第4章:ルナ・オータムは嵐を運んでくる(3)
教室に、紅色の風が吹き込んだかのようだった。
赤みを帯びた髪をポニーテールに結わいた、背丈は男子としては小柄な千春とそうそう変わらない程度の、女子。くちびるを引き結び、細い眉も、やはり赤色の混じった目も、きりりとつり上がって、強気な印象を与える。
少女が教壇の横に立つと、室淵が白チョークを手に、ぼさっとした外見からは想像のつかぬ達筆で、名前を書いた。
周防紅葉
「すおう、くれはです。よろしくお願いします」
転校生が名乗り、一礼する。
彼女が頭を上げた瞬間、するどい眼光が、教室後ろ窓際の、千春に向けられた。ような気がしたが、それは気のせいかと思うような刹那のことで、紅葉はしゃんと背筋を伸ばして前を向く。
「席はー、そうだなあ」
室淵があごに手を当て教室をみやり、ひとつ、ぽつんと空いている机で視線を止める。
「會場の席が空いてるな。とりあえずそこを使ってくれや」
「はい」
千春は少しびっくりして、その席――自分の隣の席を見やった。
席の本来の主、會場奈津里は、生まれた時から病弱だとかで、ほとんど授業に出席したことがない。千春も、三年生の始業式に初めて顔を見て、それきりだ。
その奈津里の席に、あらかじめ決まっていたかのように自然な所作で、紅葉がおさまる。それを見届けた室淵が、朝のホームルームを開始した。




