第6章:おとずれる変化、揺れる心(2)
『うお座のイクスィス』と一戦交えた日。
「オレも千春たちと一緒に戦います」
やってきた室淵たちに、克己はきっぱりと告げた。
「十河ー、お前わかってるかー?」
さすがに室淵は、眉間にしわを寄せ、ほぼ身長の変わらない克己と向かい合い、牽制をかける。
「フリーマンは、人間の想像の及ばない魔力を持ってる。たとえば」
そして急に『かに座のカルキノス』の真面目な口調になって、右のてのひらに青い魔力の球を生み出した。
「俺が今、これをお前にぶつける。それだけで、お前は裏庭の向こうまで吹っ飛んで、三ヶ月入院だ。『猛禽のラパス』の時の気絶程度じゃ済まないぞ?」
それでも、克己は動じなかった。至極真剣な表情を保ったまま、「わかってます」と答えたのだ。
「でもそれ、千春たちがいつもそういう危険にさらされてるってことですよね? それをわかってて、別の場所で知らないふりをしていろなんて、オレは我慢できない」
やっと泣き止んだ千春が、はれぼったくなった目を驚きに見開くあいだにも、克己は先を続ける。
「それに、魔法少女って言ったって、魔法だけじゃどうにもならない時もあるんでしょう? そういう時に、オレの力が役に立つかもしれないなら、オレを戦力として扱ってください」
千春は克己の頑固さをよく知っている。幼い頃から、こうと決めたら絶対に、曲げるということをしない。サッカー観戦が趣味なので息子もサッカークラブに入れようとした、という両親の反対を押し切って、柔道の道場に通い始めた。それが小学一年生の時だったから、けっこうな年期ものである。
「おうおう、諦めろや、担任!」
それを知っている千春の父、洋輔が豪快な笑い声をあげながら、室淵の背中をばしんと叩く。
「こうなった克己は、何言っても曲げやしねえ!」
「うむ。克己が壁になるなら、千春たちも戦いやすくなるじゃろ! よきかなよきかな」
さっきはため息をついていたタマまで援護弾を打つものだから、室淵は魔力の球を消し、がっくりと肩を落として、深いため息をつくしかなかった。
「そこまで言うなら、受け入れてやる。だが、一度でも怖じ気づいたら、タマに忘却魔法をかけてもらうからな」
「望むところです」
脅し、というよりは念押しの確認にも、克己はひるまずにまっすぐ相手を見つめ、きっぱりと言い切る。
その横顔を、千春は胸をときめかせながら、頼もしい気持ちで眺めていた。
そんな経緯があって、克己は魔法少女たちの壁役兼力仕事担当として、共に戦うことになったのである。




