第6章:おとずれる変化、揺れる心(6)
「ところで、ずっと思ってたんだけど」
注文を済ませ、頼んだものが運ばれてくるのを待つあいだ、二杯目の水をくんできた紅葉が、ぐびぐびとグラスを傾けながら、口を開いた。
「あたしたち、役割を明確にしておいたほうが良いと思うのよね」
「「「役割?」」」
紅葉以外の三人は、きょとんと目をみはり、首を傾げる。
「あんたたち、変なところで揃うわね」
紅葉が呆れ気味に目を細め、目の前で立てた人差し指を、ついっと動かした。
「ひとえに魔法少女と言っても、あたしたち、全然魔法の使い方が違うじゃない。あたしは肉弾戦に持ち込んで直接攻撃しないと、敵には通用しないし」
その指が、奈津里に向く。
「奈津里は、水での拘束と鏡での攻撃、両方ができる万能役」
褒められたと認識したのだろう。奈津里がぱっと顔を輝かせ、満面の笑みを浮かべる。
「そして千春。あんたは、『自在なるもの』の魔法を打ち消す力が一番強い」
フリーマンを人間に近い姿から本来の姿へ戻す、浄化の魔法のことを言っているのだろう。正直なところ、自分にはそれしか取り柄がなくて、申し訳ないと思っていたのだが、限定的とはいえ『一番強い』と言ってもらえるのは、悪い気がしない。
「だから」
水を飲み干し、どん、とグラスをテーブルに置いて、紅葉はきっぱりと言い切った。
「今後は、まずはあたしが先鋒で敵を引きつける。それを奈津里が攻撃なり補助なりで弱らせて、千春を切り札として必殺技で無力化する。そういう戦い方を取っていっても、良いと思うわ」
千春は奈津里と顔を見合わせてしまう。たしかに、今まで、魔法少女同士の連携など考えて戦ったことはなかった。大体、相手がこう動くから、自分はこうすれば良い、という、暗黙の了解のもとに戦ってばかりだった。
だけど、たしかに、お互いの役割を把握しておけば、今後の戦闘は楽になるかもしれない。紅葉の提案は、あながち的外れというわけではないのだ。
しかし。
「おい、周防」
完全にかやの外に置かれた克己が、腕組みしながら眉間にしわを寄せた。
「オレはどうすればいいんだよ」
その問いかけに、紅葉は半眼で彼に視線を向けると、にっと口の端を持ち上げる。
「戦闘での臨機応変は柔道部部長様の十八番でしょ? せいぜいあたしたちを守ってちょうだいよ」
「やっぱりそう来るのか」
克己が天井をあおいで、大きなため息をつく。
克己がいつでも守ってくれるならば、自分も安心して戦える。千春は半笑いで見守りながらも、その頼もしさに胸をときめかせていた。




