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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第四章 ドワーフの国
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手がかりを求めて

 それから二日後はロロとポワドンに行く日だった。いつもはラウールやルイーズが迎えに来てくれるが、その日は勝手が違っていた。

 セリア様が一緒に来ることになっているためだ。どうやらこの前ラウールが来た時、その話もしていたようで、自分が送り迎えをすると伝えたようだ。

 ロロとどこで待ち合わせをするか打ち合わせをしていたようだ。


 セリア様の呪文でたどり着いたのは、ブレゾールから少し離れた場所にロロの持つ小屋の前だ。


 私がその小屋をノックすると、ロロが顔を覗かせた。


「早かったな」

「ロロもね」


 まだ待ちあわせ時刻よりかなり前だ。ロロの視線が私からそれ、隣にいる銀髪の女性に移る。

 セリア様はロロと目が合うと、目を細めた。

 一方のロロは緊張からか恐怖からか、心なしか顔を引きつらせている。


「初めまして。ラウールから聞いていると思うけど、これから私が一緒に同行します。私はこの子の護衛をすることになったのよ」

「護衛って本当に?」


 ロロは戸惑いを露わにしながら、私を見ている。

 私は頷いた。


「さあ、行きましょう」


 彼女はロロの戸惑いをよそに、彼が戸締りをするのを待ち、転移魔法を発動した。

 ポワドンの洞窟に来ると、彼女はふとため息を吐く。


「いつもこの洞窟を通っているの?」

「他に行く道があるんですか?」

「方法もなくはないけど、たまにはいいか」


 セリア様は私をちらっと見ると、先導するように歩き出した。

 私がその洞窟をつかわずにポワドンの中に入る手法は持ち合わせていないため、恐らくアリアに関することだろう。

 だが、ロロと一緒にいる手前、聞き出せなかった。


 ポワドンの洞窟を抜けると、マテオさんが出迎えてくれた。

 だが、その彼の表情は先頭をきって出てきたセリア様を見た途端引きつっていた。

 小さな悲鳴のような声をあげ、後退する。そして、岩場や森から幾人かのオーガが飛び出してきた。

 彼らがセリア様を見て、一歩引く。


 そんな状況にもセリア様は至って普通で、にっこりとほほ笑んだ。


「この子たちが用があるらしくて送りに来たの。この子たちを危険な目に合わせたらただじゃすまないから忘れないでね」


 周りのオーガ達は何か感じるものがあるのか後退している。


「私はレジスのところにいるわ。用事が終わったら呼んでね」


 彼女はそう言うと、レジスさんの神殿に向かって歩き出した。その彼女の後姿を皆が目で追う。


「何か、すごいな」


 私はロロの言葉に頷いた。


 私とロロはマテオさんに案内をしてもらうことになった。


「どうしてセリア様にあんなに怯えているんですか?」


 私の問いかけにマテオさんは苦笑いを浮かべる。


「魔法が効かない私達に対して、魔法を貫通させられる妖精だからでしょうね。この国で暴れて、彼女に言葉通り痛い目に遭わされたオーガもいますよ。それが原因で噂が一人歩きしている感もありますけどね。私もその一人ですが」


 魔法が効かないからこそ、貫通させられるのは怖いのかもしれない。

 アリアも同じような存在なのだろうか。


 私達はマテオさんと別れると、いつものように薬草の確認をはじめる。

 オーガ達が手伝ってくれた事もあり、地図ももう三分の二近くが完成しつつある。

 最初に比べると随分詳しくなったが、私の知識はロロには到底かなわず、危険な目に遭うのであればポワドンに行く事自体を控えようとも考えた。だが、あの国なら大丈夫だと言われたため、私はセリア様と一緒に行くことになったのだ。


