第5章:お前もアミクスにならないか?(7)
「へえ、面白いじゃないか!」
『うお座のイクスィス』が興味深そうに笑い声をもらし、ばっと右手を突き出した。そこからあぶくが生まれ、ソル・スプリングたちに向かって飛びかかってくる。
三人は即座に三方向に飛び退き、ソル・スプリングはピンクの光で壁を作り、ルナ・オータムは『シュテルン』を振り回して、泡を消し去る。
そして、初めての変身をしたシエロ・サマーは。
『夏空の輝き、鏡のように舞い踊れ!』
水色の『シュテルン』をひとふり。それと同時に、彼女のまわりでガラスのかけらのような輝きが無数に舞い、次々と光を放って、それに触れたあぶくを、片端から消してゆく。
想定以上だったのだろう。イクスィスが少しだけ、びっくりした顔を見せた隙に、ソル・スプリングは呪文を唱える。
『放て、浄化の輝き。「自在なるもの」はあるべき姿に還れ!』
いつもの、フリーマンを撃退する時の魔法が放たれ、ピンクの光がイクスィスを直撃する。
しかし。
「……へえ。半分ニンゲンにしてはやる」
光がおさまった時、そこには、『うお座のイクスィス』が、変わらぬ姿のままで立ち、にやにやとこちらを見ていた。全く影響を与えた様子はない。
「だが、十二星使徒の力をあなどるなよ? そんじょそこらのフリーマンごときを撃退する魔法なんか、効かないぜ」
サメのようなのこぎり歯を見せて、イクスィスが肩を揺らす。
「だけど、子どものくせに、敵を前にしても揺るがない態度は、嫌いじゃない」
直後、しゅん、とイクスィスの姿がその場から消えた。
「えっ?」
ソル・スプリングが狼狽した一瞬後、目の前に、鱗におおわれたフリーマンが現れる。ぎょっとして、なにか魔法を使わねば、と『シュテルン』をかざそうとした手が、イクスィスの手につかまれた。
軽く握っているかのようなのに、思った以上の力がこめられていて、振りほどくことができない。
「千春!」「千春くん!」
ルナ・オータムとシエロ・サマーが思わず本名を叫ぶが、ソル・スプリングの至近距離にフリーマンがいて、うかつに手出しできないのだろう。動くことがかなわない。
せめてもの抵抗に、金色の瞳でぎんとにらみ上げると、イクスィスの黒い目に、興味と喜びの感情が乗った。
「このピンチでも、切り抜ける方法を考えてる。面白いな、お前」
そしてフリーマンは、空いているほうの手で、ソル・スプリングのあごをくいと持ち上げると、息がかかる距離まで顔を近づけ、ささやくように言った。
「お前、俺の友愛者にならないか?」




