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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第四章 ドワーフの国
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再会

 ノエルさんの家に戻ると、見覚えのある家が目に飛び込んでくる。

 ちょうど、ノエルさんの家を入ってすぐのところで、まだドアは壊されたまま破片が飛び散っている。

 玄関先にセリア様とノエルさんの姿があり、彼女たちは物音が聞こえたのか振り返る。そして、セリア様は私たちに駆け寄ってきた。

 ノエルさんは私とラウールを一瞥した後、居間に消えていく。


「瘴気が消えたけど、あなた達がやったの?」

「ラウールが」


 彼はそこで私を下す。その時、私の足元がふらつく。それをラウールが支えてくれた。

 セリア様はそこで私の状態がいつもと違うのに気づいたようだ。


「大丈夫? 顔色が悪いけど」

「大丈夫です。でも、立っているのは少し辛いかな」


 いつの間にか白い姿に変わった神鳥が、奥にある窓から外に出ていく。


 ノエルさんが椅子を持って戻ってくると、私の前に置く。

 私はお礼を言うと、そこに座る。


「よく無事だったな」


 私の頬に触れたセリア様にラウールはそう口にする。


「長老の家の地下にある地下に避難していたのよ。辺りが静かになったので出てきたら収まっていたというわけ」

「一度、ここに戻った時に倒れていた人達は?」

「大丈夫よ。家に送り届けた。時間が経てば戻ると思うわ。町のほうも随分と瘴気が薄くなったわ」

「もとに戻ったの?」

「見た感じはね」


 私はほっと安堵のため息を吐く。


「人を元に戻したのは、あなたがしたのね?」


 セリア様は唐突に言葉を切り、ラウールを見る。


「聞きましたよ。こいつの出生のこと」


 ラウールはそう苦笑いを浮かべる。


「そう。なら、気にすることもないか。あんな植物があったのね。始めて見たわ」

「おかしなことはないさ。この大陸には花の国にだけ存在する植物もあるし、俺たちが足を踏み入れていない場所もある」


 私達から一歩離れたところに立っているノエルさんがそう口を開く。


「そうかもしれないわね。でも、ありがとう。ラウールもお疲れ様。アリアもね」


 セリア様は布を被りっぱなしにしているアリアをちら見した。

 アリアがラウールの前に既に姿を現していることで、ラウールに見られたことは察していたのだろう。


「でも、あの時はアリアの魔法で外に連れ出してという意味だったのに、びっくりしちゃった」

「俺も、魔の沼に連れて行ってもらってから気づきましたよ。あの時、即座に連れて行ってもらえばよかったのかもしれません」


 ラウールは苦笑いを浮かべる。

 私は言われて気づいた。

 確かにそうしたらもっとスムーズに逃げられたはずだ。

 セリア様のほうにはノエルさん、私達のほうにはアリアがいて、だからこそ、私達だけで逃げるようにと推奨したのだろう。


「私もそのつもりだったんだけど、美桜が瘴気で侵されていたから、長老のところには連れて行けないし、逃げ場を探っているうちに飛び出しちゃったんだもん。結果的にはそれで良かったんだろうけど。美桜を魔法で治しても、再び瘴気の被害に遭うだけだろうしね」


 アリアは未だ布を巾着のようにして被った状態で、肩をすくめる。


「それはそうと、あなたもその布を取れば?」

「嫌よ。私の正体はまだ知られていないから、こうやって隠しておかないといけないの」


 ラウールにだろうか。

 セリア様は悪戯っぽい笑みを浮かべると、腕組みをしてラウールを見る。


「それはどうかしら? ラウールは見当がついたんでしょう?」

「一応は」

「何で分かるの?」


 アリアは驚きを露わにラウールを見る。


「この国での転移魔法を使えて、セリア様に匹敵する程の強い魔力を持つ青い目の人を俺は一人しか知りません。俺の勘違いでなければ、昔会ったことがありますよね。俺が母さんと長老を尋ねた時に」


