第4章:ルナ・オータムは嵐を運んでくる(11)
「だーから、俺の役目じゃないって上に言ったんだけどなー。『機関』の役人、融通きかないのよ」
そう言っている間にカルキノスの姿がぼやけ、ぼさぼさ頭に無精ひげの、室淵の姿に変わる。
「リーデルが復活して、カレンが暮らしてた佐名和を狙ってるらしいから、カレンの息子を見てろって。若作りにできるから、大卒三年目なんて無茶な設定でも、受験生の担任になれたんだぜー?」
あっ、先生それ、先生なりの精一杯の若作りだったんですか。その言葉を、ソル・スプリングはなんとかかんとかのみ込んだ。
しかし、フリーマンがこんなに近くにいて、自分を見ていたとは。それに、政府の組織とは一体どういうことか。
質問を投げかける前に、「まあ、お前ら」と、室淵がふらふら手を振った。
「早く変身解除しとけ。そこらへんに倒れてる連中がそろそろ目を覚ますだろうし、恐らく會場と十河も来る。話は日をあらためて、だ」
言われて周囲を見渡せば、気を失っていた人々が、うめき声をあげながら、現実に戻りつつある。ソル・スプリングとルナ・オータムは慌てて『シュテルン』をひとふり。それぞれピンクと赤の光がはじけて、千春と紅葉は元の姿を取り戻していた。
「千春ー! 周防ー!」
「二人とも、だいじょうぶー?」
間一髪、克己と奈津里の声が飛び込んでくる。
振り向けば、克己が奈津里をおぶって、こちらに向かってくるところだった。
「あっぶなー。行き先言わずに飛び出したのに、ここにたどりつくなんて。勘良すぎない、あんたの幼なじみ?」
紅葉が感服半分あきれ半分、といった様子で二人を見やる。しかし、千春の目は同じ光景を映していながら、心は違う思いでざわついていた。
病弱な少女と、それを背負うたくましい少年。あまりにも似合いで絵になる二人。そこに、自分の入り込む隙はまるでないように見える。
(やっぱり、僕なんて)
ゆるゆると克己たちに手を振り返しながらも、千春の気持ちは、夕暮れより早く、闇に沈んでゆくのであった。