「あの人が護衛ってことはずっとついてくるってことだよな」

「そうだと思う」

「あの銀の魔女が護衛ってのもすごいな。これでもう二度と攫われかけることはないだろうな」

「だといいけどね」


 彼女に匹敵するアリアがずっとついているのにも関わらず何度もされかけているわけで。アリアはあまり魔法を使いたがっていないということもあるのだろうけど。


「ロロはセリア様に会ったことない?」

「初対面だよ。ラウールの話を聞く限り、もっと怖い感じだと思っていたけど、意外に普通だな」

「リリーは大変そうだけどね」


 私がリリーの状況を教えると、彼は苦笑いを浮かべている。

 私はそんな彼を見て笑うが、顔を引き締めた。

 私が何者か気づいている彼には言っておかないといけないと思ったのだ。


「セリア様が戻ってきて、いろいろ聞いたの。もう少ししたら全て話をする。だから、待ってほしいの。ルイーズにもそう言おうと思っている」

「分かっているよ。そんなに気にしなくていい。ルイーズにも言っておくよ」

「ありがとう」


 ここ数日、どうしようか迷っていた。本当は花の国の民だとここで伝えようかとも思った。だが、今の段階では重荷になるだろう。せめて、セリア様の探そうとしている花の国を見つけ、自分の気持ちを整理できたときには話をしようと決意した。


 だから、今の私にはもう一つやらないといけないことがある。花の国の手掛かりを探ることだ。彼の父親は数少ない花の国の民に直接会った人物だった。


「あと、ロロに聞きたい事があるの」


 彼は首を傾げる。


「花の国の民に会った時の話を聞かせてほしいの。どんな些細なことでも良い」


 彼は驚いた様子もなく、顎に手を当てると眉根を寄せた。


「俺の父親が花の国の民にあったのは、俺が産まれる前だった。お前と一緒に採取した花の種を取りに行こうとしたとき、父親が森の中で人が倒れているのを見たらしい。その人は重傷を負っていて、父親がメモを預かってすぐに息を引き取ったから、詳しいことは何も聞けなかった、と。十六、七年くらい前だったかな」


 私の年齢と一致することに、ドキッとする。

 攻め込まれた時に逃げ出したのだろうか。


「俺もずっと知らなかったんだよな。あのメモの存在を聞いたのは俺がある程度大きくなってからだった。それまではずっと隠していたらしい」

「ロロとこの前行った時、特別な道具を使っていたみたいだけど、あの森には外から転移魔法で入れないの?」


「あの場所は俺たちの生まれるずっと前からあんな感じだよ。ただ、あの石を使わなくても行けないことはないと思う。ルイーズやラウールなら、結界を強行突破できるかもしれない。ただ、俺たちはあの国に住んでいる以上決まりごとは守らないといけないし、基本的に許可は下りるから、そこまでする必然性もないけどな。結界を破ればすぐに分かる。それこそ強い魔力も必要だからな」


 王がその人を転移魔法でおくり届けたのだろうか。花の国から出る分には転移魔法が使えるのだろうか。それとも外から何らかの手法で入ったのだろうか。


「何か思い出したら知らせるよ。父親の遺品にもなにか書いてあるかもしれないから調べてみる」

「ありがとう。その人の亡骸はどうしたの?」

「地中深くに埋めるか消してほしいと言われたらしい。だから、希望に沿うようにした、と」


 彼は言い難そうにそう告げる。


「そっか。教えてくれてありがとう」


 私はそう彼にお礼の言葉を綴った。

 私達はそこで会話を中断し、本来の役目を遂行することにした。


 昼からは地図の確認することになっていた。昼食も兼ねて、レジスさんの宮殿に行く。

 そこにはセリア様とレジスさんの姿がある。

 二人の脇には幾重にも本が積まれており、何らかの調べものでもしていたようだった。

 地理や歴史関係の本だったため、花の国のヒントでも探っていたのかもしれない。


 昼食にスープに果物をごちそうになり、私とロロは地図の確認に入る。

 セリア様とレジスさんはしばらく本を開き語り合っていたが、何か用事を主出したのか部屋を出ていった。

 私はその日のやるべき事を終え、ポワドンを後にした。


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