 アリアはそっと唇を噛み、首を縦に振る。彼女は被っていた布を解くと、金の髪が夕日を受け、優しく煌めいた。

 誰か分かっていても、ラウールははっきりと姿を視野に収めたことに驚いたのか、アリアを見る。

 そして、苦笑いを浮かべていた。


「久しぶりね」


 アリアは再び唇を噛むと、言葉を漏らした。

 ラウールは会釈する。


「知り合いなの?」

「大したことはないの。エペロームに住んでいたときに顔を合わせたことがあるだけよ。そんなことより、話をしないといけないことがあるでしょう」


 たたみかけるように言うアリアに、私は口元を緩めると頷いた。そして、ラウールとアリアを見る。


「花の国に行ってきました」


 私の言葉にセリア様達は大きく目を見開いていた。

 私は一通りできごとを話す。沼に神鳥がいたこと。彼女を助けたら、私のお父さんから国に戻る力を預かったこと、花の国は要塞のようになり、入れなかったこと、ラウールに話をしたことも含めて。二人とも驚いたようだが、否定するようなことは何も言わなかった。


「彼がそんなことをあの鳥に託していたのね。ということはこれから入る方法を見付けないといけないのね。認められるといっても、どんな条件下なのかは分からないし、待っているよりは手を尽くしたほうがいいわよね」


 セリア様は銀の髪をかきあげると眉根を寄せた。


「これといって長老に会う用事はなくなったみたいね。後はどれくらいのものが瘴気から回復しきってないものがいるか」


 そのとき、私は眩暈を覚え頭を右手で支えた。


「植物を呼び出した影響?」

「そう思うわ」


 私の代わりにアリアが返事をする。


「一度、ルーナに帰りましょうか」


 私は顔をあげると首を横に振る。

 私にはまだしないといけないことがあると思ったのだ。


「セリア様たちは国の状態を確認したんですよね。なら、まだ瘴気から回復していない人もいるんじゃないですか? だったら私が」


 私は立ち上がろうとするが、右足が体重を支えきれずに、よろめく。それをセリア様が支えてくれた。


「あなたは本当にティメオによく似ているわ。でも、瘴気の源を絶てば、あとはアリアの回復魔法でどうにかできるはず」

「ローズじゃなくて?」

「アリアも回復系の魔法が得意なのよ」


 優しい笑みを浮かべるセリア様とは違い、アリアが心配そうに私を見る。

 疲弊した私を気遣っているのだろう。


「美桜にこれ以上力を使わせるわけにはいかないと分かっているけど」

「心配なら、俺がしばらくついてますよ」


 アリアはラウールの言葉に頷いた。


「分かった。とりあえず美桜は寝ていなさい。美桜のことをお願い」

「でも、お城に帰らないと。もう夕方だよ」

「少しくらいなら大丈夫だよ」


 ラウールはそう答えると、頷いた。


「ノエル、まだ回復していない人がいたら、眠らせて長老の家に運んでほしいの」

「分かった。あとで合流しよう」


 ノエルさんはそう言うと姿を消す。


「私達も行きましょうか。美桜をアリアの部屋に送りましょう」

「それくらいなら大丈夫ですよ」


 少し休んだことで体も回復したし、これ以上手間を取らせてはいけないと思ったのだ。


「きつかったらラウールにでも運んでもらえばいいわ。でも、無理はしないでね」


 セリア様はそう言い残すと、アリアとセリア様が転移魔法で姿を消した。


 椅子から立ち上がろうとすると、ラウールが手を差し伸べてくれた。


「抱えようか?」

「いいよ。悪い」


 私はだるいのにも関わらず、さっきのことを思いだし、顔がほてるのを自覚する。


「気にしなくてもいいのに」


 少しだけなら自分で歩いたほうが心臓に悪くない。

 私はラウールに支えてもらい、アリアの部屋に到着する。そして、腰を下ろすと、靴を脱ぐ。

 ラウールが布団を抱えてくれ、何とも言えない緊張を味わいながら、足をベッドの上に載せた。

 そして、横になると、ラウールが布団をかけてくれた。


 視線のやり場に困り、窓の外を見ると、もう太陽が殆ど沈んでしまっている。

 何とか一日以内には解決できたようだ。

 あとは誰も後遺症が残らなければ言うことはない。


「眩しいならカーテンを閉めるよ」

「自分で締める」


 そう言いカーテンを引くがうまく手に力が入らない。

 ラウールは私に断ると身を乗り出し、窓とカーテンを手際よく閉める。


「少し眠るといいよ。何かあったら起こす」

「ありがとう」


 私はお礼を言うと、目を閉じた。

 もういろいろと限界に来ていたのか、その直後には意識が途絶えていた。


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