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第2章:生まれた時から決まっていた運命なんてない(4)

「……はい?」

 思わず間抜けな声がもれてしまう。

 それもそうだろう。千春はダイニングから見えるリビングの仏壇を見やった。そこには、祖父母、そして、母カレンの写真が並んでいる。

 写真の中で幸せそうな笑みを浮かべている母は、少し赤めの髪に、千春と同じ明るい茶色の瞳を持つ、美人な女性だ。千春は母似だとよく言われる。だが、母があの鳥人間と同類と言われても、いまひとつピンとこない。

「『自在なるもの(フリーマン)』は、はるか昔から、ニンゲンの間に混じって生きてきた、古代種族じゃ」

 とてとてと。ダイニングテーブルの周りを歩きながら、タマは語る。

「千春、お前も学校で習ったじゃろ。メソポタミア、エジプト、インダス、中国の四大文明。火と道具を使って獣を追う生活をしていたニンゲンに、『文明』や『言語』という概念を与えたのは、宇宙からやってきた、我らフリーマンの祖先だったのじゃよ」

 宇宙。また壮大な話になってきた。千春の頭の中に混乱の花がぽんぽんと咲きほこる。

 しかし、頭の片隅で、どこか納得する部分もある。英語とスペイン語で『春の太陽(ソル・スプリング)』、ドイツ語で『シュテルン』などと、あまりにもちゃんぽんな言葉が使われるのは、フリーマンの中ではすべて「彼らの言葉」だからなのだろう。

「フリーマンは特定の実体を持たず、様々な姿に変わることができる。もちろん、性別さえも。だから我はポメラニアンの姿を選んだ。だって女の子に可愛いってちやほやされるから!」

 なにか余計な情報まで混じったが、千春は辛抱強くタマの話を聞くことにした。

「カレン様は、フリーマンの中でも位の高い、『主人マイスター』。我はその『騎士リッター』であった。カレン様は、とりわけニンゲンの世界に興味を持ち、積極的にニンゲンの間にとけ込もうとするお方であった」

「まあ、それでカレンが花見に来てる時に俺様と出会って、恋に落ちたわけだ!」

「あれはお主の一方的な一目ぼれで、一歩間違ったら立派なストーカーである追いかけっぷりであったぞ。何度、我が消そうとして、そのたびにやんわりとカレン様に止められたか」

 ぐっとこぶしを握り込む洋輔に、つぶらな瞳にできる限りの冷ややかな視線を、タマが送る。

「まあ、そんなこんなで、最終的にカレン様が根負けして、ニンゲンの女性の姿を取り、洋輔と結婚したのじゃ」

「いやーほんと、いい女になってくれたよなあカレンは!」

「しかしだな」

 ほとんどのろけ状態に入っている洋輔を無視して、タマが言葉を継いだ。

「フリーマンが、いや、カレン様がニンゲンと結ばれたことに激怒したフリーマンがおったのだ。それが、リーデルという、フリーマンの皇帝ウアンディじゃ」

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