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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第四章 ドワーフの国
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昔と今

 私とラウールはルーナの入口に到着する。


「俺も城に行くよ。セリア様に話をしておきたいことがあったんだ」


 私はラウールと一緒に城に戻ることになった。二階に行く階段を上った時、目の前を金髪の少女がかけてきた。リリーは私とラウールを見て目を見張ると、私の背後に身を潜めた。


「少し隠れさせて」

「こんなところで無理だよ」


 事情が呑み込めない私は、戸惑いを露わにする。

 ラウールは苦笑いを浮かべている。


「セリア様にしごかれていたのか」


 リリーは苦い表情を浮かべると、唇を噛んだ。

 その時、私とラウールの目の前に銀の髪の女性が立ち塞がる。彼女は不敵な笑みを浮かべている。


「リリー、まだ今日のノルマは終わっていないわよ」

「あんなの無理です。もうくたくたなの」


 彼女は私の肩をつかむと、そこから顔を出していた。

 セリア様とリリーの板挟みになり、妙に居ずらいが、逃げるわけにもいかない。


「そんなことでどうするのよ。いずれしないといけないんだから、今のうちにしておいたほうがいいでしょう」


 ラウールがリリーからメモのようなものを受け取り、中身を確認していた。


「まだこんなのをやらされているのか。何年前からだよ」


 私がそのメモを覗き込むと、なにやら特殊なワードが記されていて一見意味が分からない。

 ラウールがそれに気づいたのか簡単に説明してくれた。


「まず、これは魔力のコントロールをするんだよ。彼女の指定した魔力の量で魔法を発動させる必要がある」

「ラウールもしたの? 指定した量って難しそうだね」


 私は料理の時の分量をイメージし、そう言葉を紡ぐ。魔力の量なんて測りで測れるもでもないからだ。


「俺はこの辺りのは基本的にできるよ。例えばこの紙を落とさないように風の魔法を使うんだよ」


 ラウールは紙を上に投げる。それがゆっくりと地面に落ちてくるが、動きが止まる。その紙が僅かに震えている。


「この紙はすごく脆くて、魔力を出し過ぎたら紙が裂けたり、他の場所に吹き飛んでしまう」

「ラウールは器用だね」

「俺はね。リリーに同じことをやらせたら、そのまま散り散りにするよ」

「そんなことない」


 リリーは私の背後で呪文を詠唱しようとしたが、ラウールが制する。


「破るんだから、もっと強度の強い紙で試したほうがいいよ」


 リリーは頬を膨らませると、ラウールを睨んだ。セリア様が一枚の紙をラウールに差し出した。

 受け取ったラウールがそれをリリーに渡す。


「少し離れていろ」


 ラウールに言われ、セリア様の傍まで下がる。彼も同様にリリーと距離を置いていた。

 セリア様も立っている位置をずらしたため、リリーの正面には誰もいない状態だ。


 リリーはそれを頭より高い位置に掲げ、手を離す。そして、呪文を詠唱した。

 一枚の紙が無数の塵となり、辺りに拡散した。

 リリーは泣きそうな顔でうめき声をもらす。目線を足元にずらし、頭を抱え込んだ。


「言われたとおりにやっているのに」


 その時、リリーの体に影がかかっているのに気付いた。そこに立っていたのは銀髪の男性だ。彼の髪にはリリーが飛ばしたと思われる紙の残骸が付着していた。

 リリーが顔を引きつらせる。


「あの、これは」

「きちんと掃除をしてくださいね」


 アランがにっこりとほほ笑んで言葉を紡ぎ、頭についた紙を落とすことなく自分の部屋のほうに消えて行った。


 リリーはその場で凍りつき、セリア様はため息をついている。


「掃除をするか」

「私がするからいいよ」


 歩きかけたラウールを制し、ほうきと塵取りを廊下の突き当たりにある掃除道具入れに取りに行く。だが、既に紙はまとめられており、私はそれを塵取りに収めると、近くのゴミ箱に捨てた。掃除道具を片付ける。

