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第4章:ルナ・オータムは嵐を運んでくる(2)

 鞄の中から、入れたおぼえの全くない、手のひらサイズのポメラニアンのぬいぐるみが顔を覗かせている。そう、それはまるで。

「……タマ?」

『ええい、声に出すでない! 念力通信テレパシーでお前に話しかけておるのじゃ! 頭の中で考えるだけでええわい!』

 タマをそのままかたどったぬいぐるみは、どんな姿にでもなれるという、『自在なるもの(フリーマン)』のなせる技なのだろう。母の騎士リッターは、叱りつけるような口調で続ける。

『お前、素性が割れるなと昨日言ったばかりじゃろ、気をつけぃ! 今だって、我があの連中に忘却の術をかけたのだぞ!』

『え、なんで』

 頭の中で答えると、タマに伝わったらしい。焦り半分呆れ半分の声が聞こえた。

『リーデルの手先は、ラパスで終わりではない! この佐名和にも潜んでいるやもしれん! ひょんなことから奴らにお前がソル・スプリングだとばれたら、昼夜問わず家に押しかけてきて、戦いを挑まれるぞ! それでもよいのか!?』

 それはいやだな、と千春は思う。

 なるほどそういえば、アニメの魔法少女が正体を隠すのは、変身していない時に襲われないようにするためでもあった記憶がある。

 実際、正体がばれて、『これからはいつでもお前を倒せるからな!』と敵幹部に脅されていた少女もいたではないか。

『わかった』心の中で千春はうなずく。『気をつける』

 ちょうどそこで、朝のホームルーム開始のチャイムが鳴った。ぬいぐるみのタマが、ひょいっと鞄の中へ引っ込んで顔を隠す。

「おう、おはよー、お前らちゃんと座れえー」

 ぼさぼさ頭に無精ひげ、さえないおっさんみたいな格好をしているが、その実はまだ大卒三年目という、担任の室淵むろぶち真人まことが、出席簿で肩を叩きながら、かったるそうに入ってくる。たちまち生徒たちはめいめいに作っていた会話の輪を解散し、席についた。

 生徒たちが静まり返ったのを見届けた室淵は、満足げにうなずくと、おもむろに口を開く。

「あー、今日は転校生を紹介するぞー」

 たちまち、一度は黙った生徒たちが色めきだった。

「転校生だって!」

「かっこいい男の子かな」

「いや、都会のお嬢様じゃねえの?」

「はいお前ら、気持ちはわかるが静かにー」

 そわそわと言葉を交わす生徒たちに、はしゃぐのは当然とわかっていながら室淵は一応言い置いて、教室の入口のほうを向き、声をかける。

「よーし、入ってこい」

 それにこたえて、扉が開き、転校生が踏み込んでくる。

 途端、教室中の誰もが息をのんで黙り込む。千春もその姿に目を奪われて、じっと相手を見つめてしまった。

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