い方向にしか思考が及ばない。

 梅雨は明けたはずなのに、千春の心には暗雲が垂れ込めて、不安という名の雨を降らせるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