第5章:お前もアミクスにならないか?(6)
千春は紅葉と奈津里をかばうように前に出て、声の主を見つめる。
ぱっと見は、人間の男性だ。しかし、人間と確実に違うのは、その顔や、服の袖から見える肌が、青い魚のような鱗におおわれていること。
「十二星使徒が一席、『うお座のイクスィス』。以後お見知りおきを、ってな」
名乗りをあげたフリーマンは、大げさに腕を振って、やたら優雅な礼をしてみせる。
「なんで、僕たちが魔法少女だってわかったんだ?」
のどがからからにかわきそうになるのを、つばを飲み込むことでなんとか湿して、声をしぼり出す。イクスィスは、「ははっ」と肩を揺らして笑った。
「『機関』だけが、お前らの存在を感知してると思うなよ? 佐名和に限定して魔力走査をすれば、フリーマンと同じだけの魔力を持つ奴は、すぐにわかる」
つまり、千春たちが魔法少女に変身することは、既にリーデル側にも筒抜けだったのだ。
ならば、どうして今の今まで、変身していない日常生活の中で、フリーマンが襲ってこなかったのだろう。
疑問は顔に出ていたらしい。イクスィスが千春を指し示して、
「あー、なんもわかってないな、お前」
と、くつくつといやな感じの笑みをもらした。
「リーデル様はお前らに興味を持ってるんだよ。滅ぼそうとしているニンゲンの味方についてるフリーマンの子どもたちが、どれだけあがけるか、ってな」
「つまり、興味本位で試されてたってわけね、あたしたち」
紅葉が心底いやそうな表情をして、奈津里の腕を借りながら立ち上がる。
「ずいぶんと、余裕があること。あんたたちの皇帝は」
「さて、どうだろうな」
紅葉の挑発に、しかしフリーマンは乗ってこないで、両手をあげて肩をすくめるばかり。そして、差しまねくように手を振った。
「まあ、こうして会ったのもなにかの縁だ。俺にも見せてくれよ、お前らの力」
ちろりと舌を出して、イクスィスが楽しげに言う。
ここで逃げ出しても、相手はどこまでも自分たちを追ってきそうだ。千春は覚悟を決めて、『シュテルン』を取り出す。隣で紅葉もステッキをかざす。
『来たれ、春の光。まとえ、咲きほこる花。ソル・スプリングの名のもとに!』
『降りよ、秋の影。取り巻け、清涼なる風。ルナ・オータムの名のもとに!』
ピンクの光と赤い光が、それぞれ千春と紅葉を包み込み、魔法少女へと姿を変えてゆく。
イクスィスはひゅうと口笛を吹き、それから、
「おい、お前は? けっこうな魔力を感じるんだが?」
と、奈津里のほうを向く。
奈津里は言葉でこたえずに、水色の卵飾りがついた『シュテルン』を頭上にかかげ、声高に宣誓した。
『きらめけ、夏の太陽。さざめけ、打ち寄せる波。シエロ・サマーの名のもとに!』
途端、水の流れにも似た青い光が、奈津里を取り巻く。水色を基調にしたドレスに包まれ、長い黒髪が、波打つ青へと変わってゆく。瞳も、深海を思わせる蒼へと。
「シエロ・サマー、いきます!」
はじめて魔法少女に変身した奈津里、いや、シエロ・サマーは、びっと『シュテルン』をイクスィスに向けて、凜とした声を張り上げた。




