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第4章:ルナ・オータムは嵐を運んでくる(7)

「千春ゥ!」

 もうぬいぐるみのふりをする必要はなくなったと判断したのだろう。ポメラニアンの姿に戻ったタマが、ソル・スプリングの隣を走りながら低い声を出す。

「あの紅葉とかいう娘の気配を追うたぞ! 三丁目緑地公園じゃ!」

 何代か前の町長が、「佐名和に再び自然を」をスローガンに掲げて町政を行った結果、緑地化された公園があちこちにある。

『古くさいことを言えば、あたしらの人気を取れると思うたか! なめるな!』

 千春の祖母はそう憤慨していたが。

 しかし、奈津里の家から三丁目緑地公園までは、三百メートル以上の距離がある。たとえ紅葉が俊足だったとしても、千春が階段を駆け下りて変身するまでの時間で、たどりつけるはずがない。

「気をつけよ、千春ゥ!」

 ソル・スプリングの懸念を後押しするかのように、タマがうなった。

「あの娘、お前と同類かもしれぬ」

 その言葉に、どきりと心臓が脈打つ。自分と『同類』。家の二階から平気で飛び降りる度胸と身体能力。それが示すものは。

「ええい、ところでお前まだるっこしいぞ!」

 思考を断ち切るかのように、ぜはぜはと舌を出しながら走っていたタマが、地面を蹴って肩に乗っかってきた。

「魔法少女になってまで、律儀に道を走るな! 飛べ!」

「飛ぶ!?」

 驚いて肩のポメラニアンを二度見してしまう。

「飛べるんじゃい!」

 タマは自信たっぷりに言い切った。

「念じろ! カレン様の子ならば、それくらいでひょーい、じゃ!」

「念じろって言っても」

「『飛びたいな~、あー飛びたいな~』とかそんなもんでオーケーじゃい! いけるぞう!」

 くわっと歯を見せて叫ぶタマに気圧されつつも、胸に手を当てて、思考をただひとつにまとめる。

 飛びたい、自由に空を舞いたい、と。

 その願いにこたえるように、手元がほんのり光を放ったかと思うと、ソル・スプリングの体を取り巻き、蝶のような羽根が背中からはえた。

 それはまるで、最初から体の一部であったかのように自由に動き、羽ばたきひとつで、足が地面に別れを告げて、ふわりと浮き上がり。

 さながら春に舞う蝶のごとく、ソル・スプリングは緑地公園へと空を駆けた。

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