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第5章:お前もアミクスにならないか?(9)

 どうしてここに克己がいるのだろう。

 ソル・スプリングがその答えに至るより先に、克己が動いた。魔法少女たちを追い越して、『うお座のイクスィス』との距離を詰める。

「うおっ!?」

 イクスィスも、普通の人間の少年が、突然飛びかかってきたことに驚いたようだ。慌てた声を出すが、さすがは十二星使徒、すぐに平静を保って、克己につかみかかろうとする。

 しかし、克己も中学生大会で無敗をほこる強者つわもの。巧みにイクスィスの手をよけて、触ることを許しはしない。

 そしてついに、克己が大きく一歩踏み込んで、イクスィスのえり元をつかんだかと思うと、

「セイヤァッ!」

 という気合い一発。見事な背負い投げをして、フリーマンの体は勢いよく地面にたたきつけられた。

「うわー……」ルナ・オータムが、感心半分呆れ半分のため息をもらす。「生身で十二星使徒を投げ飛ばす人間が出たなんて『機関』の上が知ったら、卒倒するわ」

 地面にひっくり返ったイクスィスも、なにが起きたのかすぐには理解できなかったのだろう。十秒ほど、ぱちくりとまばたきを繰り返していたのだが。

「さっさと去れ」

 克己が冷たい目をして、フリーマンを見下ろした。

「彼女たちに手を出したら、またオレが投げ飛ばしに来ると思ってろ」

 自信たっぷりの宣戦布告に、しかしイクスィスは、こりなかったようだ。ぴょん、と魚のようにはねて起き上がると、克己をにらみ返し。

「……おぼえてろよ」

 完全に敗者の捨てゼリフを吐いたかと思うと、一瞬にして青い鱗におおわれた大きなマグロの姿を取り、空の中をすいすいと泳いで去っていった。

 ソル・スプリングは、胸の高まりをおさえられないまま、克己の背中を見つめる。ひとまずの脅威は去ったのだ、自分たちも早くこの場を離れたほうがいい。

 幼なじみに、正体をさとられる前に。

「あ、あの、ありがとうございました」

 ピンクのツインテールを揺らしながら頭を下げると、ルナ・オータムとシエロ・サマーをうながす。

「じゃあ、ぼ……わたしたちは、これで」

 しかし。

「待てよ。いや、待ってくれよ」

 克己が呼び止め、一瞬迷いを見せた後で、その名をソル・スプリングの背中に投げかけた。

「千春」

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