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第6章:おとずれる変化、揺れる心(1)

 ねえロザリー。

 最近王子様のご様子が変なの。

 わたくしのことをまっすぐに見てくださらないし。かと思えば、わたくしがよそ見をしている間に、じいっとこちらを見ていらっしゃるようで。

 何か怒らせてしまったのかしら? 嫌われてしまったのかしら? もしそうだったら、わたくし、悲しみで胸が張り裂けそう!

 ……え? ロザリー、今なんて?

 にぶい?

 わたくしがにぶいってどういうことなの?

 ……えっ。王子様もわたくしを好いてくださっている? だから恥ずかしくて目を合わせられない!?

 まあ! なんてことでしょう! 嬉しいやら恥ずかしいやら、ちょっと困るやらで、わたくしどうして良いのかわからないわ!


 七月。梅雨が明けて、佐名和の町にもまぶしい太陽の光が降り注ぐ季節になった。

 天気が良くなったせいか、フリーマンの攻撃も、散発的だが頻度を増す。

 当然、魔法少女たちの出撃も多くなるのであった。


 ぼうぼうに雑草が生え、使い物にならなくなって久しい、六丁目のサイクリングロード。

「シエロ・サマー! 奴らをまとめて!」

「わかった、ルナ・オータム!」

 赤い魔法少女の呼びかけに、水色の魔法少女がこたえて、『シュテルン』を振りかざし、日本語ではない呪文を唱える。


『うなれ、水の怒り。蛇のように素早く、悪しきものをつかみ取れ』


 巻き起こった水流が、猿の姿をした三つ子のフリーマンに襲いかかり、ぐるりと縄のようにからみつく。

「キッ、キキイ!」

「ワテらがこんな小娘にィ!」

「その小娘にしてやられてんのは、どこのどいつよ!?」

 耳障りな奇声をあげるフリーマンたちに、ルナ・オータムが『シュテルン』を振りかざして飛びかかる。

「成敗!」

 ぽかん、がつん、と音がして、脳天に一撃をくらったフリーマンたちは、「キヘエ」と妙なうめきをもらしながら気絶した。

 しかし、シエロ・サマーの水の拘束を抜け出したひとりが、草むらへ逃げようとする。

「ああっ」ルナ・オータムが悔しそうに歯がみする。「待てコラーッ!」

 だが、彼女が動くより先に、隣をすり抜けてフリーマンを追いかける人物がいた。ルナ・オータムは、横目でそれをじろりとにらむが、任せたほうが早いと判断したのだろう。黙って見送る。

 その人物――十河克己は、俊足をいかんなく発揮してフリーマンを追いかけ、地を蹴って飛びかったかと思うと、たちまち相手を地面に組み伏せてしまった。

「――千春!」

 彼が叫ぶのに呼応して、千春――が変身したソル・スプリングは『シュテルン』をフリーマンに向け、高々とのたまう。


『放て、浄化の輝き。「自在なるもの(フリーマン)」はあるべき姿にかえれ!』


 最早ソル・スプリングの決め技とも言える魔法が放たれ、ピンクの光が、克己の押さえ込んだフリーマンを直撃した。

「ギヘエーキキキキィッ!」

 悲鳴が猿の鳴き声に変わる。二回り以上縮んだ、完全な猿の姿になったフリーマンは、キイキイと鳴きながら、ほうほうのていで逃げ出していった。

「あいつ、ひとりだけ!」

 ルナ・オータムがいら立ち混じりに『シュテルン』を振り上げるが。

「おーう、深追いはしなくていいぞー」

 戦闘の場にはあまりにも不似合いの、呑気な口調が投げかけられたので、彼女も脱力して肩を落とし、少年少女たちはそろってそちらを振り向く。

 心なしか春より無精ひげが増えた気がする室淵が、ぶらぶらと手を振りながら、こちらに向かってくるところだった。

「ご苦労さーん。澤森、周防、會場。それに、十河」

 室淵ののったりしたねぎらいに、シエロ・サマーは礼儀正しくおじぎをし、ルナ・オータムは「本当にご苦労と思ってる?」といつもの憎まれ口。

 そしてソル・スプリングは担任に頭を下げた後、横目で幼なじみの姿を追う。スポーツウェアに身を包んだ克己は、「お疲れさまです!」と柔道部員らしい礼をしてみせた。

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