第5章:お前もアミクスにならないか?(10)
足が止まった。
どうして、いつ、わかったのか。
それを訊かずとも、立ち止まって黙り込んでしまったのが、答えだとばれたのだろう。「やっぱり」と克己がひとつ、息をついて、それから、苦笑いしてみせた。
「お前、隠し事があると、右側の眉だけ上がるもんな」
そんなところまで観察されていたのか。そういえば、奈津里の家を訪ねた日も、迷わず緑地公園へやってきたし、この幼なじみの勘のするどさは、こちらが認識している以上なのかもしれない。
「あー、もう」
シエロ・サマーがおろおろする隣で、ルナ・オータムが大きなため息を吐き出し、ソル・スプリングをつつく。
「もうごまかしきかないだろうし、この調子だと、あたしらが名前を呼んじゃったのも聞こえてるでしょ。覚悟決めなさい」
そういえば、二人はソル・スプリングがイクスィスに迫られた時に、「千春」と呼んでしまった。あのあたりから状況を見られていたら、もう事実をくつがえす手段はない。
くたりと脱力しつつ、『シュテルン』をひとふり。ピンク色の光がはじけて、ソル・スプリングは澤森千春の姿を取り戻していた。それに続いて、紅葉と奈津里も変身を解除する。
「ああ、やっぱりそっちは周防と會場か」
予想通りだ、とばかりに克己が破顔する。
その笑みが、怒りや軽蔑に変わることを予想して、千春は、なんとか「……ごめん」だけをつぶやいた。
少女趣味の幼なじみが、本当に少女に変身していたのだ。今度こそ、見捨てられるに違いない。心臓がひどく速く脈打って、相手の顔を見られずに、うつむいてしまう。
ところが。
「なに、謝ってるんだよ。謝るのはオレのほうだ」
大きな手が、千春の頭に乗せられ、ぐりぐりとなで回してきた。
「最初に守ってくれたのも、オレのためだったんだろ」
言われれば、あざやかに思い出す。克己を守りたいと思って、力を求めた、あの春の日。『猛禽のラパス』を撃退した、最初の変身。
「今までずっと、助けられなくて、ごめんな」
それを聞いた途端、千春の中で、はりつめていた糸がぷつんと切れる音がした。
ぶわり、と。両の目から涙があふれ出して、ほおを伝う。千春は小さな子どものようにわんわん泣きながら、「ごめん」をただひたすらに繰り返した。
「えっ、だから謝るなって! なんで泣くんだよそこで!?」
克己はおろおろとうろたえるばかり。
「あーああ」紅葉が頭の後ろで手を組んで、愉快そうに笑う。「大事な幼なじみを泣ーかせた」
「ええっ、紅葉ちゃん、それでいいの?」奈津里は相変わらずおろおろと事態を見守る。
そこへ、室淵、洋輔、タマの二人と一匹が、遅ればせながら駆けつけた。
「あー、えーと? いろいろバレてるか、これ?」
室淵が頭をがりがりかき。
「忘却魔法はもう無意味かのう」
タマが犬は絶対しないだろうというため息をつけば。
「はっはっは! 克己が千春の味方についててくれるなら、百人力だぜ!」
洋輔は腰に手を当て、のけぞって大笑いする。
雲間から太陽がさす。
梅雨の合間に訪れるしばしの晴れは、魔法少女たちの新たな道を、照らしているかのようだった。