 当のリリーはより強いショックを受け、その場に蹲っていた。


「今日、何回目?」

「百回くらい」


 ラウールの問いかけにリリーは力なくうな垂れた。


「どうしてリリーはそんなにコントロールができないのかしら」


 セリア様は深々とため息を吐いている。


「そんなに魔力のコントロールって難しいの?」

「全く」

「簡単ね」


 ラウールとセリア様がほぼ同時に口にする。

 リリーの目に涙が浮かぶ。


「でも、リリーって普通に魔法を使えているし、そんなに違和感がない気がするけど」

「それは使えないものをわざわざ使わないし、普段は私が魔法で抑え込んでいるのよ」


 魔法ってそういうこともできるんだ。リリーの表情はものすごく暗い。


「今から訓練するんだよな。もう少し時間があるから、俺も付き合ってやるよ」

「ラウールはそんなの必要ないじゃない。早く帰りなさいよ」

「あら、いいじゃない。たまにはね」


 リリーは顔を引きつらせ、ラウールにそう促す。

 だが、セリア様の一声でラウールも一緒に訓練するのが決まったようだ。


「訓練って何をするの?」

「お前も着たらいいよ。俺は一瞬で終わるから」


 ラウールの言葉に、リリーは頬を膨らませた。


 セリア様に導かれ、森の中にある草原に連れてこられた。

 セリア様が呪文を詠唱し、私を閉じ込めたあの透明な箱に二人を閉じ込める。ただ、二人とも立って歩けるほどの大きさはある。


「この箱って壊せるの?」

「それより強い衝撃を与えればいい。この剣でもいいし、魔法を使ってもいい。ただ、今は魔法の訓練の時間だから、魔法を使うよ。少し離れていてくれ」


 私は言われたとおりに距離を取る。


 ラウールが呪文を詠唱すると、破裂音とともに彼の体を囲んでいた透明な箱が消失する。あっという間の出来事だ。


「やっぱりラウールは早いわよね」


 セリア様はそう満足げに告げる。


 一方のリリーは何度も呪文を使っているが、うまく壊せないようだ。

 その中で唱えた魔法は箱の壁に吸収されていき、箱はびくともしない。

 ラウールのときは一瞬で崩れ去ったのにも関わらずだ。


「要は使い方なんだよな」


 ラウールは私の傍に来ると腕組みをした。


「闇雲に壊そうとするならセリア様以上の魔力で破壊するしかない。そうするにはかなりの魔力を消費するし、難しい。そもそも今のリリーには難しい。だから、一極に集中して魔力を放出して、破壊してしまえばいい。でも、細かいコントロールもできないから、ああなるんだよ。魔力の潜在能力はセリア様並に高いのにな」


「それってセリア様みたいになるってこと?」

「あくまで可能性はね。ただ、どうもコントロールがうまくいかないらしい」

「部屋で埃を集めたりとかはしていたけれど。あれはコントロールじゃないの?」

「それだけは昔から何度もやらされていてできるようになったみたいだよ。あいつの魔法は大がかりなものが多いのも影響しているのかもしれないな」


 確かにリリーが魔法を使った時、大掛かりなものが多かった気がする。ポワドンのときも、ラウールに会った時もだ。逆にラウールはかなり器用に使いこなしているという印象だ。


 リリーはあいかわらず魔法を使っているが、まだ壊れそうな気配もない。


「でも、セリア様並だったら、ジャコに封じられないよね。セリア様が抑え込んでいるから封じ込められたの?」

「それもあるし、あの魔法はどれだけの能力を使いこなせるかに依存するんだよ。魔力の大半が眠った状態だから、ああやって封じ込められたんだ」


 私はラウールの言葉で納得した。


「だから一点に集中しなさいと言っているのに。あなたの強度はラウールよりもかなり低く抑えているのよ」


 その時、衝撃音が辺りに響き、リリーがその場に倒れていた。

 彼女の周りにあった箱が消滅している。


「箱全体を壊したな。あれは」


 セリア様がリリーにより、彼女の状態を確認してた。


「中途半端な強度にし過ぎたわ。異常はないみたいだけど、リリーの部屋に直接送り届けるかな」

「抱えましょうか?」

「たまにはそれもいいかもしれないわね」


 ラウールはリリーの体を横抱きにする。

 小柄な彼女であろうとも、あっさりと持ちあげられるものなんだと感じていた。


「もう随分と身長に差がついたのね。昔はリリーのほうが高かったのに」

「昔の話ですよ」


 そう言うと、ラウールは笑っていた。


 彼女が転移魔法を使うと、セリア様の部屋に到着した。そして、ラウールはリリーを部屋に送り届け、彼女と話をした後帰っていったようだ。

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