第6章:おとずれる変化、揺れる心(3)
「まあ、なんにしろ、お疲れだわ」
室淵がパーカーのポケットに手を突っ込んで、気絶している二体のフリーマンをあごで示す。
「こいつらはもうすぐ『機関』の研究班が回収にくる。リーデルについて、なにか吐くかもしれないからなー」
「げっ」
ルナ・オータムがカエルのつぶれたような声を出して顔をしかめる。
「もしかして、東城美香が来るわけ?」
「おー、奴と知り合いか?」
「知り合いもなにも!」
室淵が意外そうに目を丸くすると、少女は両手で自分を抱きしめて、悲鳴じみた声を出した。
「あんっのセクハラ研究員! 人のこと都合のいい研究対象だと思って、めちゃくちゃいじくってきたわよ!」
「セクハラ」
シエロ・サマーがショックを受けた様子で胸に両手を当て、ルナ・オータムを見つめる。だがその目には、恐怖とか軽蔑ではなく、嫉妬、に近い感情が乗っているように思える。
と。
「あっらー。セクハラ研究員だなんて、ひどいこと言うじゃない、紅葉ちゃーん?」
ソル・スプリングたちの背後から、なよなよしたアルトの声が投げかけられて、ルナ・オータムは雷に打たれたかのように硬直した後のろのろと、室淵は面倒くさそうに、残りの三人は不思議顔で、振り返る。
そこで手を振っていたのは、白衣に身を包んだ、二十代前半と思える、そこそこ美人の女性だった。彼女が東城美香だろう。
やわらかい笑顔が印象的だが、そのにこにこ顔のまま近づいてくると、その分ルナ・オータムが一歩一歩後ずさる。
「あん、逃げないで、紅葉ちゃん」
「逃げる! そりゃあ逃げるわよ! 『自在なるもの』の能力を調べるとか言って、めちゃくちゃ血を抜かれたの、忘れたくても忘れられないからね! すっごい貧血で死ぬかと思ったわよ!」
「あ。そういうことなんだ」
嬉しそうに広げてくる東城の両腕を巧みによけながら、ルナ・オータムが叫ぶ。その横で、シエロ・サマーがやけに安心した吐息をもらした。




